第4話 とある双子の答えあわせ
「まさかと思うけど……それって、僕?」
なんて寝ぼけたことを言うこの間抜けは、俺の双子の兄、千夜である。いい加減頭が痛くなりそうだ。
驚いたような、もしくは慌てたような表情のこの馬鹿兄貴には、色々言ってやらなくてはならない。
俺は軽く溜め息をつきながら、兄貴に真相を教えるべく口を開いた。
「そもそも、兄貴だって人前じゃ十分無口だ」
「……」
俺の言葉に反論できなかったのか、兄貴は今日初めて黙りこんだ。さて、面倒ではあるが、意味が分かっていない兄貴のために説明してやるとしよう。
まず第一に言わなければならないことは、俺の兄千夜は人見知りが激しい、ということだ。俺の前ではこの通りおしゃべりなわけなのだが、人前に出ると、まるで借りてきた猫のように大人しく無口になってしまう。それ故に、クラスの連中には俺と同じく無口な奴として通っている。
第二に、俺は女子が嫌いだ。つまり、いくら女子が重そうな荷物を持っているからといって、俺が自ら進んで手伝ってやるなんてことはまずあり得ないのだ。
「……確かにそれは一理あるかもしれないけど、それが本当に僕に宛てた手紙だって何で言えるのさ?」
「……」
ここまで言ってもまだ分からないのか兄貴。
「そもそも、僕は女子生徒の荷物を持ってあげたことなんて一度も……」
確かに、兄貴の言っていることは事実だ。
だが忘れてもらっては困る。
二週間ほど前、俺たちは昼休みに偶然、重そうな荷物を持っている女子に出くわしたのだ。
とは言っても、その女子は生徒ではなかった。
恐らく皆も気が付いていることだろう。
そう、その女子とは……教師であった。
名は吉永久美子。俺たちの担任教師で国語担当の二十五歳。派手ではないが、それなりに整った顔立ちで、小柄な可愛らしい先生として人気だ。
あの日の俺たちは、いつも通り静かな場所で昼食をとろうと、屋上に向かっていた。そんな時に幸か不幸か、件の吉永先生に会ってしまった。
先生は重そうなプリントの山を落とさないように必死な様子で、職員室を目指していた。しかし――
「あ!?」
憐れにも先生は、ふとした拍子につまずいてしまい、手に持っていたプリントの山は崩れ落ちてしまった。廊下には大量に紙が見るも無残に散乱していた。
あの時は流石の俺も同情したな。人見知りが激しいあの兄貴ですら、思わず声をかけてしまうくらい悲惨な状況だった。
今思えば、あれが一番のきっかけだったのだろう。
「……あの、吉永先生……大丈夫ですか?」
「え、姫宮くん?」
正直言って、俺はあの時の二人には関わりたくなかった。なぜなら、昔母親が観ていたベタな恋愛ドラマみたいな展開が待っていたからだ。
兄貴は普段人見知りが激しいくせに、この時だけ勇気を振り絞って先生に声をかけ、プリントを拾い集めるのを手伝い始めた。
先生はかなり驚いていたな。それはそうだ。入学してから全く口を開かなかった生徒が自ら声をかけてくれたんだから。
「あ、ありがとう姫宮くん」
そう礼を言い、頬をうっすら赤く染めたあの時の先生の表情を、俺は違う意味で一生忘れないだろう。
あれは確実に兄貴に惚れた顔だった。思い返すも嘆かわしい話だ。兄貴に惚れたって、決して報われないのに。
この時の俺が一体何をしていたかというと、兄貴の分の弁当を持って、二人を無視して屋上に行ってしまった。結局昼休みが終わるぎりぎりまで屋上に顔を出さなかった兄貴にせめてもの処置として、兄貴の弁当も俺が完食しておいた。
……残したら母さんがうるさいからな。もちろん、後で兄貴がうるさかったということは言うまでもないだろう。(お腹がすいたー、とうるさかった兄貴には放課後パンを買ってやった)
あれ以来、吉永先生はやたらと兄貴に気をかけるようになったわけなのだが、それに対しての兄貴の感想はというと、
「教育熱心な先生だよねー、吉永先生って。明日の小テストの予想問題、教えてもらっちゃったよ僕」
ちょっと待て。それはひいきというものじゃないのか? 気づけよ馬鹿。(その結果、兄貴は見事小テストでは満点をとった。ただし俺も)
以上で説明は終わりだ。これで兄貴も理解しただろう。差出人『Y』の正体は吉永先生。そして先生が淡い恋心(?)を綴った相手とは、俺ではなく兄貴である。
さあ、差出人の正体がわかったのはいいのだが、当の兄貴はどうするのか。気にならないこともなくもない。
「ごめんなさい、吉永先生。先生ならきっと、僕よりもいい人を見つけられるよ」
「……」
俺に言うな俺に。
心の中でそう突っ込みながらも、兄貴が妙にしょんぼりしてるので、口には出さないでおく。そうこうしている間にも、そろそろ五限の終わりを知らせるチャイムが鳴るだろう。
――次の六限は確か……。
「次、国語だ。出るか?」
兄貴はそれを聞いてかすかに身じろぐと、いまだにしょんぼりしたまま口を開いた。
「出る」
出るのかよ。律儀な奴だな。
仕方がないので、俺もなんとなく出席することにする。俺が立ち上がって扉に向かおうとすると、兄貴は慌ててついて来てこう言った。
「そういえば、何で一夜が僕宛ての手紙を持ってたのさ?」
至極まっとうな疑問をぶつけられた。この疑問にやっとたどり着いた兄貴をある意味褒めてやりたい。俺は兄貴の質問に答えてやるべく口を開いた。
「靴箱に入ってた」
第1章終わり
2013/1/13 一部改稿しました。