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とある双子の非日常  作者: 吹雪
第8章 双子の災難
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第36話 とある双子の欠席

 今回は最初だけ父冬夜の視点です。

「――おーい、双子はどうした?」

「来てませーん!」


***


「姫宮先生、ちょっとお尋ねしたいことがあるのですが……」

「はい、どうかしましたか?」


 これは、あの若干修羅場になりかけた料理対決から、ちょうど五日経った月曜日の朝の出来事だ。


 あと五分ちょっとで、俺が担当している一年一組――つまりは俺の息子たちである千夜と一夜のクラスの授業が始まる。俺は教科書と出席簿を持って、席を立ったところだった。


 そんな時に、俺に突然声をかけてきたのは、今から向かおうとしていた一年一組の担任――吉永先生だった。


 まだ二十代半ばらしいから、どこか幼いイメージがあるものの、生徒思いでとてもいい先生だと俺は認識している。


 そんな吉永先生が、こんな時間(授業前)に一体何の用なのか。俺はなぜだか嫌な予感がした。


「実は、姫宮くんたちがまだ登校して来てないんです。弟の一夜くんだけだったらまたサボりかなって思うんですけど……お兄さんの千夜くんまでいなくて……」

「……」


 やっぱりそうきたか。何となくそんな気がしたんだよな。


 吉永先生は、可愛らしい幼い顔を心配げに歪めてそう説明した。


 ……ああ、千夜……一夜……。お前ら、マジでいい加減にしろよこの馬鹿息子どもめ!! お前らが俺の息子だってことは先生たち全員が知ってんだぞ!? 俺の心証がわるくなったらどうしてくれる!!


 俺はそう心の中で毒づきながら苦笑いした。


「そんなに心配することはありませんよ。多分、バスに乗り遅れたとかじゃないでしょうか?」

「でも、二人とも朝礼の三十分前には登校して来てるんですよ? バスを一本乗り遅れたぐらいで、こんなに遅くなるものでしょうか?」

「……」


 ……先生、そこまでうちの馬鹿息子どものことを把握してるのかよ。逆にびっくりだよ。


 俺は意外なぐらいに詳しい吉永先生に驚かされながらも、頭のすみでは一限目の授業のことで頭がいっぱいだった。


「……えっと、とにかく、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。千夜のほうは天然だからちょっと不安ですけど、どうせしっかり者の一夜が一緒にいることですし」

「……そう、ですね。分かりました。突然すみません」

「いえいえ、こちらこそ。うちの馬鹿息子たちを心配して下さってありがとうございます」


 そう互いにお辞儀をしあって、俺はようやく職員室を出ることができた。吉永先生は今日の一限は授業が無いようだった。


 俺は廊下を歩きながら、左腕に付けている腕時計で時間を確認した。なんとジャスト一分前。


 慌てて走り出すが、多分ギリギリ間に合わないなあと思いながら階段を駆け上がった。


***


「先生遅いよー」

「はあ、はあ、ごめんごめん。俺もそろそろ年かもなー」

「先生オヤジ臭いよー」

「ほっとけ、どうせ俺はオヤジだよ」

『あははは!』


 俺は結局、始業のチャイムが鳴り終わったところで目的の教室に駆け込んだ。


 乱れた息を整えながら教卓に上がると、何人かの生徒たちからからかいの声があがった。それに適当に応えながら檀上で出席簿を開いて教室全体を見渡した。


 このクラスは担任である吉永先生の方針なのか、随分と小綺麗に掃除がされている。床に学生鞄や教科書などを置いていないところも好ましい。


 クラス全員がきちんと授業の準備をして席についているところもまたプラス評価だ。


 ところが、全体を見渡したところで二つの空席を発見した。


「――おーい、双子はどうした?」

「来てませーん!」


 俺の授業だけは毎回欠かさず出席しているはずのあの双子が、まだ登校して来ていなかった。これには流石の俺も驚いた。


 すぐにでもメールなり電話なりしたいところだが、今は生憎授業中だ。俺は気にしながらも平静を装った。


「仕方ねーな、あいつら。俺の授業だけは皆勤賞狙えるかと思ってたのになー」


 俺はそう冗談を言って生徒たちを笑わせながら、教科書を開いて授業を開始した。


***


『――おかけになった電話番号は、現在使われておりません』

「何でだよ!?」


 一年一組の授業が終わった後、俺はすぐに教室を出て、無人の社会科室にて千夜に電話をかけた。


 ……ところが、全く繋がらなかった。一夜のも同じだった。


 繋がらないどころか、『現在使われておりません』って一体どういうことなんだよ!! 壊れたのか!? しかもどっちも!? どんだけシンクロしてんだよ!!


 俺は心の中でそう突っ込みまくりながら、今度はメールをしてみた。しかし、やっぱり駄目だった。送ったメールはご丁寧に送り返されてきて、思わず盛大な溜め息をついた。


「……何で繋がらないんだよ……。本当に大丈夫なのか、あいつら……」


 俺は肩を落としてそこら辺の椅子に腰かけ、今度は別の番号にかけた。


『プルルルル……もしもし、姫宮かぐやでございます。ご用件をどうぞ』


 まるで留守電だと勘違いしてしまいそいになる第一声だが、ちゃんと繋がっている。俺の最愛の妻かぐやは、いつもこう言って電話に出るのだ。


「……実はさ、千夜と一夜がまだ学校に来てないんだよ。何か知らないか?」

『知りませんね』


 即答されてしまった。もう少し考える素振りぐらい見せろよ。


「普通に出ていったのか?」

『ええ、普通でしたね。千夜にいたっては、"一限目は父さんの授業だからちゃんと出なきゃいけないよ、一夜"……などと言っていましたから』

「……マジか」


 だったら何でいないんだよ。俺は今朝から一度も見ていない、かわいい(?)息子たちを思い浮かべて、また考え込んだ。


『携帯に連絡は?』

「もうしたよ。どっちも繋がらなかった。多分、壊れたんじゃないのかと思う」

『……そうですか』


 流石のかぐやも心配になってきたらしい。彼女なりに息子たちを可愛がっているから、やっぱり不安なのだろう。


『……分かりました。私、とりあえず帰宅することにします。学生さんたちには申し訳ありませんが、本日の講義は全て休講です』

「いいのか?」

『ええ。講義などよりも、あの子たちのほうが大事ですから』


 相変わらず行動力があるな。そういうところも、昔から何も変わっていない。


『冬夜さんは、そのまま通常通りに勤務していて下さい。もしかしたら遅れて登校するかもしれませんから』

「分かった。じゃあまた後で」


 俺はそう言って電話を切った。二限目は授業がないから、まだ少し余裕がある。


「さあて……あいつら、一体どこで油を売ってんだか……」


 俺はとりあえず、千夜たちがせめて学校に電話をかけてくれることを祈りながら、職員室に戻っていった。


***


「姫宮先生、息子さんからお電話が」

「本当ですか!?」


 ようやく千夜から学校の職員室に電話がかかってきたのは、午前の授業が終了した昼休みのことだった。


 それまで息子たちの安否(?)が気になって上の空だった俺は、電話をとった先生から奪い取るように受話器を受け取り、耳にあてた。


「千夜か!? 一夜か!?」

『千夜だよ父さん、今大変なんだよー!』

「どうしたんだ!? 何があったんだ!?」


 周りの先生方の視線など気にすることなく大声を出した俺に、千夜は焦りに満ちた声を返した。


 その声色からただならぬ気配を感じて、俺は更に表情を固くした。そして千夜の次の言葉を聞き逃さないように耳を強く受話器に押しつけた。


 千夜の次の言葉は、俺の予想の斜め上をいくものだった。


『僕たち、今警察にいるんだ』


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