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とある双子の非日常  作者: 吹雪
第7章 料理は気持ち
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第30話 とある双子の疑問

「――ん? 秋本先生は確かに、俺と母さんの後輩だぞ?」

「言うのが遅いよ!!」


 その日の夜。晩御飯のハンバーグを食べた後、僕と一夜はリビングのソファーに座って、父さんと向き合っていた。


 理由はもちろん、母さんと秋本先生の関係を聞くためだ。


 父さんは特に驚くこともなく、ソファーにもたれかかりながら笑っていた。


「遅いって言われてもな……。そんなに変なことでもないだろう? 大抵の教師は、母校に帰ってくるものだぞ?」

「そんなことは分かってるよ。でも秋本先生がまさか父さんたちの後輩だったなんて……」


 僕は夏休みの補修二日目に起きた、泥棒事件を思い出していた。父さんは知らないけれど、父さんのパスケースを盗んだのは秋本先生だった。


 だから僕たちはあの事件以来、秋本先生を常に警戒していた。あちらも同じだったみたいで、僕たち兄弟を徹底的に避けていた。


 それなのに今日、僕たちはまたしても秋本先生と(間接的に)関わってしまった。一体どうしたことだろう。


「……にしても、秋本はまたしてもかぐやに挑戦するのか……ある意味尊敬するぜ」


 父さんは面白そうにニヤニヤと笑ってそう呟いた。どうやら、父さん的には面白いことらしい。


「懐かしいよなぁ。昔はよく二人が俺に料理作ってくれてさ、どっちが旨いかって聞かれたんだよ。やっぱ、気持ち的に勝ってる分かぐやのほうが旨かったな」

「……」

「……」


 父さんが懐かしそうに語る思い出話を聞いている間、僕と一夜は呆れた表情で無言だった。


 ――秋本先生可哀想……。


 思わず嫌いな秋本先生に同情してしまうくらいに、先生は不憫だった。


 しかも泣けることに、父さんは未だに秋本先生の想いに気づいていないらしい。


「父さんって、罪な男だよね」

「……はあ? どういう意味だよそれ」

「……父さんが気にすることじゃねえよ」


 首を傾げて怪訝そうな表情を浮かべる父さんに、一夜がすかさず言った。父さんは釈然としない表情だったものの、結局何も言わなかった。


「……あ、そういえば父さん、母さんの旧姓って波城だったよね?」

「ああ。そうだけど、それがどうした?」

「秋本先生が母さんのことを¨時村¨って呼んでたんだよ。何でか知らない?」


 僕がそう聞くと、父さんは困ったような苦笑いをした。


「言ってなかったか? 母さんは中学までは¨時村¨って苗字だったんだよ」

「え、何で?」

「母が再婚したからですよ」


 いつの間にか、僕たちの背後に母さんが立っていた。……音もなく近づくなよ。


 母さんは黒のエプロンを外すと、それを右腕にかけたまま父さんの右隣に座って僕たちに視線を移した。


「千夜、貴方はおかしいと思わなかったのですか?」

「何を?」

「祖父が一人多いのを」


 ――そうだっけ?


 僕は首を傾げて母さんの言葉の意味を考えた。


 ――えっと……父さんの父さんである明夫おじいちゃんと、母さんの父さんである道彦おじいちゃん……と……あ。


 僕はやっと理解して顔を上げた。


「もしかして、茂樹おじいちゃんが母さんの本当の父さん?」

「その通りです」

「……ひいおじいちゃんだと思ってた」

「ひいじいちゃんの割には若すぎるだろうが!!」


 いやあ、全然気づかなかったよ。てっきり茂樹おじいちゃんがひいおじいちゃんだと思ってた。


「……」


 一夜はかなり呆れた表情で僕を見てた。え、一夜気づいてたの?


「……当たり前だ」

「……マジですか」


 心の中で呟いたつもりの疑問は、一夜には筒抜けだったらしい。呆れた声で返されてしまった。


「……まあ、とりあえずそういうわけだ。茂樹じいちゃんの苗字は¨時村¨だからな」

「なるほどね。なんか複雑な家庭事情みたいだけど」


 僕はなんとか納得して頷いた。けれど、また新たな疑問が浮かんできた。


「ん? ちょっと待って。母さんが中学までは¨時村¨だったことは分かったけど、それなら何で秋本先生はそのことを知ってたのさ。秋本先生は高校時代の後輩なんだよね?」

「……」

「……」


 僕のこの質問に、なぜか父さんと母さんは互いに顔を見合わせた。母さんはいつも通りの無表情だったけど、父さんは苦笑していた。


「さあ?」

「はあ?」


 父さんの返答に、僕は思わず間の抜けた声を出した。


「さあってどういうこと?」

「いや、そのまんまの意味だよ。少なくとも、俺は知らない。ていうか、秋本先生は本当に母さんのことを¨時村¨って呼んでたのか? 高校時代は普通に¨波城先輩¨だったぞ?」

「え?」


 何それ。どういうことなんだ?


「……」


 父さんの言葉に僕は首をかしげ、一夜は無言で何かを考えこんでいた。


「そんなことはどうでもいいです」


 突然、母さんは抑揚のない声でそう言った。そしてこう続けた。


「問題は、料理のお題をどうするかです」


 母さんはいつになく真剣な表情で、なぜだか困惑気味の父さんを睨んでいた――


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