第27話 とある双子の結果発表
「一夜、できた? 僕はもうできたけど」
「俺も終わった」
芸術コンクールが開催されてから数時間。もうすでに五限目のチャイムが鳴り終わっている。そろそろ作業を終わらせて、美術室に提出しに行かなければならない。
夕陽に染まった茜色の空を見上げながら、兄貴は軽く背伸びをしている。ずっと座りっぱなしだったから、腰や背中が痛くなったのだろう。俺も少し痛みを感じる。
それでも俺たちは、すがすがしい気分だった。今日の絵は、今までで一番の渾身の力作だと言えるだろう。
――この作品であの綾小路姉妹に負けたりなんかしたら、俺は本気で筆を折ってやる。
兄貴に言ったらキレるだろうから言わないが、俺は本気でそう思っていた。
「お、できたのかー? 見せてくれよ」
「あれ、父さん……じゃなくて、姫宮先生だ」
いつの間にか、父さん……ではなく、姫宮先生が俺たちの後ろにニコニコしながら立っていた。兄貴はなんだか嬉しそうな表情ではにかんだ。
「じゃじゃーん! 見よ! 僕たち姫宮兄弟の力作を!!」
兄貴はおかしな効果音をつけて言った。先生は俺たちの作品を何度も見比べると、唖然とした。
「……えーと……いや、すごいんだけどさ……まさかとは思うがそれって……」
「ふふん、みなまで言っちゃ駄目だよ先生。これはね、僕たちの人生の中では最高の力作なんだからね! ¨種明かし¨は明日まで楽しみにしておいてよ!!」
兄貴はそう自信満々に言いきった。先生は顔をひきつらせて苦笑いしていた。
「……一夜、それはありなのか」
「……ルール上は有効だ」
「マジか」
先生が驚くのも無理はないが、俺たちは何もルールには違反していない。
兄貴は先生の反応に満足すると、道具の片付けに入った。俺も片付け始めると、先生は何を思ったのか、こんなことを言い出した。
「よし、お前たちがその絵で賞を獲ったら、週末は家族四人で寿司パーティーだ!」
「え、本当に!?」
「ああ! もちろんだ!」
またしても先生は自分で自分の傷を拡げやがった。どうなっても知らねえぞ。
「一夜、一夜! 頑張ろうね!!」
「もう頑張れねえよ馬鹿」
そんな会話をしたところで、俺たちは今日の渾身の力作を美術室に提出しに行った。
***
『それでは昨日の芸術コンクールの結果発表及び授賞式を行います』
マイク越しの開催宣言が響いた。
翌日の放課後。全生徒が体育館に集められて、結果発表と授賞式が始まった。正直言ってかなりめんどうだが、まあ仕方ないだろう。
まず最初に、一般枠の結果発表と授賞式が行われた。これはまあ、それなりの作品って感じだったな。少なくとも、うちの下手な部員よりは上手いとでも言っておこうか。
兄貴はと言うと、俺の隣でニコニコしながら拍手をしていた。時折俺にちゃんと拍手しろと小突いてくることもあったが、そんなことはどうでもいい。
それよりも重要なのは、次の美術部枠だ。
この体育館に集められる前に、俺たちはクラスの連中から温かい(?)声援をたくさんもらった。
「絶対勝てよー」
「きっと姫宮くんたちが入賞だよ!」
「あの高飛車姉妹に一泡吹かせてやれ!」
……などといったものだった。兄貴はかなり嬉しそうにしてたな。というか、やっぱりあの姉妹は人気ないんだな。
「一夜、始まるよ」
「……」
兄貴はいつも通りの楽しそうな表情で俺に知らせた。俺は無言で頷いて正面をじっと見つめた。
『――それでは次に、美術部枠の結果発表に移りたいと思います。まず優秀賞――』
それまで少しざわついていた体育館が、一瞬で静まりかえった。辺りに緊張が走る。主に俺たちのクラスに。
『――一年八組、綾小路美咲』
空気が凍りついた。