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とある双子の非日常  作者: 吹雪
第6章 天敵襲来
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第26話 とある双子の本気

 とうとうこの日がやってきた。僕たち姫宮兄弟が、あの綾小路姉妹と決着をつける日が!


 今日の天気は幸いなことに晴れ。雲ひとつない青空がちょっと眩しい。それでもベストコンディションであることには変わりがない。


 しかも、今日はまる一日芸術コンクールだから授業はないし、一夜もサボることはない! (これ重要)


 さあ、今日は一日張り切っていこう!


***


「――うわあ、綾小路さんたち、すごい張り切ってるね」

「……」


 僕たちは今、学校の中庭にいる。中庭は校内では一番自然が多く、とても見晴らしがいい人気スポットである。

 

 周りは紅葉や銀杏の木々で囲まれており、赤と黄色のコントラストがとてもきれいだ。地面には赤レンガが敷き詰められており、なんだかおしゃれだと感じているのは僕だけじゃないと思う。所々に木のベンチやテーブルが置かれているから、昼休みになると、ここで昼食をとる人も多い。


 ただ、人気過ぎるあまり、人が多くなってしまうのが少し考えものだ。僕はともかく、一夜は人が多い所は嫌いだから、ここはやめておいたほうがいいかもしれない。


 しかし、人の多さを気にせずに黙々と一心不乱に中庭をスケッチしている二人がいた。それはもちろん、僕たち姫宮兄弟の天敵――綾小路姉妹である。


 彼女たちが座っているベンチの周りだけ、いやに静かだ。というか、人がいない。みんな反対側に固まってスケッチしているからだ。


 おそらく、あんなに目を血走らせて必死の形相でモチーフを睨んでいるからだと思う。僕も思ったよ。あの二人には近づきたくないって。


「一夜、どうする? どこで描く?」

「……屋上」

「え、マジで」

「マジだ」


 僕の問いかけに、一夜はいたって真面目に応えた。そしてすぐに踵を返すと、スタスタと屋上に繋がる階段に向かって歩きだした。


「ああもう! おいてくなよ!」


 僕は小走りで一夜を追いかけた。途中で誰かに呼び止められたような気がしたけど、気のせいだと思って無視した――


***


(綾小路姉視点)


「――あの双子、わたくしが呼んだのに、無視して行きましたわね」

「何あれ、ちゃんと話を聞きなさいよね、あの馬鹿双子」

 

 わたくしたち綾小路姉妹は、中庭のシンボルである、大きな紅葉の木をモチーフとしてスケッチをしてます。始めてもう三十分だから、あと少しでスケッチは完成しますわ。


 あの双子はまだモチーフすら決めていないようですけれど。しかも、わたくしが呼び止めたというのに、あの双子(兄)は見向きもせずに無視して行きましたわ。まったく、失礼極まりないですわ!


 特にあの弟の……一夜? でしたか? あの弟が特に忌々しいですわ。ことあるごとにわたくしの邪魔をして……! 昨日だって、わたくしに

酷い暴言を吐いて! 


「姉さん、あのムカつく双子のプライドをへし折るためにも、私たちが今まで描いてきたどの絵よりも素晴らしい絵を完成させましょう!」

「……! ええ、そうですわね。わたくしたちは、今回こそあの双子(特に弟)に屈辱を与えてやらなくては!」


 わたくしには妹の美波という支えがあるのですから、負けるわけにはいきませんわ! 必ずや姉妹揃って表彰台に上がるのですから!


 わたくしはそう決心を固めると、ふと顔を上に上げて、いつもあの双子がいる屋上を見ました。


 するとどういうわけか、屋上に2つの人影が見えるではありませんか! まさか、あれはあの姫宮兄弟なのでは? わたくしは太陽の光を眩しく思いながらも、必死に目を凝らして見上げました。


 すると確かに見えました。見覚えのある黒髪と茶髪の二人――あれは確かに姫宮兄弟でしたわ。


 彼らは一体何を描くつもりなのでしょう。まさかこの青空を描くつもりではないでしょうね? そんな絵では、いくら貴方たちでもわたくしたちには勝てませんよ? 

 

 だって、この青空には何もないではないですか。今回のコンクールのテーマは風景画。雲ひとつない青空などを描いても、単に色を重ねただけの作品になってしまいますわ。それでは評価などしていただけませんことよ?


 わたくしはいけないとは思いつつも、笑いを抑えることができませんでしたわ。これなら、わたくしたちは勝利にまた一歩近づいたということになるのですから。


「――姉さん……あいつらどういうつもりなのかしら」


 いつの間にか、美波も彼らが屋上にいることに気がついていたようですわ。美波は不審げな表情で屋上を睨んでいます。


 ――いけませんわ。そんな表情をしてはせっかくの美人が台無し。


 わたくしはそう思って美波をたしなめようとしました。しかし、美波があまりにも妙な顔をしているので、つい気になってわたくしも改めて彼らを見上げたのです。


 彼ら(特に兄)は、楽しそうに笑っていました。わたくしたちが言い出した勝負のことなど忘れてしまったかのように、屈託のない、無邪気な笑顔で彼ら(というか兄)は絵を描いていたのです。


 あの無表情な弟ですら、どこか楽しげなのが、こんなに遠くから見上げているというのに分かるのです。


 これは一体、どういうことなのでしょう。彼らはもしかしたら、勝負などする気がないのでは? それは困りますわ。わたくしたちは一体何のために、こうやって必死に絵を描いているのでしょうか。わたくしたちは彼らに勝たなければ、失ったプライドを取り戻せないというのに――


 わたくしは視界から彼らを追い出すと、再び作業に戻りました。もうすぐ油絵の具による着色に入ります。わたくしは一心不乱に作業をすることによって、無理矢理彼らのことを頭から追い出しました。こうでもしないと、わたくしは作業に集中できないような気がしたのです。


 わたくしたちは今度こそ、彼らに勝たなければならないのですから――


***


「うわー、絶景だねえ。いつも見てる景色のはずなのに、なんだか違うものを見てる気分だよ!」


 僕は一夜と一緒にいつもの屋上に着くと、軽く伸びをしながら言った。相変わらず若干埃っぽい気がしないでもないけど、なぜか落ち着くんだよね。


「あ、そうだ一夜。今さらだけど、この場所って、父さんと母さんが初めてまともに話をしたとこなんだよね。思い出の場所だよ!」

「……ああ」


 僕の言葉に一夜は頷きながら、二人分のパイプ椅子をフェンスのすぐ近くに置いた。


 実はこの屋上のフェンスは、母さんが自殺未遂をおかしたために設置されたものだったりする。さっすが母さん。伝説を残すねえ。


 僕たちはパイプ椅子に座ると、その両脇に水彩色鉛筆と水を置いて、絵を描く準備を始めた。準備とは言っても、大してすることはないんだけど。


 そして大きなバインダーに紙を挟んで、鉛筆を構えた。そろそろ描かなきゃ時間が足りなくなってしまう。僕はフェンスに向かい合うと、一夜にこう問いかけた。


「準備は?」

「OK」


 さあ、僕たちの本気を見せてあげよう。


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