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とある双子の非日常  作者: 吹雪
第6章 天敵襲来
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第25話 とある双子の怒り

 

 俺ははっきり言って、かなりキレていた。原因はあのムカつく姉妹だ。


 俺たち兄弟の中学三年間で、あの姉妹に遭遇しなかった展覧会など、一度もなかったと言っても過言ではない。


 これからの高校三年間だって、絶対的に、あの姉妹に遭遇することになるだろうとも思っていた。


 だがいくらなんでも、まさか同じ高校に入学することになるとは夢にも思っていなかった。


 今までの展覧会では兄貴がひたすら嫌がったので、あの姉妹を徹底的に避けていた。お互いに表彰式などで顔は知っていたものの、言葉を交わすことは一度もなかった。


 それなのに入学式で兄貴が新入生代表挨拶をしていた際に、あの忘れもしない凄まじい殺気が飛んできた時は、この俺でさえも戦慄した。


 兄貴も、挨拶を読みながら顔をひきつらせていたぐらいだ。


 幸い、あの後はずっと母さんと一緒にいたために、あの姉妹と接触することはなかった。それでも、背後からの殺気は消えることはなかった。


「千夜、一夜。貴方たちは、あの姉妹に何かしたのですか?」

「……えっまさか! 僕たちは何にもしてないよ! そもそも、会話すらしたことがないのに! ねえ、一夜」

「……ああ」


 入学式の後、母さんとこのような会話をしたことは記憶に新しい。人の気配に敏感な母さんはいち早くあの姉妹の殺気に気づくと、不穏な雰囲気をまといながら、俺たちを連れて足早に学校を後にした。


 ……散々な入学式だった。特に兄貴の落ち込みようが半端なかった。


「――最悪だよ! まさかあの姉妹も同じ高校だなんて! 早くも僕たちの楽しい高校ライフに暗雲の兆しだよ!?」


 今回ばかりは、俺も兄貴の意見に賛成だった。


 俺に兄貴ほどの理想はなかったものの、少なくとも平和に過ごせるだろうと思っていた高校生活に、俺たちは早々に別れを告げた。


 そして今、俺たちはいい加減にあの姉妹と完全に決着をつけるために、自室に引きこもって明日の準備をしていた。


 現在の時刻は夜十時。あの姉妹が俺たち兄弟に宣戦布告をしてきてから、すでに約十時間が過ぎている。


 俺は学生鞄にスケッチブックと水彩色鉛筆を入れながら、先程のあの姉妹との会話を思い出していた。


 特にあの会話で許せなかったのは、綾小路姉が兄貴に対して放った言葉だった。


『あら、貴方たちはわたくしたちよりも、そのお粗末な弁当を優先するのかしら?』


 あの言葉には、いくらなんでも我慢の限界だった。気づいた時には、俺はあの姉妹に暴言を吐いて、見るからに落ち込んだ兄貴の腕を掴んで歩きだしていた。


 ――思い出しても腹が立つ……!


 俺は思わず、手近にあった教科書(数学)をベッド脇の壁に投げつけた。大して強くは投げていないが、なかなか大きな音を響かせた。


 すると、ドアの向こう側からドアを開け閉めする音が聴こえた。


「――一夜! 何か大きな音がしたけどどうしたの? 癇癪でも起こした?」


 ノックもせずに、兄貴は心配そうな表情で部屋に入ってきた。寝ようとしていたのか、なぜか枕を腕に抱いている。


 ……枕はいらないだろう。


 兄貴はベッド脇に無惨に転がっている教科書に目をとめて、困った表情で苦笑した。


「もしかして、教科書投げちゃったの? 駄目だよ、物は大切にしなくちゃ」


 そう優しく咎めながら、兄貴は落ちていた教科書を拾って机の上に置いた。


「まだ怒ってるの? あのお二人さんに」

「……」


 俺は無言ながらも、頷いて肯定した。


「困ったなあ。そんなに怒んないでよ、明日に影響しちゃうよ?」

「……心配しなくても、明日のプランは練ってあるし、問題ない」


 俺がはっきりとそう答えると、兄貴は期待に目を輝かせた。


「え、明日のプランって何? 麗し(笑)の綾小路姉妹に勝てるプラン!?」

「……」


 俺はまた無言で頷いた。


「……秘策がある。俺たち兄弟にしかできない、とっておきの秘策だ」

「だから、それは何!?」


 兄貴はいい加減痺れを切らしたように、俺の両肩を掴んで激しく振った。


 ……いてえよ。


「まだ誰にも見せてないし、コンクールでも使ってない¨アレ¨だ」

「……! ¨アレ¨を使うの!?」

「ああ。¨アレ¨見せれば、もうあの姉妹でも文句は言えないだろう」


 俺がそう言い切ると、兄貴は少し考え込んだ後、すぐに顔を上げて笑った。


 今日初めて見せる、喜びに溢れた最高の笑顔だった。


「よおし!! 明日は絶対に綾小路姉妹に勝つよ!!」


 兄貴は気合いのこもった声をあげると、立ち上がって俺に笑いかけた。


「一夜、ありがと。おやすみ」

「……ああ」


 兄貴はそう言い残して、部屋を出ていった。


 ――だが、兄貴はある意味肝心なものを忘れている。俺はたった今まで、兄貴が座っていたベッドを見た。そして、こう呟いた。



「兄貴、枕忘れてる」



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