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とある双子の非日常  作者: 吹雪
第6章 天敵襲来
24/55

第24話 とある双子の芸術

 

 僕たちは、我がK高校の美術部員である。うちの美術部はそこそこ名の知れた部活で、創立五十周年となった今現在でも、何十年もずっと各賞を総なめしている。


 部員数は比較的多い四十七名。女子が三十八名、男子が九名と、男女比がすごいことになっている。男子が少ないのは悲しい限りだ。


 活動は油絵、彫刻、水彩画、漫画など、多岐に渡っている。そしてこの中で一番人気があるのは、最もベターな油絵である。部員の約七割が油絵を中心に芸術活動に勤しんでいる。


 しかし、僕と一夜は違う。僕たちが主に手がけているのは、水彩画。もっと詳しく言えば、水彩色鉛筆による芸術を好んでいる。


 なぜ油絵ではなく水彩色鉛筆なのか。その理由は色々ある。


 まず第一の理由は、絵の具が嫌いだからである。なぜ絵の具が嫌いなのかと言うと、僕たちはあの固い感じのする絵の具の色が好きではないからだ。別に、絵の具が悪いものだと言ってるのではない。ただ、色の雰囲気というか、イメージというかが、僕たちの理想と好みに合わないのだ。


 第二の理由は、汚れるのが嫌いだからである。絵の具はどんなに気をつけても、手だけでなく、周りの物も汚してしまう。実はきれい好きな僕たちにとっては、それは非常に避けたいことなのだ。


 ――以上が、僕たちが絵の具を避ける理由である。


 ところでなぜ、僕たちは水彩色鉛筆を選んだのかと言うと、色鉛筆の柔らかく繊細な色づかいが大好きだからである。


 僕たちが色鉛筆にのめり込んだきっかけは、母方のお婆ちゃんだった。


 お婆ちゃんは、僕たちの六歳の誕生日に色鉛筆をプレゼントしてくれた。それ以来、僕たちは色鉛筆で周りの色々なものを描いたり、塗り絵をしたりと、色鉛筆による芸術にハマってしまった。


 お婆ちゃんには感謝している。こんな素晴らしい画材を、僕たちに与えてくれたのだから。


 あれからもうじき十年が経つけれど、僕たちは今でもあの時もらった色鉛筆を持っている。短くなりすぎて、もう使うことはできないけれど、それでもあの色鉛筆は、僕たち二人のかけがえのない宝物なのだ。


 そんな僕たちは、今重大な危機にひんしている。というか、とあるライバルというか……天敵(?)にものすごく睨まれているのだ。その天敵というのは、今僕たちの目の前で僕たちを睨み付ける、¨とある双子¨であった――


***


「――えっと……こんにちは?」

「なぜ疑問形なのか聞かせてもらってもよろしくて?」

「……」

「何で貴方黙ってるのよ、失礼ね。こんな美人姉妹を目の前にして、その態度はどういうこと?」


 ――何、このカオス状態……。


 あの謎のぬいぐるみ事件から早いもので、一週間が過ぎた。あの事件は結局、母さんの常人には理解し難い行動によって引き起こされたものだった。


 あの後僕たちは、約束通り父さんに新しい水彩色鉛筆(高いの)を買ってもらった。父さんは小遣いがどうのと嘆いていたが、母さんに自業自得だと一蹴されていた。


 ――それはさておき、僕たちが置かれているこの状況。全く……なぜこんなことになったのか、当事者である僕にすら理解不能だ。一夜は一夜で、目の前の美人(?)姉妹を殺気立った目で睨んでるし……。


 本日は十月下旬の平日。時間帯は昼休み。僕たち姫宮兄弟は、いつもだったら屋上にて昼食をとっているはずの時間だ。


 それなのに僕たちは、なぜかうちの教室前廊下の真ん中で、奇妙な美人(?)双子と向き合っていた。


 僕と正面に向き合っているのが、多分姉の綾小路美咲あやのこうじみさき。僕の左側にいる一夜と向き合っているのが妹の綾小路美波あやのこうじみなみだろう……と思う。一卵性だから、そっくり過ぎていまいち区別がつかない。


 彼女(妹)が言う通り、確かに二人ともなかなかの美人だと思う。肩口まで伸ばしたダークブラウンのサラサラな髪に、睫毛が長く、くっきりとした二重の大きな瞳。全体的に細身で華奢だから、一般的に見れば守ってあげたくなるような可憐な雰囲気を醸し出している。


 性格が良ければの話だけど。


 少し高飛車なほうが姉の美咲さんで、攻撃的(?)な目をしているのが美波さんだと僕は認識している。


 事実、僕は美咲さんの高飛車な雰囲気に当てられ、一夜は美波さんの攻撃的な毒舌の餌食になりかけている。


 ――何でこうなったんだろ……お腹空いてるのに……。


 僕は今にも悲鳴をあげそうなお腹を抑えて、心の中でそうぼやいた。隣の一夜は、ピリピリとしたオーラを出して綾小路姉妹を威嚇しているのだが、彼女たちは一向に怯む気配がない。ただひたすら睨み合っている(僕以外で)。


 僕たちの周りの人たちは、皆遠巻きに僕たちを好奇の目でジロジロと見ている。それはある意味仕方がないだろうと思う。自分で言うのも何だけど、僕たちW双子は校内じゃかなり有名だから。


 ……何で有名なのかは気にしないでおきたい。色々面倒だし。


「――まあいいですわ。貴方たちが失礼なのは今に始まったことではないですし」

「まったくね。この双子に付き合ってたら、私たちまで品位を疑われてしまうわ」

「……」

「……」


 ……酷い言われようだ。彼女たちはことあるごとに僕たちに突っかかってくるのだが、最近では特に酷い。彼女たちが嫌がらせのごとく、僕たちにアクションを仕掛けてくるようになったのは、実はある意味正当な(?)理由がある。


 ただし、僕たちは何も¨悪いこと¨はしていない。悪いことは、だ。


 きっかけは、僕たち兄弟の芸術と、彼女たち姉妹の芸術がぶつかり合ったという、正直どうでもいいことだった。


 彼女たち――綾小路姉妹は、僕たちと同じく美術部に所属している。彼女たちの口調で何となく察しがつくと思うが、彼女たちはいいとこのお嬢様らしい。


 それなのになぜ、こんな普通の公立高校にいるのかというと、この高校の美術部は全国的にも有名だからであった。彼女たちはこの名門(?)美術部に入部し、部の頂点に立つつもりだったのだ。


 ところが、入部してすぐに、彼女たちにとって不測の事態が起きた。


 その不測の事態とは、美術特待生として入学してきた、僕たち姫宮兄弟だった。


 僕たち兄弟の、何が不測だったのか。実は彼女たちは、確かに高い芸術センスと技術を誇っており、油絵部門の賞を総なめしていた。


 し・か・し・だ。


 僕たちも同様に、水彩画部門で賞を総なめしていた。それも、水彩画部門に出展しているものの、僕たちの作品は異例中の異例――なんと水彩色鉛筆画だったのだ。


 これには彼女たちは驚愕した。中学時代にたまたま展覧会で出くわした際に、彼女たちは呆然として、僕たちの作品を見ていた。


 それに加え、彼女たちに僕たちに対してのライバル心を燃やさせたのは、画材を指定しない¨その他¨の部門だった。


 どういうものかと言うと、例えば人権ポスターだとか、読書感想画みたいなもののコンクールだ。残念過ぎることに、この手のコンクールの優秀賞は、僕たちがほとんど独占してしまった。


 彼女たちは精々獲れても、入選か佳作程度だった。


 これはある意味、僕たちにとっても衝撃的だった。ちなみに言うと、これは中学三年間続いたのだ。


 僕たち兄弟は、展覧会に出展する度に彼女たちを目撃した。いつも決まって僕たちの作品の前で悔しそうに歯ぎしりしている彼女たちを、僕たちは遠巻きに見つめていた。(恐すぎてとてもじゃないけど近づけなかった)


 そしてとどめは、今年の夏休み中に行われた風景画コンクールだった。なんと画材は自由。芸術の甲子園みたいなものだった。僕たち兄弟と、綾小路姉妹はもちろん出展した。


 彼女たちはこのコンクールで、僕たち兄弟に勝とうとしていたのだ。


 ――しかし、それは叶わなかった。


 僕は最優秀賞、一夜は優秀賞。彼女たちは佳作に終わった。


 これによって、彼女たちのプライドはズタズタに引き裂かれた……のだと思う。


 夏休みが終わった後の始業式での表彰式は、背後から凄まじい殺気をプレゼントされてしまった。


 何度でも言うが、僕たちは何にも悪くない。悪いのは、僕たちと彼女たちの才能である、と僕は主張したい。……恐くて口には出せないけど。


 まあ、そんなわけで、僕たち兄弟は彼女たち綾小路姉妹に敵視されている。嘆かわしいことに、このことは、学校中のほとんどの人たちに知られている。……流石に中学時代のことまでは知られてないみたいだけどね。


「――姫宮兄弟、貴方たちに宣戦布告します」

「明日の校内芸術コンクールで、今度こそ、貴方たちに勝つわ」

「……」

「……」


 ――やっぱりそうきたか!!


 僕は内心では、彼女たちの言葉を予想していた。


 何のために父さんに高い色鉛筆を買ってもらったと思ってるんだ。そんなの、彼女たちを完全に打ち負かすために決まってるじゃないか!


 明日は毎年恒例の校内芸術コンクールが行われる。参加は自由だけれど、描けば芸術科目の評価が上がるから、大抵の生徒が参加する。


 題目は校内のものであれば自由。画材道具も自由で持参可。かなり自由度が高い行事である。


 一応、このコンクールにも賞がある。最優秀賞、優秀賞、佳作、入選、特別賞の五つだ。


 ところがこの五つの賞は、美術部には適用されない。理由は当然、不公平だからだ。仕方がないので、美術部枠の賞が存在する。ただしこちらの枠は二つだけだ。


 つまり、彼女たちはこの美術部枠の賞二つを独占するつもりでいる。


 彼女たちは自信満々の表情で、ふんぞり返りながら僕たちを(気持ち的に)見下している。


 それに対し、僕は苦笑し、一夜はさらに眉間に皺を寄せた。


「えっと……話はそれだけなのかな? だったら僕たち、そろそろ昼御飯を食べに行きたいんだけど……」

「あら、貴方たちはわたくしたちよりも、そのお粗末な弁当を優先するのかしら?」


 ……うわ、それは流石の僕でも腹が立ったよ。


 美咲さんの辛辣な一言に、僕は少し……いや、かなり心を痛めた。だってこの弁当は、母さんが毎朝早くに起きて作ってくれているものなのに……。


 僕が傷ついてしょんぼりとしていると、とうとう一夜が動いた。というか、口を開いた。


「失せろ、下種女」

美咲「なっ!?」

美波「はあ!?」


 一夜は、今まで以上に殺気に満ちた鋭い目で彼女たちを睨むと、僕の左腕を掴んで早足に歩きだした。


 彼女たちは一夜の迫力に怯み、僕はほとんど呆然とした状態で引っ張られて行った。


 少しして、彼女たち姉妹どころか、他の生徒たちもいない廊下まで来ると、僕は一夜に引っ張られながら呟いた。


「――僕、あの姉妹にだけには負けたくないよ」


 僕の呟きを聞いた一夜は、突然ピタリと歩くのをやめ、後ろに振り返った。そして、こう言った。



「勝つさ。兄貴の絵が一番だ」


 

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