表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある双子の非日常  作者: 吹雪
第5章 謎のぬいぐるみ
20/55

第20話 とある双子の朝

 今朝、僕は奇妙なものを発見しました。



「……父さん、これ何?」

「……ぬいぐるみ……? 謎の」

「謎なのかよ!!」


 季節は秋。十月である。最近漸く肌寒くなってきて、毛布を一枚増やしたところ。それでも秋は僕の一番好きな季節なんだけどね。


 だって、暑いのも寒いのも嫌いだし。それに紅葉が綺麗だし。真っ赤な紅葉や黄色い銀杏がまた好きなんだよね。ただ、落ち葉の処理が大変なのが唯一の難点かな。


 ……まあ、そんなことは置いといて。


 本日は日曜日。要するに、休日だ。僕は久しぶりに寝坊した。別に何も予定とかはないからいいんだけど。


 僕が起きたのはなんと午前十時。かなりの寝坊だなぁ、と目覚まし時計を見ながらそうぼやいたものだよ。


 とりあえず僕は遅めの朝食を摂ろうと、まだ眠い目を擦りながら、一階のリビングに下りて行った。


 言い忘れていたが、我が弟一夜は今だ熟睡中である。


「あれ、父さんもまだ寝てるんだ」


 なぜか父さんはリビングのソファーで爆睡中だった。昨日着て行った赤いパーカーとジーパンのまま灰色の三人掛けソファーに仰向けに横たわっている。


 えーっと、父さんたちの寝室って二階だよね? 何でこんな所で寝てるんだか。母さんがいたら空手チョップを食らわせられるよ。(母さんは出張中。)


 昨日の父さんは、高校時代の友人たちとの飲み会に出席し、そのまま二次会にも参戦したらしい。父さんと母さんは僕たちが通うK高校の卒業生なわけなんだけど、生憎母さんは仕事の都合で欠席。父さんは寂しさを紛らわすために飲みに飲んだ……のだと思う。


 ……なんて情けない父親なんだ。


 父さんは割りと酒好きだ。だから飲むとうざいぐらいにテンションが上がる。よく母さんに怒られてるんだけど、それでもめげない。流石に飲酒運転とかはしないから別に大して困ってないけど。


 でも本当にうざいんだよね。たまに酔っ払って、寝てる僕(たまーに一夜)の部屋に来てうざ絡みしてくるから。


 寝かせろよ。何時だと思ってんだよ。


 ……まあそれはともかくとして、いくら何でもいい加減起こすべきだろう。何時に帰って来たのかは知らないけどね。


「とーさーん。起きてよ。もう十時だよ?」

「……マジで!?」

 

 あ。起きた。起きるの早いな。


 僕がいつも通りのテンションで呼びかけると、父さんは思いの外すぐに起きた。体を起こして軽く背伸びをすると、わざと十分進めている掛け時計で時間を確認した。時計は十時十分を示している。すると今度はソファーの向かい側にあるテレビ……の下のビデオデッキに視線を移した。こちらは十時ジャストだった。


 二つの時計で時間を確認し終わると、父さんは項垂れて溜め息をついた。


「……九時間も寝ちまった……」

「ドンマイ。コーヒーいる?」

「……いる」


 僕は妙に落ち込んでいる父さんを元気づけるため(?)にコーヒーを入れようとキッチンに行った。水をポットに入れてスイッチを入れる。お湯が沸くまで五分程度かな。


 あ、一夜を起こしてないや。


「ねぇ、一夜を起こして来てよ」

「ん? まだ起きてないのかあいつ」


 新聞を取りに行こうとしていた父さんは、振り向いて呆れたように言った。


「うん。だから起こして来てよ」

「はいはい。いーちーやー!!」


 父さんはひらひらと手を振りながら階段を上って行く……と思いきや、一段足を乗り上げ、大声で一夜を呼んだ。……呼びには行かないんだね。


「これで起きるだろ。多分」

「ものすごく曖昧だね」


 僕はそう軽くツッコむと、食パンをトースターに入れて朝食の準備を始めた。


「……ん? 何あれ」


 ふと、今さっきまで父さんが寝ていたソファーの辺りに目をやると、何かが落ちていた。


 近くに寄ってよく見ると、ぬいぐるみだった。ただし、何の動物かは分からない。顔は某夢の国のあのネズミみたい。色は肌色っぽい白。頭にはモコモコのウサ耳を被っていて、ピンクの花柄ワンピースを着ている。しっぽは無し。


 ……何のぬいぐるみだよ。ていうか、何でこんな所にこんなものがあるんだよ。


 僕はとりあえず、一番怪しい(?)父さんにそのぬいぐるみを突きつけた。


「……父さん、これ何?」

「……ぬいぐるみ……? 謎の」

「謎なのかよ!!」


 僕は思わず本気で怒鳴った。父さんは困惑気味にぬいぐるみを見ている。


「父さん、もしかして酔っ払って拾って来たんじゃないの?」

「いや、そんな記憶はないんだがな……」


 父さんは腕を組んで考え込み始めたけれど、何も覚えていない様子だった。


「じゃあ、飲み会でもらったとか?」

「そんなはずはないけど……」

「でもさ、これはどう考えても父さんが持ち込んだものだよ。昨晩までこんなものなかったし、母さんは昨日の朝から出張で帰ってないし」

「それはそうだけどさ……」


 僕と父さんはそこまで言うと、ぬいぐるみを挟んで唸った。


「……何やってんだ」

「あ、一夜。おはよ」

「おはよう一夜」

「ああ……」


 いつの間にか、一夜が一階に下りて来ていた。一夜は朝がものすごく弱い。低血圧なのかもしれないけれど、最近じゃ朝が弱い=低血圧ではないとか……って、どうでもいいよそんなことは。問題はこのぬいぐるみだ。


 一夜は不機嫌そうに目を擦りながら、僕が持っていた謎のぬいぐるみに目をやった。


「……何だよ。それ」

「分かんない。床に落ちてた」

「……ふうん」


 僕がそう答えると、一夜は途端に興味を無くしたように視線を反らした。


 ちょっと待て。それだけかよ。もっと何か言うことあるだろ!


「一夜、もう少し考えてよ! もしこれが誰かの落とし物だったらどうするのさ!?」

「……交番に届ける」

「一夜が正論を言った!! って違う!!」


 僕は必死に一夜の説得(?)を試みるけれど、思うような言葉が出なかった。一夜はそんな僕を見て深い溜め息をつくと、頭を掻きながらこう言った。


「とりあえず、目が覚めるまで待てよ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ