第20話 とある双子の朝
今朝、僕は奇妙なものを発見しました。
「……父さん、これ何?」
「……ぬいぐるみ……? 謎の」
「謎なのかよ!!」
季節は秋。十月である。最近漸く肌寒くなってきて、毛布を一枚増やしたところ。それでも秋は僕の一番好きな季節なんだけどね。
だって、暑いのも寒いのも嫌いだし。それに紅葉が綺麗だし。真っ赤な紅葉や黄色い銀杏がまた好きなんだよね。ただ、落ち葉の処理が大変なのが唯一の難点かな。
……まあ、そんなことは置いといて。
本日は日曜日。要するに、休日だ。僕は久しぶりに寝坊した。別に何も予定とかはないからいいんだけど。
僕が起きたのはなんと午前十時。かなりの寝坊だなぁ、と目覚まし時計を見ながらそうぼやいたものだよ。
とりあえず僕は遅めの朝食を摂ろうと、まだ眠い目を擦りながら、一階のリビングに下りて行った。
言い忘れていたが、我が弟一夜は今だ熟睡中である。
「あれ、父さんもまだ寝てるんだ」
なぜか父さんはリビングのソファーで爆睡中だった。昨日着て行った赤いパーカーとジーパンのまま灰色の三人掛けソファーに仰向けに横たわっている。
えーっと、父さんたちの寝室って二階だよね? 何でこんな所で寝てるんだか。母さんがいたら空手チョップを食らわせられるよ。(母さんは出張中。)
昨日の父さんは、高校時代の友人たちとの飲み会に出席し、そのまま二次会にも参戦したらしい。父さんと母さんは僕たちが通うK高校の卒業生なわけなんだけど、生憎母さんは仕事の都合で欠席。父さんは寂しさを紛らわすために飲みに飲んだ……のだと思う。
……なんて情けない父親なんだ。
父さんは割りと酒好きだ。だから飲むとうざいぐらいにテンションが上がる。よく母さんに怒られてるんだけど、それでもめげない。流石に飲酒運転とかはしないから別に大して困ってないけど。
でも本当にうざいんだよね。たまに酔っ払って、寝てる僕(たまーに一夜)の部屋に来てうざ絡みしてくるから。
寝かせろよ。何時だと思ってんだよ。
……まあそれはともかくとして、いくら何でもいい加減起こすべきだろう。何時に帰って来たのかは知らないけどね。
「とーさーん。起きてよ。もう十時だよ?」
「……マジで!?」
あ。起きた。起きるの早いな。
僕がいつも通りのテンションで呼びかけると、父さんは思いの外すぐに起きた。体を起こして軽く背伸びをすると、わざと十分進めている掛け時計で時間を確認した。時計は十時十分を示している。すると今度はソファーの向かい側にあるテレビ……の下のビデオデッキに視線を移した。こちらは十時ジャストだった。
二つの時計で時間を確認し終わると、父さんは項垂れて溜め息をついた。
「……九時間も寝ちまった……」
「ドンマイ。コーヒーいる?」
「……いる」
僕は妙に落ち込んでいる父さんを元気づけるため(?)にコーヒーを入れようとキッチンに行った。水をポットに入れてスイッチを入れる。お湯が沸くまで五分程度かな。
あ、一夜を起こしてないや。
「ねぇ、一夜を起こして来てよ」
「ん? まだ起きてないのかあいつ」
新聞を取りに行こうとしていた父さんは、振り向いて呆れたように言った。
「うん。だから起こして来てよ」
「はいはい。いーちーやー!!」
父さんはひらひらと手を振りながら階段を上って行く……と思いきや、一段足を乗り上げ、大声で一夜を呼んだ。……呼びには行かないんだね。
「これで起きるだろ。多分」
「ものすごく曖昧だね」
僕はそう軽くツッコむと、食パンをトースターに入れて朝食の準備を始めた。
「……ん? 何あれ」
ふと、今さっきまで父さんが寝ていたソファーの辺りに目をやると、何かが落ちていた。
近くに寄ってよく見ると、ぬいぐるみだった。ただし、何の動物かは分からない。顔は某夢の国のあのネズミみたい。色は肌色っぽい白。頭にはモコモコのウサ耳を被っていて、ピンクの花柄ワンピースを着ている。しっぽは無し。
……何のぬいぐるみだよ。ていうか、何でこんな所にこんなものがあるんだよ。
僕はとりあえず、一番怪しい(?)父さんにそのぬいぐるみを突きつけた。
「……父さん、これ何?」
「……ぬいぐるみ……? 謎の」
「謎なのかよ!!」
僕は思わず本気で怒鳴った。父さんは困惑気味にぬいぐるみを見ている。
「父さん、もしかして酔っ払って拾って来たんじゃないの?」
「いや、そんな記憶はないんだがな……」
父さんは腕を組んで考え込み始めたけれど、何も覚えていない様子だった。
「じゃあ、飲み会でもらったとか?」
「そんなはずはないけど……」
「でもさ、これはどう考えても父さんが持ち込んだものだよ。昨晩までこんなものなかったし、母さんは昨日の朝から出張で帰ってないし」
「それはそうだけどさ……」
僕と父さんはそこまで言うと、ぬいぐるみを挟んで唸った。
「……何やってんだ」
「あ、一夜。おはよ」
「おはよう一夜」
「ああ……」
いつの間にか、一夜が一階に下りて来ていた。一夜は朝がものすごく弱い。低血圧なのかもしれないけれど、最近じゃ朝が弱い=低血圧ではないとか……って、どうでもいいよそんなことは。問題はこのぬいぐるみだ。
一夜は不機嫌そうに目を擦りながら、僕が持っていた謎のぬいぐるみに目をやった。
「……何だよ。それ」
「分かんない。床に落ちてた」
「……ふうん」
僕がそう答えると、一夜は途端に興味を無くしたように視線を反らした。
ちょっと待て。それだけかよ。もっと何か言うことあるだろ!
「一夜、もう少し考えてよ! もしこれが誰かの落とし物だったらどうするのさ!?」
「……交番に届ける」
「一夜が正論を言った!! って違う!!」
僕は必死に一夜の説得(?)を試みるけれど、思うような言葉が出なかった。一夜はそんな僕を見て深い溜め息をつくと、頭を掻きながらこう言った。
「とりあえず、目が覚めるまで待てよ」