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とある双子の非日常  作者: 吹雪
第4章 双子の別行動
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第16話 とある双子の登山

 私のクラスには、ちょっと不思議な双子がいる。どこが不思議なのかと言うと、まとってるオーラというか、雰囲気というか……何より、他人に対して見えない壁を作っているところが、なんとなく不思議。


 そもそも、あの二人が誰か特定の人と仲良くしているところは見たことがない。いつも二人っきりで行動していて、私たちが知らないところで色々なことをしてるみたい。その色々っていうのは、正直よく分からないけどね。


 ところで、何でここでその双子が話題に上るのかと言うと、彼に会ってしまったから。あの双子の片割れに――


***


 私は夏休みは毎年父方の実家で過ごしている。実家と言ったってそんなに遠いわけじゃなくて、少し自然が多いだけの県内の田舎だ。具体的に言うと、大宰府。大宰府と言ったら大宰府天満宮だけど、残念ながら地元民からしたら飽きてしまった所だ。


 父方の実家は大宰府は大宰府でも、天満宮から少し離れた自然いっぱいの土田舎。


 そこの近くには宝満山ほうまんざんという、福岡では少し有名な人気の山がそびえ立っている。高さは九百メートル未満で、そんなに高くはないのだけれど、頂上から見渡せる景色が素晴らしいとのこと。


 ただ、残念ながら私は一度も登ったことはない。だから今話したことは人から聞いたものだ。


 ところが私は今、小学生の弟と宝満山に登っている。真夏の陽気に汗だくになりながら、お弁当と水筒を入れたリュックを背負い、決して楽とは言えない……というより、運動不足の人にとっては辛すぎる険しい山道を歩いている。そしてなぜか、もう一人同行者がいる。その同行者とは――


「姫宮くん、足元危ないから気を付けてね」

「……」


 件の双子の片割れ――弟の姫宮一夜くんだった。彼は私の注意に頷くと、足元に転がっている少し大きめの石を避けた。しかし、バランスを崩してよろめき、とっさに側にある木に掴まって体勢を立て直した。そういうちょっとしたハプニングを、登り始めてから何度も彼は引き起こしていた。


 ――なんか意外……運動は得意そうなのに、こういうのは苦手なのかな?


 私は足元が覚束ない彼を横目で見ながらそう思った。


 彼、姫宮一夜くんは、うちのクラスでは最も謎な人物だとされている。なぜなら、彼は滅多に教室に顔を出さないから。要するに彼はサボり魔なのだ。


 おまけにものすごく無口で、クラスの中で彼と意志疎通ができるのは、片割れの千夜くんだけ。多分誰も一夜くんの声を聴いたことないんじゃないかな。


 客観的に見ると、クールで冷静沈着な人。授業には出ないというのに、学年首席という偉業を達成している、一種の天才肌。


 そんな彼は、一般的に見ると、かなりの美形だ。少し黒に近い短めの茶髪で、きりっとした目元。瞳の色は双子揃って焦げ茶色。基本的に鋭い目付きをしているから、知らない人からして見たら睨んでるようにも見える。けれど、お兄さんの千夜くん曰く、元々こんな目付きだから、睨んでるわけではない、とのことらしい。


 今日の彼は、当然ながら初めてお目にかかる私服。グレーの薄手の長袖Tシャツに、紺色のダボッとした長ズボンを履いている。頭には探検家を思わせる形の黒い帽子。おそらくはお弁当などが入っている白黒のリュックを背負っている。


 彼はどうやらかなり暑いのに弱いらしく、なんとかポーカーフェイスを保ちながらも眉間に皺を寄せながら辛そうに汗を拭っている。


 それに対して、私は陸上部所属だから体力には自信があるし、暑さにも強い。小学五年生の弟佑樹も、サッカークラブに入ってるから問題無さげにどんどん前に進んで行く。


「ねぇ、姫宮くん。何で山に登ろうと思ったの?」

「……」


 辛そうに必死な様子で私たちについて行く一夜くんを見ていると、なんだかいたたまれなくなってくる。もしかして、彼が体育の授業に参加しないのは、運動が苦手だからなんじゃ? 私はそう思うと、つい彼にこの登山の意味を聞いてしまった。


 彼はやっぱり無言のままだけれど、一度立ち止まると、背負っていたリュックを下ろして、中から何か四角いものを取り出した。


「……それって、スケッチブック?」

「……」


 彼は私の問いかけに、無言ながらもしっかりと頷いて肯定した。



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