表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある双子の非日常  作者: 吹雪
第4章 双子の別行動
15/55

第15話 とある双子と動物園

 今回の章はクラスメイト視点です。

 

 俺のクラスには、ちょっと変わった双子がいる。どこが変わっているのかと言うと、雰囲気というか、オーラというか……何より性格が対照的過ぎるんだよな。


 そもそも一番の謎は、この双子は一卵性なのか二卵性なのかが分からない、ということだ。なぜ分からないのかと言うと、顔立ちは似てるとは思うんだけど、髪の色や表情が全く似ていないからだ。多分どちらかが片割れと同じ髪色と表情にしたら、謎が解けるのだと思う。


 ……まぁ、それは一旦置いておこう。問題は、なぜ俺がクラスメイトの双子の話をしだしたのか、ということだ。


 実は俺は今、クラスメイトの彼女と動物園でデート中なのだ。しかも今日は付き合って初めての初デート! 俺は大いに張り切って服を選び、予定を緻密に立て、待ち合わせ時間に遅れないように何度も目覚まし時計を確認したものだ。


 デート当日。俺は待ち合わせ時間五分前に着き、ギリギリの時間に走り寄ってきた彼女とベタな会話をした。


 彼女は、清楚な薄い水色のひらひらワンピースと、可愛らしい白のポーチを肩から下げた出で立ちだった。普段下ろしている長めの黒髪を、高い位置で団子にしているのがまた可愛い。


 俺はそんな彼女を見て、思わずにやけてしまった。


「ごめん、待った?」

「いや、俺も今来たとこだから」


 これだよこれ!! デートの常套句!!


 俺は早くも幸せに浸りながら、期待に胸を膨らませた。俺と彼女は待ち合わせ場所にしたバス停から目的地直行のバスに乗りこみ、他愛のない話で盛り上がった。ここまでは俺の予定通りだった。


 そう、ここまでは。まさか、目的地に着いた途端に、あいつの姿を目撃することになるとは――


***


「ねぇ、タク。あれって姫宮兄じゃない?」


 【タク】というのは、俺のニックネームだ。だが今はそんなことなどどうでもいい。


 俺の彼女美香は、バスから降りて動物園の入り口を見るなりそう言った。少し遠かったが、言われて見れば、確かに件の双子の片割れ――姫宮千夜だった。


 兄姫宮千夜は、人当たりが良く、なかなか社交的な人物だ。入学当初は口数が少ない人見知りのある印象だったのだが、入学して一ヶ月以上も経つと、慣れてきたのかかなり明るくなった。


 容姿はなかなかの美形。サラサラの短い黒髪で、目鼻立ちがはっきりした中性的な顔をしている。特に笑顔がまぶしい。大抵の女子はあの笑顔で落ちるらしい。


 今日の千夜は当然私服。白い半袖のカッターシャツに緩めのジーンズというラフな格好だ。ただ、今日は雲一つない快晴で日差しが強いので、黒っぽい帽子を被っていた。


 気になるのは、あの千夜が片割れの一夜を連れずに一人であることだ。


 姫宮兄弟は双子で、なおかつ性格が対照的の割には仲がいい。俺を含めたクラスメイト全員は、あの双子が授業以外で別行動しているところを見たことがない。


 にも関わらず、今日の千夜は一人。正直言って理由がものすごく気になる。


 どうやら美香も俺と同じ気持ちらしく、入り口付近で入場券を買っている千夜の様子を食い入るように見つめている。


「……ねぇ、タク……早く券買って中に入ろ?」

「……ああ、そうだな」


 口では俺たちはこう言っているが、内心は動物園よりも千夜が気になっていた。俺たちは千夜が園内に入るのと同時に入場券を買うと、人混みに紛れて千夜の後を追った。


***


 園内は想像以上に人で溢れかえっていた。特に子連れの大人や、俺たちのようなカップルが多い。こんなに人が多いんじゃ、すぐに千夜を見失ってしまいそうだ。


 おまけに真夏の陽気に照らされて、アスファルトから熱気が漂っている。一応帽子は被っているが、暑すぎて汗が額から滲み出て頬を伝った。隣にいる美香も暑そうに扇子で扇いでいる。


 しかしながら、千夜は暑さなど気にかからないのか、大して暑そうな仕草も見せずに歩いて行く。


 ――あいつ、夏は汗かくから嫌いだって言ってたのに。


 俺はふと、夏休み前に千夜が洩らしていた言葉を思い出した。夏休み前半は確か補習に強制参加させられたから、それ以降は外に出たくない……とも言っていたはずだ。一体どういう心境の変化だ?


 そしてもう一つ気になることがある。それは、千夜が手に持っている大きめの青いバッグだ。かなり薄いバッグだから、そんなに色々詰め込んでいるようには見えない。


 そもそも、千夜は何が目的でわざわざ動物園にまで来たんだ? 少なくとも、園内に入ってすぐに見られるカバやラクダには興味がないということは分かる。見向きもせずに全力でスルーしやがったからな。


 俺はここで美香の様子を伺ってみた。俺は正直言ってデートよりも千夜の動向の方が気になっていた。だが、美香がデートの方がいいと言うなら、デートを優先するつもりだった。


「なあ、どうする? デートと姫宮兄の尾行、どっちがいい?」

「……尾行の方が面白そう」


 というわけで、俺たちは急遽予定を変更し、千夜を尾行することにした。


2013/4/10 一部加筆しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ