第13話 とある双子の大捜索
翌日の午後一時。僕と一夜は午前の補習が終わったのにも関わらず、まだ校内にいた。理由は捜し物をしているからだ。
何を捜しているのかというと、写真を捜しているのだ。それも、ただの写真ではない。それには、珍しく笑顔の母さんと、その腕に抱かれた赤ちゃんの僕と一夜の三人が写っていた。
この写真はいつも父さんが大事に持っていたものだ。しかもその写真を入れていたパスケースは、母さんから父さんへの初めてのプレゼントだったらしい。
ここまで言えば大体予想がつくだろうが、写真を無くしたと気付いた時の父さんの、悲壮感溢れる表情といったらもう……。
というわけで、僕たちは学校に居残って写真を捜している。
ちなみに言うと、今の僕は珍しく一夜と別行動をしている。分かれて捜したほうが早いだろうという判断からきたものだ。僕も一応その意見には賛成なのだけれど、ひとつだけ気になっていることがある。
それは、写真は何者かによって盗まれたのではないだろうか、ということだ。
父さんはそこまで考えてないだろうけど、多分一夜もその可能性を疑ってる。そう思った理由はごく単純なものだった。
父さんは職員室の自分の机の引き出しに写真を入れている。今朝もそうだった。
なぜ知っているのかというと、僕たちはまたしても弁当を忘れた父さんに弁当を届けに職員室に寄ったからだ。その際に、父さんが引き出しに写真を入れるのをこの目でしっかりと見たのだ。
どう考えても盗まれたとしか言いようがない。ただ、盗まれたことは分かっても、なぜ金にならない写真を盗むのか。それがどうしても分からなかった。
そんなことを考えながら廊下を歩いていると、数メートル離れた先に、見覚えのある小柄な人影を見つけた。
――吉永先生だ。
僕は後ろから先生に声をかけた。
「吉永先生、こんにちは」
「あら、姫宮くん、こんにちは。まだ校内に残ってたのね」
先生は振り返って挨拶を返すと、柔らかく微笑んでくれた。ああ、やっぱりナチュラル美人は癒やされる。
僕はついでだから先生にも写真のことを尋ねてみることにした。
「先生にお聞きしたいんですけど、女性と赤ちゃんが写った写真が入った水色のパスケースを見てませんか?姫宮先生のなんですけど……」
「写真の入った水色のパスケースねぇ……ごめんなさい、見てないわ」
先生は申し訳なさそうに表情を歪めて言った。別に期待はしてなかったけど、そんな表情を見たら、こっちまで申し訳ない気持ちになってしまう。
僕は先生がかわいそうに見えて、慌ててフォローした。
「気にしないで下さい、先生。大したことじゃないので」
嘘だ。本当は結構重大なことだ。だけどそんなことを言うつもりは毛頭ない。
「嘘つかなくてもいいのよ。本当は大事なものなんでしょう? 姫宮先生、暇さえあれば幸せそうに眺めてたもの」
父さん、そんな恥ずかしいことしてたのか。でもやっぱり嬉しい。父さんは僕たちのことを本当に大事に思ってくれてる。だから早く写真を見つけてあげたい。
僕は先生に礼を言って立ち去ろうとした。すると、先生は突然何かを思い出したかのように表情を変えた。
「……そういえば、私、理科室の机に水色の四角いものが置いてあるのを見たんだけど……」
「それ、本当ですか!? 」
「ええ。暗かったから確かじゃないけど」
「ありがとうございます!!」
僕は先生に礼を言うと、家庭科室の方へ走り出した。
***
この俺姫宮一夜は、兄貴と分かれて父さんの写真を捜していた。父さんは今頃、必死の形相であらゆる場所を捜しまわっていることだろう。
一方で兄貴はおそらく俺と同じように、写真を盗んだであろう人物を捜しているだろう。父さんは金にもならない写真が、まさか盗まれただなんて、思ってもいないだろうがな。
俺の中には、二人の容疑者がいる。体育教師の岩本と、音楽教師の秋本だ。この二人なら動機は十分ある。だが、犯人がどちらかまではまだ分かっていない。一体どうしたものかな……、
ブーッブーッブーッ……
突然、俺の携帯のバイブ音が鳴り響いた。着信を見ると、兄貴からだった。
「もしも『一夜!! 写真の在処が分かったかもしれないよ!!』……分かった。何処だ?」
『理科室!!』
兄貴はそれだけ言うと、すぐに電話を切ってしまった。相当興奮してるらしい。
俺は兄貴の暴走を未然に防ぐべく、目的地に向かって走り出した。
***
「うーん……無いなあ……」
僕は一夜に電話した後、すぐに理科室で写真を捜し始めた。しかし、一向に見つかる気配がない。本当にここにあるのだろうか? 吉永先生の勘違いだったんじゃ?
考えれば考えるほど自信が無くなってくる。僕はがっくりと肩を落とした。
――父さん、相当落ち込むだろうなあ……。
そう思うと、僕までかなり沈んできた。早く一夜来ないかな……。
ガラッ
突然、教室の扉が勢いよく開けられた。僕は少しビクッとしたけど、一夜だと思って振り返った。
しかし、扉を開けたのは、一夜じゃなかった――