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23.全てを解決したところ

長々と、間を開けてしまいましたが、やっと、完結となります。

今まで、お付き合いいただきましてありがとうございます。

 しばらくして、ノリューも帰り、しがみつくように城に残っていた人間も帰ったところで、ついつい放置していた大本命を切り崩しましょうか。だいたいが、私の所為でややこしくなってしまった部分があるだけに、とっても切実に今回の件は、どうにかしたいのですから。

 「それで、マリ姉様。意中の方が居りますよね」

決戦場はお母様のいらっしゃる執務室。スー兄様とマリ姉様も揃っていて、準備万端です。

 「え?」

マリ姉様の結婚相手をどうしようかと、スー兄様と、お母様がお話しになっているところに、私がマリ姉様と一緒に突撃したところで、とっととこの話題を振りました。

当たり前でマリ姉様は、一瞬にして硬直。分かっていらっしゃるお母様は、私とマリ姉様の突然の訪問にも驚きもせず、にっこりと微笑まれています。

先触れを出さずに突撃したのはスー兄様を逃がさないためなので、今回は少しだけ目を瞑って頂きたいところです。

 「そんな人間がいたなら、どうしてもっと早く言わないんだい?」

それを言える状態と状況では無かったからですよ。と、思わずスー兄様に突っ込みたくなるのを必死に堪え、マリ姉様を見れば、少しばかり悲しげな表情になっていて、本当に申し訳ない気持ちになる。

 「お母様。今回の件で私の問題は解決したと思います。レイダレットは三の姫様、ムディランは、リュクを好きに扱って良いと、お墨付きがありますので、余程のことがなければ、私の身の安全は確保されています」

しれっとした態度で、私が言えば、お母様は、長い長い溜息を吐く。だって、これが解決しないことには、スー兄様をスー兄様として扱い続ける必要があることを私は知っているのだと、これだけで通じるのだ。

 「隠すのが無理だとは分かっていましたけど」

噂を集めるのは私にとってはとても容易い。風の噂を耳にすれば良いだけだ。

 「私の逃げ道をずっと作って下さって、ありがとうございます。お母様。けれども、私のお父様とお母様は、ここに居るお父様とお母様なのです」

私の言葉に、お母様はほんの少しだけ悲しげな顔をして、それでも嬉しそうに笑ってくれる。同じ母親としてみれば、心中複雑なことだろう。

私も、一度くらいは自身の生みの親を見てみたいとは思うけれども、それはきっと願ってはいけない。お互いのためを思えば。

きっと、私を産んだ母と、その父は、私を見て恐れただろう。知らず精霊の力を使い、お伽噺のような今回の話を思い出したことだろう。おそらく平民である私自身も、両親も、今頃どうなっていたか分からない。

私に、愛情が一欠片もなかったとは思わない。けれども、過ぎたる力は恐怖しか生まない。

恐れて、恐れて、両親は、この国の王様に私を差し出したのだ。もしかしたら、それも、愛情だったのかも知れないけれど。

それを知る必要は私にはないし、知るべきとも思えない。だから、私は、にっこりと笑って、お母様の娘であることが幸せだと示す。

 「マリ、スー。妹であるリィリがここまで言っているのですよ。言葉と態度でもって、己の意思を示しなさい」

お母様の言葉に、マリ姉様はオロオロと忙しなく辺りを見回し、スー兄様を視界に入れては、慌てて逸らすという、実に大変そうなことを繰り返している。いい加減スー兄様は、気が付くべきなのではないだろうか。

そっとお母様を見れば、お母様も私と似たような表情をしているので、恋愛関係に関しては、随分と疎い私でも、分かることをスー兄様は分かっていないらしい。

 「あ、あの」

おたおたと、視線をさ迷わせ、それでも何かを言わなければならないと、両手を握り必死になっているマリ姉様を見ていると、何とも居たたまれない気持ちになってくる。

レイ兄様もだけれども、スー兄様もダメだ。私は積極的にダメ出しをしたいと思いますよ。切実に。

女の子に言わせるなんて、もってのほか。

 「スー兄様。私の言った意味を理解してらっしゃいますか?」

私の言葉に、スー兄様は心底困ったと言う表情をする。

 「あのね。僕は、家族なんだよ。必死に家族になったんだ」

分かっている。悪いのは私だ。私がスー兄様とマリ姉様の問題をややこしくした。私が居なければ、すんなりと、何事もなく終わっていたはずだ。だって、マリ姉様には、私よりも先に、スー兄様が居たのだから。

 「形が変わるだけだと思いますよ。少なくとも私は。スー兄様はスー兄様ですし、マリ姉様は、マリ姉様です」

私の言葉に、それでもスー兄様は困ったような笑みを浮かべるばかりで、そんなスー兄様を見て、マリ姉様は、今にも死にそうな顔をしている。

 「では、逆にお聞きいたします。全てを知った今、私は、お二人の妹ではなくなりましたか?」

実際血の繋がりなど一欠片もない。私は、二人にとって、妹でもなんでもない赤の他人だけれど、私は、今まで過ごした時間が全てだと思っている。顔も思い出せない生みの親を懐かしむことが出来ないように、今まで一緒に過ごしてきた家族を家族でないなどと言えるはずもない。

 「そんなはずないわっ」

言うなりマリ姉様が渾身の力で抱き締めてきました。

窒息しますマリ姉様。あと、背骨がギシギシいってます。マリ姉様。

 「マリルリイ。リィリが死にそうだから力を弛めて上げて」

助けを求めるにも、両腕までがっちりと押さえられ、息を吐き出していたせいで声も上げられない状態になっている私を見かねて、スー兄様がマリ姉様を止めてくれました。

危うく窒息して意識が落ちるところでしたよ。こんなところで意識を失ったら、まったく話しが進まない。

なんとか意識を保っていれば、観念したようにスー兄様が、マリ姉様の前に立ちました。

 「マリルリイの弟ではなくなるけど、良いかな」

全く根性なしな言い回しです。これは血筋なんでしょうか。

 「はい」

まあ、マリ姉様は嬉しそうにしているので、及第点を差し上げましょう。

 「これで、レイ兄様とクー兄様の横やりが入る前になんとかできましたね。お母様」

なんとか追い出している期間の終わる前に事が終わったことを本当に嬉しく思いますよ。なにより、私の問題の方が大きくなりすぎて、危うく本題だったマリ姉様とスー兄様のことの方がおざなりになってしまって。

 「ええ、本当に。でも、リィリも良かったのよ」

今回の騒動で、だいぶ疲れていることも分かっているものの、好きになれる相手が居るのであれば、纏まって欲しいとお母様は思っているらしい。

 「私は、そうですね。一応どうしようもなくなったらと言うことで、サムロイの三男と話しはしておりますけど」

三男も色々とあるので、私がサムロイに行く必要はない相手なのだ。あちらが来てくれるという確証が有るからこその相手。

 「また夢の無いことを」

それが分かって、お母様はさも残念そうな顔をした。

 「スー兄様とマリ姉様の婚姻が決まったのですから、しばらくは、レイ兄様とクー兄様のお相手をしないとならないですし。いえ、むしろ、マリ姉様の婚姻が決まったとだけあちらに伝えたら、動揺して、レイ兄様と二の姫様の仲が進展しませんか?」

 「それは、とても危険だと思うわ」

ごもっともですね。お母様。

聞いた瞬間、レイダレットから飛び出してきそうな予感がひしひしとします。それでは全く意味が無い。

淋しさに負けて、二の姫様によろめいていれば良いのに。

 「お兄様方が居ない間に、婚姻だけでも結んだ方が面倒がないでしょうか」

帰ってきてから式だけを挙げても問題は無い。スー兄様もマリ姉様も、年齢は全く問題ないのだから。

さすがに王家の婚姻ともなれば、式は盛大にやらなければならない。なんと言っても、王族の中で初めての婚姻。派手にならないわけがない。

 「そうね。あの二人が帰ってからだと、証明書を紛失されそうね」

確かに、その危険がありましたね。けれども、それは、スー兄様が許さないでしょう。知略で、レイ兄様とクー兄様が勝てるはずがないですし。

 「そうです」

そうだ。居ない間にやっておいた方が良いことは山積みだと言うことを失念しそうでした。レイ兄様とクー兄様が居ると、何かと物事が滞るのですから、この時間を一秒も無駄にしてはダメです。

 「そんなことより、お母様。式のドレスを考えなければ」

自分の結婚式など考えようもないけれど、マリ姉様やコーディのものとなれば、別問題。レイ兄様にも、クー兄様にも、スー兄様にだって、口を挟ませる気はありませんから。

 「そうだわ。レイやクーに口出しされる前に、決めなくては」

勝手にドレス選びで盛り上がっている私とお母様に気が付いたマリ姉様が、慌てて制止に入ってきました。

 「お母様も、リィリも気が早いわ」

やっと、思いが通じ合ったばかりだというのに、余韻もなく式の話が進んでいることに、どうやらマリ姉様はついて行けていないようです。

しかし、こんな私たちに離れているスー兄様は、押さえるところは押さえておきたいようで、ぴしゃりと言い放ちます。

 「ドレスのデザインは譲るけど、材料は僕が選ぶからね」

流石にこの妥協案は飲まざるを得ない。スー兄様の知識量は、私はもとより、お母様も時折太刀打ちできない。

 「仕方ないわね。早めに素材を決めてちょうだい。その後のデザインは私たちが決めますから、一切口出し無用ですよ」

素材以外は口を出させないと言い切ったお母様に、スー兄様は苦笑いを浮かべています。

 「マリルリイは何を着ても似合うからね。どんなものを着るのかくらい楽しみにしないと」

さっきまでの姿がまるで嘘のように、のろけてきましたよ。スー兄様。でも、考えてみれば、スー兄様、マリ姉様の着飾った姿って、あまり見ていなかったような。

 「スー兄様、実はずっと、嫉妬していましたか?」

 「あら、リィリったら今頃気が付いたのですか」

 「え?」

混ざってマリ姉様が変な声を上げましたよ。そうですよね。必死に家族になったとか言っていたというのに。

 「だからお母様の前ではいやだったんだ」

いじけるスー兄様を見て、私もマリ姉様も堪えきれずに笑ってしまいました。それを見て更にいじけるスー兄様に、マリ姉様は幸せそうに笑って。

 「これからは、スウリウスのために着るわ」

笑うマリ姉様を見て、とうとう観念したらしいスー兄様は、片手で顔を覆うと、「ありがとう」と、小さな声をだす。

微笑ましい二人のやりとりをお母様と二人で、ニヤニヤと見詰めていれば、自分が何を言ったのか気が付いたマリ姉様が、真っ赤になって逃げ出していった。

スー兄様は、私たちに、釘を刺すように冷たい視線を向けるのを忘れず、マリ姉様を追っていく。

幸せそうな二人を見て、後悔していたことの一つが片付いて、本当に喜ばしい限りだ。

私が狂わせたのだから、どうにかしたいと思っても、今まで私には手段がなくて、ここまで時間がかかってしまったけれど、二人の仲が上手くいったならこっちのもの。

もし、レイ兄様とクー兄様が戻ってきてしまったとしたら、私とコーディでなんとかするしかないが、スー兄様も混ざるのだから、不在の間に重要なところは全て押さえられるだろう。

 「後は、レイ兄様が、二の姫様を連れてくれば、一番良いのですけれど」

 「レイはどうにも自分に向く好意には鈍くていけないわね」

お母様が肩をすくめてダメ出しをします。きっと私の知らないロマンスを、レイ兄様自らぶち壊していったのでしょう。このお母様の表情から察するに。

 「それなりに三の姫様とも画策しているのですけど」

 「私も一の姫にそれとなく伝えてはいるのだけれど」

似たようなことをしていたようで、私とお母様は、視線を躱すと、そっと溜息を吐きました。

どちらも経過は芳しくないと言うことですからね。朗報が来ないと言うことは。

 「リィリも落着いたら、きちんと考えるのですよ」

あら、私にまで釘を刺されましたよ。私は別に、鈍感ではないと思うんですが。いえ、意識してぶち壊しているので、レイ兄様より、罪が重いでしょうか。

もっとも、この騒ぎのお陰で、下手に国の移動は出来ないですし、最悪は、リュクと表面上の結婚もありですしね。

その方が、世界樹関係を思えば、いい手ではありますが。

 「リィリ」

何か勘付いたお母様が、何とも言えない声音で私の名前を呼びましたよ。

 「夢も希望も持っていないので、政治的判断もありかと思うのですけれど、いけないですか?」

 「当たり前です。リィリが夢も希望も持っていなくとも、私と、マリ、コーディ以下、メイドに至るまで、貴女の結婚式を楽しみにしているのですから」

私が希望がないせいで、むしろお母様と、マリ姉様、コーディの希望が優先されると言うことですか。それはそれで何とも無理難題を。

 「ムディランの第一継承王子も継承を放棄して、婿入りしたいと打診があったのですよ」

にっこりと、笑うお母様に、思わず私の顔が引きつります。

そう言う、ロマンスもの、お母様も、マリ姉様も本当お好きですよね。

周囲や身分に邪魔をされつつ、恋をする二人が上手くいって、幸せになるとか、どう頑張っても物語の中だけですよ。

だいたいそう言うお話のご令嬢やご子息は、身を持ち崩しているじゃないですか。それでなければ、説教とともに諦めさせられたり、婚約者に愛想を尽かされたらどうなるかを、みっちりコースで解かれるとか、だいたい、酷い目に遭っているじゃないですか。

なんで私だけ上手く行くとか思っているんですか。

いや、そう言えばお母様は力技で上手く行かせてしまった方でしたね。忘れていましたよ。

残念ですが、私にそれは通用しないと言いますか。私にそれを求められるは大変無理があると言いますか。

 「大丈夫よ。リィリが好きになった人と結婚出来るようにするくらい、造作も無いことですからね」

そうですね。お母様なら、仕組みの根底から変えますよね。

 「私にそう言う方はいないので、今のところは不要かと」

とりあえず、先延ばしの言葉でその場を濁してみますが、お母様は実に残念そうな顔をしています。

そんな顔をされましても、私、予定もないですし。

 「それより、コーディの方が早いかと」

 「ああそうね。テュカとかなり仲良くなっているものね」

お母様の中で、私に不名誉な称号が付けられた気がします。べつに、行き遅れじゃないですよ。行く予定もないので。

 「では、私もこれで退室いたします。お母様。きっとスー兄様は無理難題を言ってくると思いますので、サポートして参りますね」

精霊の情報網とか力とかフル活用して、無理難題をクリアする気満々の私を見て、お母様も楽しそうに笑います。

 「そうね。しっかりと頼みましたよ。リィリ」

まずは、もう一度、先延ばしにしようと足掻くスー兄様を黙らせるのが先ですからね。

ほんの少しばかり、平凡には遠いですが、それでも、日々は平穏で、退屈で、楽しい。

そんな毎日が続けば、私には最高の日常ですね。





 その世界は、主の帰還とともに、まばゆいばかりの光に満ちた。

 「お前たち、私の不在の間に、色々としていたようね」

黒かったり白かったりした人たちは、主の威光を受けて、今は虹色に輝いている。

 「いえ、私どもは、その」

 「あの娘では、主様の思うように行かないかと」

しどろもどろで言い訳をし始めるのを楽しそうに聞き流し、主は、座に着いた。

 「私が選んだのですよ。私の意に沿わぬ訳がない」

主の考えがよく分からないようで、今は虹色の人たちは、主の見ているものを必死に追う。

 「さあ、あの子は世界をどう変えるのかしら」

風が吹かねば世界は停滞する。ときにその風は、余所から持ってこなければならぬ時もある。今回は、そういうときだったのだ。

吟味に吟味を重ね、選んだたった一つ。

それが主の思惑を外れることなど有り得ないと、まだ未熟な虹色の人たちは、思うことが出来ず、色々と手を出した。

お陰で、主は、少しばかり不在を長くせねばならなくなったが、それももう終わりとなる。

後はゆるりと、変わりゆくであろう世界を眺めながら、少しばかり騒がしい者達と、過ごすことにした。



この後のお話は、設定こぼれ話です。

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