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22.粗方に片が付いたところ

長らく間を開けつつも、じわじわと進めてます。

まだ気が付いて読んでくださっている方は、本当にありがとうございます。



 大変不味い状態になってきました。

自分の感情というものに頓着していなかったツケが回ってきたと言ったらいいのか。

 「嫌いではないは、好きたり得るのか。という問題に、直面するとは」

なんで好き好んで哲学に足を踏み入れなければならないのかと、誰も突っ込んでくれる人も居ないので自分で突っ込みますよ。

体良くジギを脱落させたついでに、不穏分子をまとめて蹴り出せたのは僥倖ではあったんですけれど。

問題は何一つ解決はしていないんですよね。

 「君は考えすぎなんだと思うよー」

 「……なんでここに居るんですか?」

何故か椅子に縛り付けられた状態で、お茶を飲んでいるエデルに私は深い溜息を吐いて、チラリと視線を向けて、戻すという一連の動作を淀みなく行使して、きっぱりと見なかったことにしようと思います。

 「いやあ、ボクの素行がバレているせいで、君と同席するなら、行動に制限を付けるって言われてさ」

全くもって悪びれるふうのないその態度に、またしても溜息が漏れます。分かっていて、これだけ開き直れるのはなかなか豪胆だと思うので、きっと一人で国家転覆くらい狙えると思いますよ。私は。

 「私付きの侍女の間で、要注意人物と人相書き込みで回ってますよ」

あの押し倒した事件は瞬く間に皆の知るところになったのは言わずもがな。私が動揺していなかったせいで、さほど重要視はされていなかったのは確かなのですが、侍女の間で、それでも、女性をほぼ初対面で押し倒すというのはどういうことだろうかという話になったそうで。

結論が、要注意人物。そして、時に実力行使可。お母様の許しも得て、死なない程度ならと言う、なかなかにギリギリなところまで許可が降りているわけですが、その辺り、エデルは気が付いているんでしょうか。

 「ボクもさすがに命は惜しいから、早々無茶はしないつもりだけど」

私の視線の意味が分かっているようで、椅子に縛り付けられているとうのに、優雅にお茶を飲みながら、ふんわりと笑って見せた。

私にもこのくらいの可愛らしさがあれば、もう少し違ったのんでしょうかね。絶世の美女なんてものは願い下げですが、ちょっと、人の気持ちを和らげる、癒やし系の人間には少々憧れます。

もっとも、目の前の人間は、癒やし系からはほど遠いのですけれどもね。

 「分かっていて、ここまで乗り込んでくるあたり、やはりお一人で十分なのでは?」

何をとは言わず、そう言えば、エデルは悪魔のような笑みを浮かべて、カップに口を付けると、上目遣いでこちらを見た。

こくりと一口、お茶を飲み込むと、もったいぶった間を取って、ゆっくりと返答を返す。

 「やれるやれないで言えば、たぶんやれるとは思うけど、確証がないし、なによりボクも国は好きなんだ。二つ以上に割れたら厄介だろ」

失敗すれば割れることが確定しているその自信がすごいですよ。実際それだけの下地を作っているからこそ、ここに単身乗り込んで来れたのでしょうけど。

そうでなければ、さすがにお母様が門前払いにしているでしょうし。

 「むしろ根回しと、裏工作なら、お父様とお母様に相談した方が、私を落とすより早いですよ」

お母様は特に、そういうことに向いている方ですしね。もしも、エデルの考えが、この国にたいして何の影響も与えないと言うことであれば、姉弟であるわけですし、多少の融通は利かせてくれる気がするのですけれど。

 「でもさ、ぽっと出には箔みたいなのが必要だろ。ほらボク顔が良いから、ちゃらんぽらんだと思われてさ」

ふんわりと笑うその様は、確かに天使もかくやという雰囲気ですが、中身が分かっているだけに薄ら寒いのですけれど。

気取られたところで痛くも痒くもないですが、こう言う腹の探り合いは、表情筋が鍛えられますね。

 「分かっているなら威厳の感じられる態度と言動を心がけたらいかがですか?」

そのくらい分かった上で、侮られる態度を取っているのだとは思うのですけど。もっとも、そうしなければ、身が危険だったという可能性も高そうですけどね。

返答にはあまり期待せず、菓子を一つつまんで、窺うようにエデルを見ると、楽しそうに目を細める。

 「それより簡単なものが目の前にあるなら、ダメだと分かってても挑戦だけはしてみるべきだと思ったんだよね」

意外にしっかりとした返答が返ってきて、思わずその顔を凝視すると、にんまりとエデルは笑った。

悔しいことに、この笑顔がまた、女の私より可愛らしいのですよね。

 「ちょっとは見直した?」

穴と競りすぎだと言いたいのだろう、ほんの少し嘲りをのせた笑みを浮かべて、実に楽しそうですよね。腹が立つ。

 「ほんの少しばかり、貴方がきちんと順序立てて考えていたのだと、言うことは分かりました」

 「えー。それどういうこと?」

言葉の意味が分かっている癖に、こちらの手の内ばかり探ろうという態度が本当に腹に据えかねるのですけど。お母様に聞いた祖国の話しを鑑みると、この性格形成も致し方なしなのかと思えてしまうところが寂しい。

 「そう言う態度で、真意を悟られないようなしているのならば、私からの信頼もその程度だと思いなさい」

信頼をしてくれなければ、元より話しは始まらない。その第一歩からして踏み出していないのだから、この会話は意味がないに等しい。

それはエデルも分かっているのでしょうけど、無駄と思えることも、布石と考えればありなのかも知れませんね。

 「本気を出せって事かな」

胡乱な空気に、侍女達に緊張が走ります。もしかして、刃傷沙汰にと、私の緊張も思わず高まりますよ。

 「その上でお断りすれば諦めて頂けるのであれば、こちらも相応の対応をいたしますよ」

にっこりと笑って、エデルの言葉に答えれば、くすりとエデルは笑いました。

 「この状況で、もし君に本気になったとしても、信用されないだろうし、なにより、君をここから連れ出せるほどに惚れ込ませる自信はないな」

降参というように、エデルは両手を挙げて見せます。

さすがはお母様の弟。私という人間をよく見ていますね。婚姻を結ぶための障害は、私の関心だけではない。私がここを離れる決心をするかどうかもあると、きちんと気が付いている。

 「だから、ボクはもう少し落着いてから、再挑戦の方に目を掛けようかな」

今のままでは、私が警戒をしすぎていて、隙を付くようなことは出来ないと分かっているからこその言葉だとは分かりますが、わたしだって、このまま手をこまねいているつもりなどないのですよ。

 「その目は多分ないと思います」

これが終われば、私はおそらく用意している次の手を打たなければならなくなる。長引かせて良いことにならないのは、今までのことで身に染みていますからね。

 「夢がないな。思えば幾らでも世界は変わる。望めば幾らでも未来は掴める。世界は、未来は確定していない。だから楽しいんじゃないか」

椅子に縛り付けられていなければ、立ち上がって役者のように両手でも広げて見せそうな言葉を吐きながら、そのくせ、自分の言葉を吐いた先から否定しているような態度。

鬱屈しすぎていて、どうにも手を出しかねる相手ですね。

 「そうですね」

 「実感も心も籠もっていないね。君は確かにここに居るけれど、君はここで生きていると言えるのかな」

なぜ、私の周りには妙な野心家が多いのか。

 「波瀾万丈は好きません。平々凡々。退屈なくらいの日常が、私は愛おしい」

 「君はそう言う人なんだね。どうやらボクが見誤っていたようだ」

見誤る? 何を見て誤ったというのでしょうか。

そこまで考えて、あの一件を久しぶりに思い出しました。

 「私は平穏を乱されるのを望まないんですよ」

エデルがはっとしたようにこちらを見た。

だから私は、一層笑みを深くして、同じ言葉を繰り返す。

 「平穏を乱されるのを望まないんですよ」

平穏であるのであれば、私はむしろ何もしないことを望む。けれども、それを乱されるというのであれば、撃滅も厭わないと言うだけで。

ええ、攻撃が最大の防御というのであれば、それもまた手の一つですよ。

 「ああ。そう言う人なのか」

密かに笑みが引きつっているのを見て、やっとしてやったりです。

勝手に評価を下されるのも気に入らないですし、その勝手な評価を更に勝手な失望で下げられるのはもっと気に入らない。

私は別に事なかれ主義で居るつもりなんてないんですよ。ただ、今回は、あの白い人たちとの約束のお陰で、そう見えるように振る舞わざるを得ないと言うだけで。

それもやっと終わらせられると言うところまで来たとうのに、どうしてここで波風を立てる必要があるのか。

この裏の事情だけは誰も知りようのないことですから、仕方ないと言えば、仕方のないことなんですけど。

 「ボクの戦略負けか」

ぼそりとエデルはそう呟くと、控えているメイドに声を掛けます。

 「ボク、帰りたいのだけれど、どうすればいいのかな」

出来るだけ視界に入れないようにしていましたが、どうしたって椅子に縛り付けられている状態は異常です。その異常で異様な空気の中、よくもまあ、お茶など飲んでいたものですよね。

私も、この状態をどうするのか少々気になっていたのですけど、侍女達は、私に一つお辞儀をして、おもむろに椅子ごとエデルを運んでいきました。

笑うべきなんでしょうか。ちょっと対応に困るので、次回があるようでしたら、改善を要求したいところです。




 何とも言えないエデルとの話し合いが終わり、息抜きと称して森の中にまで歩みを進めた。

森の中には浅いところに少し開けた場所があり、私一人がくつろぐには十分な空間。たぶん、精霊達がなんかやったのだろうことは分かっているが、知らないことはなかったこととして、片付けることにして、現実から目を逸らしましょう。

ここ数日で、粗方のことは終わっています。もっとも、一つ一つ片づけていくしかないとは言え、面倒なことには変わりはないのですけど。全て揃ったので、後は後始末と言ったところでしょうか。

なんだか自分で使っておいてなんですが、言葉選びが物騒ですね。やはり疲れているんでしょうか。

保身のために必死に布石を張って、虚勢を維持してみたところで、意味はない。ちょっと考えただけで、私の指先は恐怖に震えているのですから。

私は、怖い。真実を知っていても、その上で今の幸せがあることを分かっていても。それでも、私は、見えないものを恐れて、震える。

そんなことがないと、分かってもいるのに。

弱くて、本当に嫌になりますね。

まあ、どんなに嘆いたところで、私という基準が変わるわけがないのですから、この私で足掻くしかない。

行儀悪くぺったりと座り込んで、木々の隙間から見える青空を見上げれば、ささくれだった気分も少しばかりいやされます。

 「さて、もうひと頑張りでしょうか」

 「何を頑張るんだ?」

ノリューが近付いてきているのは分かっていたので、特段驚くほどのことではないのですけれど、精霊の邪魔なかったのをしなかったのか、それとも、出来なかったのかと考えると、対処の仕方が変わるので、下手に動けないんですが、まあ、私個人としての対応は、そう変わらないので良いでしょう。

 「窮屈であれば、俺と来るか? どうせ義理もないんだろう?」

むかつくほどに的確に、私の心情を突いてくれますね。

窮屈で、面倒ではありますが、それは少なくとも、嫌なことではないのですけれども。

 「正直にいいますと、これまでに私に求婚した方の中では、あなたの好感度は高いのですけれど」

 「種族を捨ててまでではないと」

 「そこまで惚れ込むほどのものもなかったですしね」

ノリューは、私に付随するものを見ていない。だからこそ、一番好感度も高くはあるのですけれど。なんというか、対応が、兄様方を思い起こさせるのですよね。もしくはお父様。

 「それに、私は、庇護されねばならない子供ではないのですよ。残念なことに」

 「それはよく分かっているつもりだ」

なににしろ、ついて行くと決めれば、私には魔種になるしか道はないですしね。

魔種と魔人達が住まう土地は、精霊の加護の薄い場所。私の利点は無きに等しい。生きるためには、魔種になる以外はなくなる。ノリューが人里に暮らすというのもありなのだろうが、たぶんノリューも、そこまで私にのめり込んではいないでしょう。

だから、結局の所、お互い様なのだ。

 「遠い土地に居るお友達程度でしたら、良いですよ」

ノリューは私を連れて行きたいわけではない。また、私のためにここに残ることもしない。けれども、折角ここまで来たのだから、何かしらのものを残したいと思っているのでしょう。

あの、元の世界で言うのであれば、『縁』と言うものを。

 「ああ。それは良いな。手紙を送ろう」

魔種の住んでいるところからここまで、手紙を送る手段があるのかどうかも気になりますが、まあ、手紙が届けばその方法も分かるでしょう。

 「返事を返しましょう」

ちゃんと文通をしようと返事をすれば、ノリューは楽しげに声を上げて笑った。

これを切っ掛けにして、魔種と魔人が、もう少し、こちらと関わりを持てれば良いのですけれど。

さすがに異質すぎる彼らを、簡単に受け入れることは難しいでしょうね。

それでも、すくなくとも、今回の訪問で、彼らとは言葉を交わして、話し合うことが出来るのだと分かったのは、幾分かの功績なのではないでしょうか。

未知のものは、ただ恐ろしい。既知のものは、恐ろしくとも対処が出来る。

それは、かなりの差なのだから。

 「交易が出来るくらいになると良いですね」

 「それは無理だろう」

私の夢物語をノリューはたった一言で一蹴してくれましたよ。夢のない。

それでも私は、今は夢を語りたいのですよ。ただただ甘い、夢物語を。

だって、折角友達になったのですからね。

 「この世には、絶対など存在しないのですよ。ムディランですら、永遠は有り得ないのですし」

世界樹の根の張り巡らされたあの土地は、世界樹とともに滅びる運命ですしね。若木が育てばまた違うのかも知れませんが。どちらにしろ、声を聞く巫女がいなくなれば、世界樹の不調に気が付かず、枯れさせてしまう可能性が高いです。

 「夢物語も、現実になる可能性はあると」

 「そうですよ。もしかしたら、と言う可能性は、いつでもあるのです」

未来が決まっていないことを不安に思うか前向きにとらえるかは、人それぞれですけど。今は、なんとなくですが、前向きに捉えて、楽観的な言葉を紡ぎたい気分なのですよ。

 「精霊の姫は、随分と夢見がちだったんだな」

楽しそうな、それでいて少し苛立ったような気配を漂わせるノリューに、私は切り札を一つ切る。

 「現実を見据えるのに疲れているだけです。けれども、魔人の彼には、迷惑を掛けたと謝っておいて下さい。お陰で助かりました」

 「なんだ。気が付いたのか」

 「ええ。随分と厄介な方々が粗方片付いたお陰で」

最初は気が付かなかったので、本当に悪いことをしたと思っています。ジギは、ノリューに従わされて、一芝居打ったのだろう。おかげで、城に残っていた、兎に角一掃したいと思える方々は、ほぼジギと一緒にご退場願えた。

私の言葉に、しばし考え込むようにしてから、ノリューはにっこりと笑った。

 「気が向いたら、来るといい。息抜きくらいはさせてやる」

まさかの逃げ場所お勧めがくるとは思いませんでしたが、一、二週間逃げ出すには丁度良いのかも知れません。ジュダンあたりを巻き込んで。

 「その時はよろしくお願いします」

自分で言っておいて、肯定されると思っていなかったらしいノリューは、面食らった顔をした後、破顔した。

 「ジギにはその時直接謝ってやれ」

 「それもありましたね」

クツクツと笑うノリューは、今まで見た中で一番楽しそうです。一体何が琴線に触れたのかがまったくなのですが、悪化しているわけではないので、放置で良いでしょう。

なにより、いつ行くか分からないのに、用事だけは、確実に存在するのですから、やっぱり行かないという選択肢は、もしかしてほとんどなかったのでは。

それでも、いずれという話しには、少々心が躍ります。なにしろ、私、レイダレットと、サムロイ、ムディランしか行ったことがないですし。そこでも、観光らしいことは、したことがないですしね。

ちょっとだけ楽しみが増えました。ジュダンを巻き込めば、諸国食べ歩きも夢ではないかも知れませんしね。


あと、長くても、2つくらいで終わる予定なんですけれど。

次くらいで出る話題を、実は、取りこぼしていたが為に、ついでに考えていたものもと混ぜ込んで、続けたのが今回でした。

たぶん、次話が上がれば、これかよって思われること間違いなしな感じのネタですが、この伏線回収だけはしないとねというのもありまして。

いつと確約出来ませんが、もう少しお付き合い頂ければと思います。

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