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14.色々と始まったところ

 まあ、普通に考えて、あの軽薄そうな白い服を着た連中が、あの程度で終わらせるはずがない事は分かっていたはずだと、私はため息混じりで自分に言い聞かせた。

だいたい、精霊と話が出来ると言う事は、使役できるという事だ。今までの騒動でその力はほとんど必要なかった。なくとも何とかなったことばかりだ。

そうなれば、この力が必要な事柄が絶対に起こるという事になる。

そのことの発端がこんなことだとは、さすがに思いもよらなかったけれど。




 レイ兄様とクー兄様がレイダレットに留学に行って一年ほどが経ち、至って城は平穏だ。

特に、コーディとマリ姉様の生き生きとした顔と言ったら。とてもではないが、レイ兄様とクー兄様には見せられない。いえ、もともと見れるはずもないのですけれどね。

窓の外を見れば、気持ちが良いほどの青天で、少し遠くまで散歩に出てみようかという気になった。

 「近くの森に行くくらいだったらいいですかね」

口に出してそう確認したのは、一人出てかけるためだ。たまにこうして、お忍びと称して出かけていくが、完全に一人で出かけているわけでないことくらいは、知っている。

気配を捕まえようとした事もないし、探そうと思った事もないけれど。

それに、一人で平気だなどと言うつもりもない。一人でなんとかできない事もないとは思うけれど、本気で自分を殺そうとした人間が大勢きたら、精霊たちの力を借りたとしても、私は生き延びられないかも知れない。

生き延びる事が出来るだけの力があったとしても、あくまで振るうのが私である以上、純粋な殺意に正気を保っていられるとは言えないからだ。

あくまで私は、私が素人である事を知っている。まして、体を動かす事はそれほど得意というわけではないですしね。

一対一であれば、負けないと断言できるけれども。あくまでそれは正攻法での一対一での事で、隠密行動に優れた相手となればその限りではないかも知れない。

私の力なんてそんな物だ。あくまで私の精神は普通の女性で、何か特殊訓練をしたというわけではない。

前世の記憶があると言ったって、そこでも、何かをしていたわけではないし。せいぜい護身術を少々囓った程度だ。

 「考えてみると、私って、かなり役には立ってませんね」

くすりと笑って、私は、城を抜け出し、すぐ近くの森へと向かった。



 森の中は、木陰になっているため、少しひんやりとしているが、夏に向かっている季節は、少しづつ熱を孕み始めていて、木陰でなければ日中は動けば汗ばむ程度の暑さにはなってきた。

 「やはり、うるさいですね」

残念な事に、木々の声や動物の声を理解する私には、森は静かな場所ではない。むしろ騒々しいと言っても良いくらいに、あちらこちらから声が聞こえてくる。

 『やあ、リィリア。今日も抜け出して着たのかい』

すっかりと顔見知りになってしまった、森の中を住み処にしているリスによく似た生き物は、気安く私に声をかけてくる。人間に対して警戒をしないなんて、野生動物としては失格ですよ。他の動物を見なさい。私に声をかけるのはためらって遠巻きにしているじゃないですか。

その距離が、いささか近い気はしないでもないですけど。

 『人聞きの悪い。ただの気分転換です。少ししたらすぐに戻りますよ』

私がそう言うと、クスクスと笑って、木の上に登って行ってしまう。

彼はどうも、森に入ってきた私に一番最初に声をかけるのが好きらしい。

そんなことを思っていると、精霊たちがそろって肩をすくめた。

何を言いたいのかは何となく察しているが、まず、関係を作る事からあり得ないだろう。

 いつものように森の奥を目指していると、見慣れない何かが目の端に映った気がして、私は思わず足を止める。倒れている人の体の一部のような気が。

もし本当に誰かが倒れているのであれば大変だと、木々に問いかければ、小さな子供が倒れているという返事が返ってきた。

手足が傷つくのも躊躇わずに、藪をかき分け木々の示した場所へと急ぐ。どうやら気絶をしているだけで外傷はないようだと言うから、逆に心配になってきた。外傷が無くて倒れている方がむしろ心配だ。内側に怪我をしている可能性だってある。

 「いたっ」

慌ててその体を抱き上げて、私はあっと叫びそうになるのを必死にこらえた。

その子供の姿は、獣人のようだったからだ。尻からたれたふかふかそうな尻尾と、耳もふわふわな毛に覆われた獣のような耳だ。足の形地も人のそれとは少し異なっている。

間違いなくこの子供は獣人だ。もっとも、正しくは精霊種と言うのだけれど。

その昔、人と精霊が交わっていた事があり、その種族が彼ら獣人なのだ。ずっと昔。また人が獣に近かった頃の話らしい。精霊たちが言っているのだから、間違いはないだろう。

けれども、獣人たち、精霊種が住むのは、高い山や人里離れた場所が多く、人間と接触する事はほとんど無い。

そんな獣人の子供が、なぜこんなところで倒れているのだろう。

そんなことを考え込みそうになってしまったが、まずは怪我をしているかも知れないのだから、城に連れて帰らなければ。

その後、どうするのかは、スー兄様とお母様に相談しよう。こんな小さい子供を早々、無碍に扱う事はないとは思うけれど、獣人であるため、どういう処遇になるのか、私にも想像付かない。

 「とりあえず、城に帰りましょう」

どうなるのかをここで考え込んだところで仕方がない。とにかく、すべては城に帰ってからだと、私は大急ぎで城を目指した。



 ぜいっと肩で息をし、子供を預けると、私は、そのまま崩れるように床に座り込んだ。

さすがに子供一人を抱えて、ここまで休み無く足早に帰ってくるのは、私の体力ではかなり辛い物がありましたよ。

 「リィリ」

心配そうに、マリ姉様が私を覗き込んでいるけれど、今は、大丈夫だと返事をする事も出来ない。

何とか笑みを作って、大丈夫だという事を伝えると、私は、ぐったりと、壁にもたれかかった。

 「リィリ。水、持ってきたよ」

スー兄様がやってきて、水を差しだしてくれる。息が整っていないため、水を飲むのも一苦労だったけれど、のどが渇いているのは確かだ。整わない息の元、息を詰めて水を飲んでは、息苦しさに呼吸を乱すというのを繰り返しながら、何とかやっと落ち着いてきた。

 「ありがとうございます。スー兄様。心配かけてごめんなさい。マリ姉様」

コーディは、獣人の子供が気になるようで、子供の診察に付き合っているようだ。

 「あの子供、どうしたんだい?」

何があったのかと、スー兄様は心配そうに私の事を見ている。けれども、私も何かあったというわけではなく、こうとしか言いようがなかった。

 「少しだけ森で気分転換をしようと、お城を抜け出したところ、あの子供が森で倒れていたのを見つけたんです」

城を抜け出したと聞いたマリ姉様が、ほんの少しだけ目を眇めたのが見えたけれど、気がつかないふりをする。今までだって、あの森にはさんざん行っていたのだ。とは今更言えない。

 「獣人の子供がこんな所にいるってこと自体、異常なんだけどね」

考え込むようにして、スー兄様があごに手を当てる。子供が一人で行動しているという事も奇妙であるし、その種族が精霊種であるというのも奇妙なのだという事は、私も分かっていた。

 「ええ。怪我をして、逃げてきたというのなら、まだ分かるのですけど、目立った外傷もなかったので。でも、そうなると逆に体の中が傷付いている事もあるかと思うと、怖くて」

あのまま、眠ったようなまま死んでしまうのかと思うと、怖くてたまらなかった。だから私は、走る事をやめられなかったのだ。

 「ああ。多分それはないよ。医者ではないから、断言は出来ないけれど」

スー兄様の言葉に、私はほっとしてその場に崩れそうになった。誰かが死ぬのは嫌だ。彼女の死にずっと怯え続けていた私は、人の死がことさら苦手になっていた。

 「良かった」

ほっとした所為で完全に脱力してしまった私を、スー兄様は抱え起こすと、苦笑しながら、歩き出す。

 「こんなところで座り込んでいると、体が冷えてしまうからね。せめて、部屋に移動しよう」

家族で過ごす部屋に移動して、そのソファに腰掛けると、今度はマリ姉様が温かいお茶を注いでくれた。

ほっとするその香りに、私が口元をほころばせると、マリ姉様が嬉しそうに笑う。

 「で、リィリ。本当に無茶はしてないのね」

 「ええ。森で子供が倒れているのを見て、動転してしまっただけです」

再度そう言うと、やっとマリ姉様も納得してくれたようで、私の隣りに腰掛けた。

スー兄様も、向かいに腰掛け、城の医師の診断を待つ事にする。スー兄様も平気だと言ったので、最悪を考える必要がなくなったのは本当に良い事だ。

顔などを見ても、やせ細っていたというわけでもないから、栄養失調という事もないだろう。

けれども、そうなると、結局疑問だけが残る。

 「獣人の子供が、一人でこんな人里近くに来るなんて、有り得るんでしょうか?」

獣人と言っても、元を正せば人の血が混じっているため、生活様式にさほど差があるわけではない。父親と母親、子供という、最小の家族単位は私たちと一緒だし、親は子供を可愛がり、成人を過ぎるまでは手放す事はないはずだ。

 「そればっかりは、本人に聞いてみない事にはね」

何とも言えないと、スー兄様もそれきり口をつぐんでしまった。

お互いに色々な憶測が胸中に燻っている。それを言葉にしてしまえば、そこから生まれるのは疑心暗鬼だ。だからこそ、憶測を口にする事は、あまり得策とは言えない。

 「何でもないと良いわね」

おっとりと笑って、マリ姉様がそう言う。

その言葉に、一瞬何を言われているのか分からなかったが、すぐに思い至った。

 「ええ。怪我など本当に何もなければ良いんですけど」

元気であれば、獣人の住むところに返す事も出来る。私とスー兄様は、少しばかり考え過ぎだったようだ。

 「本当にそうだね」

二人でこっそりと苦笑して、私とスー兄様はマリ姉様を見る。本当にマリ姉様は凄い。いつだって、自分の見ている世界を見失わないのだから。

そうして三人でお茶を飲み、ただ、ゆったりと、獣人の子供が無事である事を思いながら、知らせが届くのを待っていた。

新シリーズです。と言うか、ある意味、本編的感じなんですが。

多分、逆ハーレムっぽい物になっていく予定です。

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