第8話 -みち-
今までは、綱渡りをしている感覚だった。
その時を必死に生きて、少しでも道を外れれば奈落に落ちる。
その時誰も助けてはくれなくて、きっと落ちたことすら気付かれずに終わる。
ずっとその中で生きてきた。
それがたった今から明るい未来で周りに助けられて、なんてそんな風に変わるとは思ってはいないし、闇で出会ったこの二人だって、闇の中の住人で、光の下では生きていかない理由があるから俺を拾ったんだと思う。
そもそも、”落とし物”だって誰かしらの命がかかるようなものなんだろうから
そんなことに巻き込まれたのは俺なのに、あの世界から抜け出せたことがあまりにも幸福で
彼らへの距離感を勘違いしている気がする。
彼らは裏社会の人間。
そして俺は、一応は一般人。
俺なんかが足を踏み入れて生きていけるような道ではないだろう。
だけど、こうして彼らの領土へ進んでいる。
綺星さんが言った通り疲れているんだろう。
あまりにも、思考がまとまらない。
もやもやと考えていると、ゆっくり車が停まり、綺星さんと桜夜さんが車から降りる。
桜夜さんに急かされて俺も車から降りると、いかにもという感じの大きな和風家屋がそこに鎮座していた。
「でっか…」
思わず呟くと、桜夜さんがケラケラと笑っていた。
「あれ、珍しいね。いつもは時間なんて構わずお迎えの人が来ているのに」
「蒼空がいるからな。」
「へぇー、随分過保護だね。」
「消えるか?」
「ふふっ、まさかぁ」
二人はよくわからない会話をした後、桜夜さんが怖ーいと震える真似をしながら
俺の方へ駆け寄って来た。
「ここはねぇ、《《黒崎組》》っていう組の仲間が暮らしているお家。
沢山の仲間が暮らしているからこれから覚えるのが大変だねぇ」
そう言い終えると、「僕は寝るねぇー」と猫のように自由に家の中へ消えた。
「なんか、猫みたいだね。桜夜さんって。」
「化け猫だろ。」
そう言うと、綺星さんはチラリとこちらを見た。
「っ、〈プルルルルっ〉」
綺星さんが何かを言いだそうとした瞬間、どこかから機械音が鳴った。
彼の、スマホだ。
「なんだ。-------、ああ。わかった。」
電話の最中、露骨に表情を歪ませた綺星さん。
電話を切りながら俺から、一切目を離さない。
俺も、その目に捕らえられたかのように瞬きすることさえ躊躇う感覚になる。
息をするのがやっとで、命の期限を握られているような。
恐怖
その言葉が一番近い。
綺星さんが動き出しこちらに近づく。
今すぐにでも逃げ出したいのに、身体が全く動く気がしない。
呼吸は浅くなり、指先が冷たくなっていくのがわかる。
俺の目の前まで来ると短く息を吐くと、目を細めこちらを見下ろす。
あまりの圧の強さに足が震え、だけど目線を外すことが出来ない。
「なぁ、蒼空」
深夜の空間に、俺の名が震える。
「やっぱり」
「殺すか。」




