第31話 -つきあかり-
「私ね、貴方のこととても可哀想だと思ってるんです。」
適当な本とぺらぺらとめくりながらそう呟く朔月さん。
「可哀想…?」
「あぁ、どうか気を悪くしないでくださいね。正直に何でも話してしまう性分でしてね、
直したいとは思っているのですが。」
流石この組で、綺星さんの下につく人だ。
前に聞いた話では、色々な幹部会議にも参加して作戦の組み立ても担っているらしいし、頭がいい人なんだろう。
性格も良さそうだけど。
「だって本当のことでしょう。親に捨てられて、行きついた先の施設でも人権はなく、終いにはこんな裏社会に引きずり込まれて。
その年にしては相当可哀想な子だと思いますよ?しかも全て、他人の所為で。」
わざとらしく肩をすくめながら、どこか楽しそうに話す朔月さん。
「まぁ、幸せな人間の道は歩んでいないことくらいわかってるよ。
違うか。
幸せな人間の道は歩んでいなかった、の方が正解かな。」
「というと?」
「俺は、裏社会に引きずり込まれたことそこまで不幸だったとは思ってない。
あのままあそこで生きていた方が、不幸だったと思う。
それに、あのまま生きていたっていつこの世から消えるかばかり考えていたし、
ここに来て、俺が今まで生きてきた中では一番に幸せな道から近いと思うよ。」
「そうですか。
やっぱり、私は貴方のこと嫌いです。」
ニコリと笑って言葉を放つ朔月さん。
「”何も持っていない子供”という事実を持っているだけで、綺星さんに拾われ様々な部分で優遇を受けている。
それなのに自分は不幸面をして、全てを受け入れる大人のように振る舞う。
それなら、感情のままに生きる風斗の方がよほど人間らしい。
ここには、貴方みたいな道を歩んできた人間なんて腐るほどいる。
だけど、タイミングが違うだけでいる場所もまるで違う。」
「朔月さん。」
朔月さんの言葉を俺の声が遮る。
「それって、俺への忠告だよね?」
朔月さんの表情が微かに変わる。
「朔月さんの意見と言いうよりは、そういう意見が上がっているっていうことへの忠告でしょ?」
「何故そう思います?」
「だって、朔月さん俺の立場なんて全く興味ないじゃん。」
俺の言葉に、ぺらぺら遊ばせていた本をパタンと閉じこちらに向き直る。
「興味ないわけではありませんよ?
あの人が興味を示して、無条件で自身のテリトリーに置いている存在。
そんなもの今までなかったですからね。興味はあります。あくまで、貴方自体に
ですけどね。」
その言葉に、とりあえず頷く俺。
「それで?俺はどうすればいい?」
「それ、私に聞きます?」
「だって他に誰に聞けばいいのさ」
「はぁー…本当に厄介なガキですね。」
「んーありがとう。」
そんな減らず口をかきながら俺も、適当な本に手を伸ばす。
「こればかりは本当に意外だったのですが、貴方本好きなんですね。」
「うん。好きだね。
唯一好きって言えることじゃないかな。
まぁ、機会が無くて今までそんなに読んでこなかったけど。」
朔月さんが一冊の本を差し出して来た。
「どんな本?」
「私のお気に入りの本です。
信用していた人間に裏切られた人間の物語。
実に人間臭くて滑稽ですよ。
あなたがこれから、この檻の中でなるべく平穏に暮らしていけるよう考えながら
その本の感想も楽しみにしています。」
月明かりのように綺麗に光る瞳で、にこりと笑いながら話す朔月さんにここに来て初めてのイラつきを覚えた。




