第26話ーまいごー
優しく呼ぶ声に、ゆっくりと視線を向ける。
こちらをのぞき込むように見る綺星さんの姿。
「ふはっ」
その表情が一気に笑顔に変わった。
「どんな顔しているかと思えば、そんな迷子の子供みたいに。」
そう言いながら俺の頭を撫でてくれた。
「蒼空、俺もしっかり伝えていなかったからそんな風に思わせたんだな。
すまなかった。
一個だけ聞いて欲しいことがあるんだが、いいか?」
そう言う綺星さんに俺は黙ってうなずく。
するとまた、少し笑った。
「俺や、桜夜。ここにいる奴らに組の中で、会ったことのある奴ら。
そいつらが死にたいと言ったらどうする?」
投げかけられる質問。
「…止める。理由を聞いて俺がどうにかできるのなら止める。
それでももし、決意が変わらないのなら俺も、一緒に死ぬ。」
その答えに、またわしゃわしゃと頭を撫でられる。
今度は、朔月さんが撫でてくれていて、少し悲しそうに俺を見てた。
「どうして、蒼空はその誰かを止めたくて一緒に死んでやろうと思った?
どうして死んでほしくないと思った?」
「どう、して。」
死んでほしくない理由。
「一緒にいれた時間は楽しかったし、まだその人と一緒に過ごしたいと思うから。」
「そうだな。なら、そいつが蒼空に何も返してくれない、何も持たない人間だったとしてその気持ちは、変わるか?」
そんなの。
「変わらない。変わるわけが無い。」
そう言い切る俺に、綺星さんが少しだけ頷く。
「それと同じことだ。蒼空」
「…え?」
「俺は、確かにお前を拾った。玩具やペットと同じような感覚で。
始めは、飽きたら捨てる気でいたさ。死にたがりのお前を殺してやってもいい。
俺は、人の心っていうモノがもう欠落している人間だから、何のためらいもなく
人を殺して来た。
その他大勢と同じになる予定だったよ。蒼空」
その他大勢、その認識はあっている。
そしてそれは、今も今後も変わることはない。
「一般人のお前を巻き込んで、こっちの世界に引っ張って来た責任を取るために俺が面倒見ている。
お前が攫われるまで、その認識でいた。
だけど、攫われた事実を聞いて俺は一瞬反応が遅れた。その言葉を理解するのが遅くなった。
その時はじめて気づいた、俺はお前を一人の人間として一緒に過ごしていたんだと。
過ごした少しの時間が俺にとって居心地が良くて、当たり前にこのまま続くもんだと思っていることに初めて気づいた。
だから、お前を失うのが嫌になったしこんなところにまで迎えに来た。」
…何を言っているんだろう。
きっと、俺に向けて言ってくれているんだろうけど
こんな都合のいい言葉が流れてくるはずがない…。のに。
「あぁーもう、回りくどいんだよ。綺星は」
ぐるぐる回る思考回路の中に、桜夜さんの声が入り込む。
「結論、何が言いたいかってね?蒼空、”俺”達は蒼空のことが好きだし、一緒に過ごした時間はまだ短いけど、まだまだ同じ時間を一緒に過ごしたいと思ってるの。
だから死んでほしくないし、飽きて捨てるなんてこと絶対にないよ。」
一気に視界が歪んだ。




