第21話 -みらい-
人はいつか死ぬ。
そんなことは、生まれた瞬間から決まっている。
だけど、その終わりが見えないから、人は毎日を楽しみながら生きる。
その終わりが見えないことによって、苦痛を感じるとしたら?
綺星さんが実際どんな人間なのかとか、とても非道な人間だとか
そんなことはどうでもよかった。
でも、俺は弱いから。
綺星さんと生きることは本当に楽しかった。
他の人たちとの出会いも、一生の宝にできるくらい楽しくて嬉しくて。
その気持ちのまま生き続けられるのなら、これほど望むことはない。
でも、いつか綺星さんに終わらせられる未来があるならこのまま、
楽しい記憶のまま死にたい。
そう思ってしまったのが、俺の弱さ。
生きることを諦めることを伝えた電話口は異常に静かで、まるで誰もいないみたいだ。
「あの、綺星さん?」
『…ああぁ、聞こえている。
蒼空、今誰といる?』
………え?
俺今、死ぬことを伝えたよな?
まぁ、この人にとっては俺が死ぬことなんて痛くも痒くもないから関係ないんだろうな。
「えっと、「久しぶりー!澪だよ!!」」
俺が紹介する前に、横から話し出す澪。
「もー!ダメだろぉ?蒼空ぁ!!
死ぬなんて言っちゃ!君は、ボクの隣で生きていくんだから!!
そして、ボクが死んでいくのを見ていてくれなきゃなんだからな!裏切りはなしだよ!」
キスでもできそうな距離で、とても楽しそうに笑いながら自分の最期を語る澪は酷く綺麗な瞳をしている。
『お前、何でいる。』
聞いたことのない綺星さんの声が聞こえる。
「蒼空、そいつの声小さくて聞こえないからスピーカーにして!」
言われた通りスピーカーに設定し、耳からスマホを離す。
「久しぶりだねぇ!綺星、元気に人間の真似事やってる??死神さん」
『質問に答えろ。何でお前が、蒼空といるのかと聞いている。』
電話越しでも感じる、綺星さんの圧。
「なんでだと思うー??お前が、随分貧相な守り方しているからじゃない???」
そんな中でも、一切怯むことなく会話を続ける澪。
やっぱり、この世界は俺なんかが足を踏み入れる領域じゃないことを改めて知らしめられる。
「でも、教えてあげるね!ボク優しいから。
蒼空はボクと生きることに決めたんだよ!お前の声を聴いて決心が緩んだみたいで
死ぬとは言っているけど、あとでしっかり聞かせればまた生きると言うよ。
お前みたいに、いつ殺すかわからない奴と生きるのは危ないからね!
ボクが選ばれたんだ!蒼空に!」
正直、どうして澪がここまで俺に固執するのかがわからない。
綺星さんや桜夜さんに恨みがあるにしても、きっと俺を人質になんか取らなくても、攻撃する気になればいくらでもできるだろうし、なにより風斗がいないタイミングがどうしてわかったのだろう。
内通者…。
暗い思考回路に陥っている俺は、悪い方にしか考えがまとまらない。
「澪。綺星さんと話をさせて。」
今もなお饒舌に話す澪からスマホを取り上げると、少し拗ねた澪は床に寝転がりまた、自分の世界に入っていく。
「綺星さん、俺を殺してください。
場所は初めて生きる理由を掴みかけたあの場所で。
勿論ひとりで行きます。今日の夜。待っています。」
一方的に伝えると、俺は電話を切った。
「来るように伝えた場所は、森の中で死角も多い。
いいでしょ?そこで」
「うん!!!」
「あと、意味の分からないことばかり伝えないでくれる?
本当に、綺星さんに殺されでもしたらどうしてくれるのさ」
俺の言葉に、澪はよほど興奮しているのか奇声を上げながら部屋中を駆け回る。
さぁ、騙されたのは誰。




