第18話 -かんじょう-
あのとき、”落とし物”を拾わなかったらこんな目にあっていなかったんだろう。
でも、綺星さんに会うことも、拾ってもらうことも、あそこから連れ出してもらうこともなかった。
選択権はほとんどなかったけど、連れ出されることを選んだのも、生きることを選んだのも、
最終的には自己責任。
今も、逃げ出すタイミングなんてあっただろうけどあの家で過ごしているのも、自身の判断。
だから、こういう目にあった時だけ綺星さんのせいにするつもりは全くない。
…ない、けど。
この状況から抜け出したいし、ここから助けてほしいとは正直に思う。
俺は、あれから人気のないプレハブ小屋に連れてこられていた。
中に入ると、運転手を合わせて5人男がいてその人たちに囲まれている状況。
その中でも、頭のねじがぶっ飛んでる奴がいた。
運転手と俺が小屋に入るなり、運転手を殴り飛ばして俺にすり寄りとても近い距離で俺の
顔をまじまじと見ると、ニカリと笑うとふらふらと置かれたソファーへと倒れ込んんだ。
そして俺を、隣に呼ぶと今もなおゼロ距離で興味津々に俺を観察している。
「あの、距離近くないですか?」
「えぇ?いや?」
「いや、ですね。正直。他人にここまで近付かれるのは。」
「ふふんっ、ボクは好きっ」
ああ、会話できない人かな。
この状況で、誰も何も言わないんだから多分この人がここでは一番上の人、なんだろう。
さっき殴られていた人も、文句を言う様子もなくいるし。
「ボクねぇ、澪っていうんだぁ!よろしくねぇ蒼空」
首を左右に振りながら笑顔で話す様子は、恐怖を覚えるほど異常に見えた。
「さっきここに来る間にも話しましたけど、前に拾ったUSBとかはもう、綺星さんに渡しているから手元にないですよ?
中身も見ていないからわからないし、俺なんかがあの人たちにとって人質として成り立つように存在じゃない。
命乞いをするわけではないですが、解放条件を他に提示してくれないですか?」
俺がそう問うけど、澪と名乗ったその男はニコニコと笑うだけで反応はない。
「ボクねぇ、あいつの事大嫌いなんだよねぇ」
表情は変わることなく呟く澪。
「綺星と桜夜。あいつらはね、死ぬべき人間なんだよ。
この世にいたらいけない人間。
人を裏切り、人の大事な人を殺して、なんも責任取れないくせして始めは他人に優しさを与える。でも、最後は捨てておしまい。
きっと、蒼空も同じ運命だよ。
ボクは君の、その後さ。
信じたあいつらに裏切られた。
だからボクは思ったんだよ。
次はボクが、あいつらを苦しめてやろうってね。」
……何を言っているんだ?
「蒼空のこと、必ず迎えに来るよ。あいつらは。
まだ、恩を売っておきたい時期だろうから。いいように使って使って使いまくって、捨てられる頃には、きっと君は戻れなくなっている。
今まで独りで生きて来た自分には。
そうなって行く様をただただ、楽しんでいるだけだ。
だから、遊びで助けた君に裏切られて死ぬっていう運命をあいつらに
プレゼントしてやろうと思うんだ。
いいと思わない?
蒼空が捨てられる前に、こっちから切ってやるんだよ。
だって、君を肥えに肥えさせて最後はハイエナたちに食われていく君のさまを
笑って見るために今、あいつらは君を生かさせてる。
そんな奴らのところで生きるより、ボクと一緒に生きようよ。
ボクは、簡単だよ。
ボクを楽しませて?
ボクが楽しくないと思った瞬間に、ボクは君を殺す。
そして、君はボクに楽しさを感じなくなったらボクを殺せばいい。
簡単でいいでしょ?
ね?ボクと手を組まない?」
わかっていたはずだ。
俺は、玩具として拾われたって。
それは理解して、それでもよくて、あの場所にいるはずだ。
綺星さんも、桜夜さんも
こんな玩具にすごくよくしてくれる。
組の人たちも、俺にはいつも優しくて、内情は知らないけど
本当にただの仲のいい人たちが集まって、生活しているようにしか見えなくて。
そこに、紛れさせてもらっているだけでとても有難いことなのに。
でも、どんなにそんな時間を過ごしても、結局俺は、綺星さんの玩具で、ペットで。
命の手綱を、綺星さんに握られていて、澪の話を信じるのなら、
その手綱は本当に、簡単に死神へと渡される。
俺は、別にあの人たちと生きていきたいわけじゃない。
少しでも、楽に、生きていきたいだけだ。
「澪にとって、俺の楽しさって何。」
俺の問いに、澪は満面の笑みに変わり答える。
「何でもないよ、ただ、蒼空は今まで関わったことのない特別な人間なんだよっ
だから、ありのままで生きていてくれれば、それでいい。
君を君が殺さずに、君らしく生きていてくれればボクが君を殺すことはない。」
殺さない。
そう言い切る澪。
それなら、こっちで生きる方が何倍も楽に生きられそうじゃないか?
俺は、少し間をおいて。
軽く息を吸い込むと、澪の笑う瞳を捉えた。




