第14話 -やくそく-
満天の星空の下俺は、生きる理由を作ってみた。
この星を、また見るために生きてみる。
安い理由だけど、今の俺には十分すぎる理由だ。
「帰るぞ。」
夜と深夜の間がなくなるころ、綺星さんが声をかける。
俺はそれに頷き、渡されたヘルメットを被る。
〈コツン〉
ヘルメットの上から、綺星さんが俺をこずく。
「生きる理由が曖昧になったら言え、連れて来てやるから。」
その言葉にうなずく俺を見届けて、綺星さんはバイクを走らせた。
これから先、何が起きるかわからないしこれまでよりも、生きづらい世界にのめり込んでいくかもしれないけれど、それは、あの頃には無かった選択肢。
結局、綺星さんが先生をどうしたのかとか聞けずにいるが、きっとそれは俺には関係のないこと。
そこは、聞いても本当の事を教えてはくれないだろう。
だけど、それでいい。
だって、俺とこの世界は本当だったら交わっていない世界だから。
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深い時間になり、《《黒崎組》》の家へ戻り朝、目覚めた部屋へと戻るため長い廊下を歩く。
「部屋、用意してくれてありがとう。」
「気にするな、あくまで巻き込んだのはこちらだからな。
両隣の部屋は誰も使っていないが、向かいの部屋は俺の部屋になっているから何かあれば声を
かけろ。それに「それに、斜め向かいには僕の部屋もあるしねぇ」」
明らかに綺星さんではない声が聞こえ、振り返ると壁にもたれ掛りながらこちらを見る桜夜さんの姿があった。
いつも、ハーフアップにしている髪を下ろしたその姿は、なんだか現実離れしていて
異次元のような雰囲気がした。
「なんだ、起きてたのか。」
「勿論起きていたよ。蒼空に何して来たのか教えてねって約束していたからねえ」
初めてのことの連続で、とても戸惑うが思い返してみれば、誰かと約束をしてそれを守る
なんてことも初めてだ。
「…星が綺麗に見える場所に連れて行ってくれた。
今まで見てきた星とは全然違くて、生きる理由にしてみようと思った。
綺星さんも、桜夜さんも、ありがとう。」
2人の顔を見ながら伝えると、2人は静かに笑ってくれた。
「週明けからは、いつも通り学校に行っていいからな。」
「え?」
2人に見送られながら部屋に入ろうとすると、思い出したように綺星さんが呟いた。
「そりゃそうだよねぇ、こんな世界の為に幼気な高校生の青春を奪うなんて出来ないもんねぇ」
「…行っていいの?でも、俺、バイト代も先生に持って行かれてたから貯金とかなくて、学費払えないし…もし、バイトしていいならバイトで学費は稼ぐんだけど…。」
俺が慌てて言うと、また桜夜さんがケラケラと笑う。
「あはははっ、大丈夫だよぉ蒼空。そういうのは気にしなくてぇ。言っておくけど、ヤクザってちゃんとお金あるからね?俺も、綺星もポケットマネーで、蒼空の学費払えるくらいのお金はあるよぉ。」
「え!?」
あんなに苦労しても、全く手に入らなかったお金がこの人たちはそんなにあるんだ。
羨ましさとかじゃなくて、それを巻き上げて適当なことに使っていた先生への怒りが少しだけ湧いてきた気がしたが、もう終わったことだ。
忘れよう。
「まぁ、そういうことだ。気にするな。
だが、他の組の動きもある程度入ってきてる今、動きを制限させることもある。
うちの組にも、蒼空と同じ年齢の奴がいる。
違う学校に通っているが、転校させるから出来るだけそいつと行動しろ。」
淡々と話す綺星さん。
「え!?いやいや!その人だって、今いる学校で友達とかそういうのあるでしょ!?
俺なんかの為に、転校なんてさせないでよ。」
慌てて言うが、2人は少し困ったように笑い、桜夜さんが口を開く。
「そいつ、ほとんど学校行ってないんだよねぇ。こっちの仕事したいって言って
だから、蒼空の護衛を仕事にさせて学校にも行かせようと思ってねぇ。
逆に人助けだと思って、頼むよぉ。」
桜夜さんの言葉に、少し納得し「わかった」と伝えた。
「明日にでも、そいつに挨拶させるから時間頂戴ねぇ。
俺が従えてるグループ、みたいなのがあってその中の1人だから、よろしくねぇ。」
「うん、わかった。」
2人に「おやすみ」と挨拶をして、俺は用意してくれた部屋に入った。
部屋には、布団が敷かれていて持ってきた僅かな荷物が部屋の隅に置かれていた。
あの時は、時間も無くて慌てていたし、気も動転していたから何を持ってきたか正直覚えていない。
俺は、その荷物を取り出した。
着替えが少しと、生活に必要な小さいものが数個、あとはくしゃくしゃになった紙。
その紙は、施設にいた弟・妹たちが書いてくれた手紙と絵が描かれている。
随分前に、子供たちがいつも世話をしてくれる俺にとプレゼントしてくれたものだ。
誰かから貰った、俺宛のなにか。
これだけは絶対に捨てられなかった。
俺はそのくしゃくしゃの紙を出来るだけ綺麗に直し、机の上へ置いた。
あの子たちは、元気だろうか。
そんな事を考えながら窓の外を見ると、未だに星たちが世界を照らしていた。




