第13話 -かがやき-
流れていく全てを見ることも、感じることも出来ない。
きっと今までだって、何かを見落として、何かを忘れて生きて来ていると思う。
だけど、その見落とされる方ではなくて見つけられた方としてここにいる。
生まれて初めて。
もし、この手を離したらこの人はまた拾い上げてくれるのだろうか。
きっと、2度はないのだろう。今、ここにいることだって多分たまたま。
思い付きで拾ってくれた。
だから、あまり感じたくない。人の温かみを。
また、独りになったときにどう生きていけばいいのかがわからなくならないように。
綺星さんを掴む手の力を少しずつ緩める。
ここで離してしまえば、この夢の中のまま終われる。
そう願いを込めて。
だけど、現実は、綺星さんはそれを許さなかった。
緩められた手を自分の手で掴み元の場所に戻された。
戻された手の上に自身の手を置いて、離すことをさせなかった。
この人は、こんなにも温かい人なのに、今までに人の命を終わらせてきた過去がある。
その不釣り合いさに、少しだけ笑ってしまった。
人の命に対して笑えてしまうんだから、きっと俺の心は壊れている。
今まで受けていた風の勢いが弱まり、気付けば辺りに明かりは無く柔らかい風に揺れる
木々の音だけが支配する場所へと来ていた。
「おい、しっかり捕まってろ。落ちたら死ぬぞ。」
バイクを止めるなり、綺星さんに言われた。
「ごめん、なさい。」
「はぁー、帰りはやるなよ。そう簡単に殺してやらないからな。」
その言葉に思わず顔を上げると、ヘルメットを外した綺星さんがこちらを少し笑って見ている。
「俺、死にたいのかな?」
「さあな、その答えを知るためにも生きてみればいいんじゃないか。
…まぁ、いい。こっちだ。」
綺星さんが、木々遠くへと進むから俺も慌てて後を追った。
「ほら、見てみろ。」
しばらくすると綺星さんが立ち止まり、こちらを振り返る。
辺りを見渡すが相変わらず木が生い茂っているだけで、特に何もないようにみえる。
首を傾げながら綺星さんの顔を見るのに、視線を上げると「ふっ」っと微かに笑う
綺星さんと、その奥に広がる無数の星たちが見えた。
「わぁ…、綺麗…。」
俺は、在り来たりな言葉しか出てこなかった。
「ははっ、晴れててよかった。それに今日は新月だ。光が極限までなくて余計に星が見えるだろう。」
「新月…」
「月が、光がない夜の空。光が無くても、見えるものは多くある。」
「…………。」
〈バサッ〉
何かが倒れるような音がして、その方向を見ると綺星さんが地面に横になっていた。
「綺星さん?」
「いちばんよく見える。地面には横になれないお坊ちゃまか?」
「っ、となり失礼します!!!」
「はははっ」
綺星さんの言葉にムキになり、隣に寝転んだ。
「少しの時間目を瞑り、ゆっくり開けてみろ。」
綺星さんの言うとおりに目を瞑ると、少しして目を開けた。
「………っ。」
目の前には、あまりにも多くの星々が光り輝いている。
「ねぇ、綺星さん。」
「なんだ。」
「また、連れて来てほしい。俺、これ見るために生きようって思うことにする。」
「そうか。」
「うん」
どんな感情なのかわからないが、無意識に涙が止まらない。
今までのことを悲観してなのか、これからの人生への恐怖なのか、この景色への感動なのか、
生きたいと願う意志からなのか。
まるで、感情が独り歩きしているような感覚で、俺はそれを止めようとはせず受け入れていた。
きっと、綺星さんは気づいているだろうけど何も言わずにいてくれた。
「蒼空が、どう思っているかは知らないが巻き込んだのはあくまで俺の方からだ、
守る覚悟も、生かす覚悟も出来ている。
恐らく、普通ではない日常を送らせることになると思うが、ひとまず蒼空が休める宿り木ぐらいにはなれるだろう。
ガキはガキらしく生きればいいんだ。」
ゆっくり、時間をかけて紡いでくれた綺星さんの言葉は、俺なんかが貰うには
もったいなさ過ぎる言葉だった。
星たちの長い旅路を経て、力強くここへたどり着いた光と、
時折やってくる風が、優しく、頬を撫でてくれた。




