第10話 -さくら-
まるで、猫のように自由気ままで
まるで、しゃぼん玉のように儚くて
まるで、桜のように力強くて
ほんの数時間しか接していないけど、俺は桜夜さんにそんなことを感じていた。
そして、一つ追加されたこと。
まるで、氷のように冷たく鋭い。
突然見せたその姿に俺は、少しだけ人間味を感じてなんでだか嬉しくなった。
あれからその姿は、ふっと消えにこやかな彼に戻り朝ご飯を貰い、お出かけしようと
連れ出してくれている。
桜夜さんの車は桜のような香りがする気持ちのいい空間だった。
昨日とは打って変わって、見上げると深い青空が広がり少し怖いほどだった。
「もし、僕が綺星を殺すって言ったら、蒼空は止める?」
お昼何食べる?
のようなテンションで、大きな言葉を放つ桜夜さん。
でもなぜか、驚きはしなかったし動揺もしなかった。
そう聞かれることがわかっていたような。
「んー…」
俺は、開かれた車窓から風を感じ空を感じながら考える。
多分これは、答え方を間違えれば桜夜さんの中で俺の位置づけが変わる
質問なんだと思う。
「止めたところで、俺なんかには止められないと思うけど
桜夜さんが止めてほしいと思うんなら、止めると思う。
仮に、その時に俺が死んだとしても元々俺は生に執着が無いし
あのまま生きていれば消えることを選んでたから罪悪感とかは、感じないでほしいかな。
ああ、でも、別に死ぬのは怖くないけど、せっかくあの場所から抜け出せたからもう少し楽しんでから死にたい。
だから、まだやめてね。」
ぼけーっと外を眺めながらそう答える俺に、運転をしながら楽しそうに笑う桜夜さんの声が聞こえた。
「ふふっ、本当に蒼空は高校生?悟り開いてるくらい大人だね。
僕たち大人がそうさせてしまったんだろうけど。」
「…本当は、やりたいこととか、なりたい将来とかを願っていた時もあったけど
何だったかも思い出せないくらいだよ。」
「その、何かを探してみるのも楽しいんじゃない?僕も付き合うよ。」
”何か”
そんな漠然としたものに執着できるような日々じゃなかった。
「…気が向いたらね。それと、さ」
俺が歯切れ悪く呟くと、「ん?」と俺の言葉に耳を傾けてくれる桜夜さん。
「綺星さんのこと、本気じゃないよね…?」
「っあははは!本気じゃないよ。ただ、蒼空に何かするっていうなら話が変わってくるっていうのは本気だけど、基本あいつにそういう感情を向けることはないよ。」
楽しそうに笑いながら話す桜夜さん。
その姿に、安心した。
「あそこで、僕の懐に入るためにとか、僕の機嫌を取るために止めないとか
逆に、「絶対に殺させません」とか言っていたらつまらないなーと思って放っておいたかもだけど楽しい回答をくれたからしばらくは、観察したいなって思ってるよ。蒼空のこと」
観察しても面白い対象じゃないんだけどな。
そんな事を考えていると、表情に出ていたのかまた笑っていた。
色々と玩具にされながら流れる景色に意識を向けると見知らぬ風景が広がっていた。
「これ、どこに行くの?」
そう聞くと、桜夜さんが言う。
「この先のトンネル抜けると、答えが見えてくるよ。」
トンネル…?
見ると確かに、トンネルが見えて来た。
車がトンネル内に入ると一気に暗闇が襲った。
遠くに見える出口の光が少しずつ大きくなっていく。
一気に変わる景色に恐怖感を感じながらトンネルから出るのを待った。




