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立て直し勇者

とある勇者たちの話

作者: 天狼星

初めまして。天狼星と申します。

小説を書くのは初めてなので温かい目で見ていただけると幸いです。

 昔々ある国には人や獣人、エルフにドワーフ、竜人に吸血鬼とさまざまな種族を脅かす魔王がいました。

 ある日、王様は言いました。

「魔王を倒し平和な国を築かねば」と。

 そこでそれぞれの種族から1人ずつ最も信頼に値する人物を選び魔王の討伐に向かわせました。

 人からは緑の髪に黄緑色と水色の眼を持つ男性レオンハルト。

 獣人からは赤い髪にオレンジ色の瞳を持つ女性レティシア。

 ドワーフからは茶髪に鳶色の目を持つ男性ギラン。

 エルフからは金髪緑目の女性ファルル。

 竜人からは青髪銀眼の男性ギルフォード。

 そして、吸血鬼からは黒髪赤眼の女性エルフィリナ。


 彼らはさまざまな街や村、また森の中や草原、昼も夜も人々を助けるために尽力しました。

 そんな旅もあとわずか、魔王城の中央にある間にきた一行はそこで思わぬものを見ました。



 △▼△



「もう、旅も終わりだな……」

「そうだねぇ」


 魔王城の中央にある間に続く扉を前にしてレオンハルトはそう呟いた。それに同意したのはレティシアだ。

 彼らが旅に出てから3年が過ぎた。この城へ入るのも手順が必要でさまざまな文献を調べ、各地を放浪した。

 その旅ももう終盤だ。

 レオンハルトは仲間が十分に回復したことを確認すると、ギルフォードに声をかける。


「ギル、かっ飛ばしていこうぜ」

「勝手に1人で突っ走って勝手に怪我すんなよ」

「お前は俺をなんだと思ってるんだ!」


 そんな2人の姿を見て、他の4人が笑う。2人の言い合いを見るといつもなんだって簡単に乗り越えれるのではないかと思う。今までもそうだっただから大丈夫。自分たち以外の全員が笑っているのに釣られて2人も笑う。

 笑いが収まるとレオンハルトは仲間達の方を見て言う。


「俺たちなら大丈夫だ!行くぞ!」

『おう!』


 扉が開く。

 そこにいたのは玉座に腰掛け不敵に笑う黒髪赤眼の青年。その横に座る金髪緑眼の女性。そして、彼女とは反対に佇む金髪碧眼の少年。


「よくぞ来た。旅人たちよ。我が魔王城にようこそ。そして、ここに来たということは戦いをお望みなのだろう?」


 静かな玉座の間に低い、テノールボイスが響く。玉座に腰掛けている男からくる威圧はこれまでに対峙したどの敵よりも重く感じられた。だが、それだけで屈する彼らではない。


「魔王、今日ここで俺たちがお前を倒す!」


 レオンハルトが前に出て魔王にそう言い放つ。

 魔王はゆっくりと玉座から立ち上がると何もない空間から漆黒の剣を発現させる。

 彼はそれをレオンハルトの方へ向ける。


「やれるものならやってみろ!!勇者ども!!」


 それを合図に彼らはそれぞれ自分の武器を構えると一斉に動き出した。


「風よ、全てを貫け、ウインド・ランス」

「全てを守り、全てを打ち消せ、絶対防御」


 風の魔法を唱えて攻撃を仕掛けたのはファルル。無属性の防御魔法を唱えたのはレオンハルトだった。

 敵には風の槍が、味方には不可視の盾が、攻守を同時進行で、しかも、連携ができているのはこの長い旅の成果が出ている証拠だった。


(最初の頃と比べると成長したな)


 最初はもう、人数も多く、全員がバラバラに動くから統率が全く取れていなかったのだ。

 そうやって過去を振り返りながらを目の前に迫ってくる火の玉を水を纏った剣で切り付けるのをやめないレオンハルト。その横ではレティシアがレオンハルトが用意した水魔法の盾で火の玉を防ぎ霧を作り出していた。2人はその中へうまく紛れ込むと中央にいる魔王へ魔法を放つ。


「水よ、矢となり降り注げ、レイン・アロー」

「炎よ、我が剣に従え、ファイア・カッター」


 レオンハルトが音速を超える水の矢を、レティシアが炎を剣に纏い炎の刃を飛ばす。

 炎を刃が先に届き、生成し終えた水の矢が降り注ぐ。素早く動く魔王に近づき接近戦へと持ち込む。周りでは他2人の敵の援護に回りにいくレティシアと交代したギルフォードがレオンハルトのところへ向かっていた。


「レオン!回復頼む!」

「わかった!」


 ギルフォードがしばらく魔王の相手を務めることを理解したレオンハルトは急いでその場から離れると全体に回復魔法をかける。


「精霊よ、我が望みに応え、癒せ、エクスヒール」


 ボロボロだった仲間の傷が回復したのを確認するとレオンハルトは親友の元へと駆け寄る。


「レオンハルト、こっちは終わった。援護にレティシアを向かわす。あと一体はエルフィリナがもう直ぐ終わらしそうだ」

「ああ、わかった、ありがとう!」


 吸血鬼であるエルフィリナはギルフォードと同じく無詠唱魔法の使い手だ。彼女の作り出す氷の槍はとてつもなく細く、数が多い。魔法のみであれば彼女が最も強いかもしれない。

 後ろから走って来たレティシアに合流するとともに水の刃を飛ばして魔王にかける。かけた部分に電気が走り、体が麻痺する。これで近接戦は封じたものの、まだ、魔法を封じきれていない。油断は禁物だ。


「レオン!こいつ、思ったより固かった。やっぱり聖剣じゃないときれないみたいでさ」

「いや、動きを封じられただけでもいい!それに、あっちも終わったみたいだし」


 見ると、戦闘を終えたエルフィリナが敵2人を凍らて、氷の塊のようなものを作っていた。

 そのことについて氷の塊を作る必要はないんじゃないかと思いながら、膝をつく魔王としばらく相手をしていたレティシアを見る。

 レオンハルトは聖剣を構えると一瞬で魔王に近づき、首を切った。


「ッッ!オ、れもここ、まで、かッ!」


 そう最後に言い残し魔王の体は糸が切れたように倒れた。


「ーーたお、した?」


 あまりにもあっけない終わり方に不信感を覚えながらもレオンハルトは仲間と合流しようと、警戒しながら歩く。

 後ろからゆっくりと警戒を緩めずに着いてくるギルフォードにからも同じ考えなのだろうかと思っていた。

 だから避けれなかった。レオンハルトの背中に突然、激痛が走る。


「――ギ、ルッッ!?」

「…………」

「レオン!」

「レオンハルト!」


 後ろにいたギルフォードがレオンハルトのことを後ろから刺したのだ。感情ない顔で。

 少し遠くにいたはずの仲間たちが自分の武器を構え、レオンハルトを庇うように立つ。

 一方レオンハルトは背中の痛みと頭の中に流れ込む情報に驚いていた。そして朦朧としていく意識の中で魔法を行使し傷を治していた。


(なんで、ギルが?)


 膨大な情報と薄れゆく意識の中でレオンハルトが思ったのはただそれだけだった。

 仲間たちが自分を庇い、ギルフォードに問いながら迫ってくる魔法を防御結界で防いでいる。

 無表情で迫ってくるギルフォードから放たれる魔法を防ぐレティシアと、この場から離れるために転移魔法を唱えるファルルの姿が視界に映る。

 それに気づいたギランが降り注ぐ雷を避けながらこちらに向かってくる。

 その時だった。転移魔法が発動する寸前、ギルフォードがこちらに急接近してきた。振り下ろされる剣が早いか、発動するのが早いか。

 どうか、早く発動してくれと言う願いも虚しく、剣が振り下ろされ、その剣は魔法陣から出たエルフィリナによって止められた。

 彼女はそのまま氷の槍を生成するとそれを手に持ち、彼に向ける。そして、後ろにいるレオンハルトたちに叫んだ。


「あなたたちは行って。そして、私とギルフォードは魔王との戦いで死んだものとして!」


 そう言う彼女に嫌だと取り乱したのは詠唱を唱え終えたファルルだった。よく魔法のことについてよく一緒に話していた彼女は涙を流す。     

 もう発動直前の魔法陣から出ようとする彼女を全力で止めながらポロポロと涙をこぼすレティシア。彼女もまたファルルとエルフィリナと共によく話してよく遊んで笑い合っていた。

 エルフィリナは後ろを向くと少し笑う。


「ごめんね。ファルル、レティシア。でも、これは私の役目だから」


 エルフィリナの後ろでは氷の蔓を壊し切ったギルフォードがゆっくりと近づいていた。

 転移魔法が発動する。その場から離れる直前、レオンハルトが見たのは辛そうな顔をしている親友だった。


 △▼△


「レオン!」

「どうした?レティ。」


 あれから、10年の月日が流れた。

 あの後、エルフの里についたレオンハルトたちはそこにいたエルフの人たちに看病され傷が治った後、国に帰った。国には2人は亡くなったと話した。

 生死もわからないエルフィリナと、裏切ったかはわからないが仲間に剣を突き刺したギルフォードのことは、残った仲間ではなさいないと決めていたからだ。

 それでも彼らの中に残っているのはあの時のギルフォードのこと。そして、エルフィリナの言葉。

 一体あの言葉の意味とはなんなのか。役目とはなんなのか。答えが出ないまま月日だけが過ぎていく。

 勇者として歴史に名を刻まれた彼らは半年の後それぞれの故郷へ帰った行った。

 そして、その3年後、レオンハルトとレティシアは結婚をして今では子供も生まれた。

 レティシアそっくりの見た目に中身はレオンハルトににている3歳の娘と、見た目がレオンハルトに似ているが、瞳の色がオレンジ色の1歳の息子の2人。

 ファルルとギランも1年に1回は時期を合わせて会いに来てくれた。

 そんな、1年に一度の集まりの日のはずだった。今回は、王都から少し離れたとある森に来ていた。そこには秘密の場所があり、綺麗な花畑が広がっていて、2代目勇者のカイルとその妻のリリアの墓がある。

 そこで彼らはピクニックをしていた。だが、そこで彼らは思わぬ人物と遭遇した。


「なんで、あんたが生きてる?」


 そこにいたのはかつて倒したはずの魔王とその横にいた2人。

 彼は赤い瞳をこちらへ向けるとフッと不敵に笑った。


「そりゃあ、僕は魔王じゃないからね。人じゃないし、神獣だし。死なないよ」


 こちらのことを完璧に見通しているような目。それに少し怯みながらも自分達の子供を後ろにし、庇うレオンハルトとレティシア。それを庇うように更にファルルとギランが武器を構える。

 男は近づいてくるかと思いきや、彼は後ろに声をかけた。


「話さなくていいのか?ノア」


 後ろから出てきたのは黒い髪に金色の瞳の男だった。会ったことがないはずなのに、どこか懐かしい雰囲気を纏う彼にレオンハルトは既視感を覚えた。


「もしかして、ギルフォード、か?」


 その人物がこちらをまっすぐと見つめる。

 彼はレオンハルトがここにくることをわかっていたのか、少し暗い顔をしながらもこちらに歩いてきた。


「ごめんな、レオン。あれが俺の役目だったんだ」


 彼は確かにこう言った。レオン、と。そして、役目だったんだ、とも言った。一体役目とはなんなのか。その疑問がぐるぐると頭の中で回るがそれは今どうでもいい。

 レオンハルトはギルフォードに向き合うとこう言った。


「ずっと、聞きたかったんだ。なんであの時、お前が俺のことを刺したのか、ずっと聞きたかったんだ。役目のことも、エルフィリナの言っていたことも、彼女の生死も、そして、お前自身のことも話してくれないか?」


 レオンハルトがそういうと彼はこくんと確かに頷いた。


 △▼△


 それから、ギルフォード改めノアはたくさんのことを話してくれた。その途中で生死不明だった仲間であるエルフィリナが生きていることも知った。

 一番驚いたのは2人はこの世界の秩序を保つために存在する神獣だということ。そして、レオンハルトたちが戦ったあの3人も神獣だと言うのだ。

 まず、黒髪赤眼の魔王と思われていた人物が試練の神獣であるルージュ。本名はユリウス。

 次に、ミルクティー色の髪に緑色の瞳の人物(髪の色は少し変えていたらしい)。彼女は再生の神獣、ジュール。本名はディーネ。

 そして、金髪碧眼の少年。彼は最近神獣になったばかりらしい。生と死を司る神獣ブラン。元エルフでその時の名前はリクト。

 この時、ファルルはとてもびっくりしていた。何故かは言ってくれなかったが簡単に言うとたくさんの魔法を開発し、最後は行方不明になっていたとだけ答えてくれた。


「待て。当てる。エルフィリナは創造の神獣、シアン。そして、ギルフォードが審判の神獣、ノワール。別名、竜王。あってるか?」

「あ、正解。エルフィリナの本名はエル。俺の名前はノア。エルは普段は精霊界にいて精霊王として精霊と魔法を管理してるんだよ。」


 何が何だかわからなくなってきたが、とりあえず彼らは神獣で、天界にいる4神の使い。レオンハルトはそう結論づけた。


「それで、役目っていうのは?」


 そして、最大の疑問である役目についてレオンハルトがノアに聞く。


「勇者というものが不定期に現れるようになったのが約800年前。そして、初代の勇者は役目を果たせず消えた。2代目勇者はその車台勇者の役目を引き継いで聖者と俺たちと一緒に役目を果たした。だけど、それでも世界の発展と様々な種族が共に生活していくためにはきっかけが必要だ。」

「そこで、魔王を倒してその時に得た知識を世界に広めることにした。でも、そのためには案内役が必要だった。だから私たちがその役目を引き受けた」


 ノアの説明に割り込んできた声の主人。後ろから歩いてきた彼女にファルルとレティシアが抱きつく。


「「エル!」」

「エルフィリナ、いや、エル!心配させるな!」


 仲間たちが次々と声をかけていく中、ただひとり今さっきまで穏やかそうに話していたノアの方を見て何も言えないでいる人物がいる。レオンハルトである。

 彼は横から出る嫉妬のオーラに飲まれそうになれながらも早く気づいてくれ、と仲間に向かって念を送っていた。

 やがて、仲間たちがエルから離れるとそのオーラは消えたがレオンハルトは内心ビクビクしていた。


「エルの言った通りだ」

「そのために俺を刺す必要があったのか?」

「うん。他の人たちはエルが少しずつ教えてたけど君だけは少し違ったからもう直接知識を入れちゃえってことで刺した。なんか、いろんな知識が入ってきただろ?」

「そういえば、たくさんの情報が頭の中に流れ込んできてびっくりしたな」

「でも、刺す必要はなかったんじゃないの?」


 突然会話に割って入ってきたレティシアの目がすわっているのに気づき、サッと目をさらすノア。

 神獣が獣人に押し負けている。滅多に見れない光景にレオンハルトの顔が思わず綻ぶ。


 レオンハルトは思う。彼は優しいからもしかしたらレオンハルトたちに裏切り者だと言って忘れて欲しかったのかもしれない。でも、彼らは忘れなかった。裏切り者だと言わなかった、思わなかった。だから、他の神獣たちがチャンスをくれたのかもしれない。

 仲間たちがわちゃわちゃと話し、レオンハルトの子供たちがそこに紛れているのを見て思わず笑みがこぼれる。

 過去の勇者たちはどうだったのだろうか?どんな役目を背負っていたのだろうか。死んだものに聞いても当然答えは返ってこない。

 神と人、精霊とエルフ。神獣とドワーフ。獣人と人。竜人と吸血鬼。異なる種族が共に生き、共に生活し、共に支え合っていく。そんな世界がもっと広がればいいのに。

 どの種族と比べても、この中で一番先に死ぬであろう自分にこの先何ができるのか。なにを残せるのか。

 でも、今はこの時間を大切にしたいとそうレオンハルトは思った。


 △▼△


「母さん、行ってくる」


 そう言うのは炎のような赤を持つ青年。

 彼はこれから勇者である異世界から来た友と旅に出る。


「まさか、親子揃って勇者と関わるなんて。と父さんもびっくりするだろうね」

「そうだな」


 人であった父は彼が70になる頃に亡くなってしまった。人間としては長生きした父に母は墓に行くたびにありがとうと言っていた。

 父は先代の勇者で自分はこれから友である今代の勇者と旅に出る。

 彼は大きな荷物を背負うとドアを開ける。そこにはいつの間にか友がいた。


「おはよう、アレン。準備はできた?」

「おう!じゃあ、母さん」

「いってらっしゃい!無事に帰ってくるんだよ。カイリもね」

「「はい!!」」


 母の声に元気よく答えると2人で並んで歩き始める。


『いってこい、アレン』

「え、」


 後ろを振り返っても誰もいない。気のせいだろうか。いや、気のせいではない。

 友に遅れないように彼は再び歩き始める。そして心の中で父に伝えるのだ。


『いってきます』



 Fin

いかがでしたか?

初めての作品でしたが綺麗?な形で終われてよかったと筆者なりには満足しております。

また別の作品で出会えたら読んでいただけると嬉しいです。

それではまたの機会で!

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