表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/17

13話 お父さん、人間のまま強くなりたい。

子どもの成長を実感した時、親はどう感じるのか。


俺は、涙が止まらなくなるタイプです。



みなさん、葵の戦い、見ました?

最後の一閃、ずるくね?




震えたね。



歩いてるだけなのに、視界がやたらとぼやける。



きっと、この数日で、この世界で生きる術を必死に学んだんだろう。





強いよ。

ほんと、強くなった。




さすが、我が子。




俺、もういらないやん。




理沙も葵も強い。

大きくなれば、湊や希だって、きっとすごい力を手にするはずだ。



確かに俺には、職業なんていらないのかもしれない。



でも、だからこそ、いざという時、誰かを守れる力が欲しい。


もし、みんなの心が折れる時があったとして、立ち尽くしたまま、何もできないのは、嫌だ。




そんな決意を胸に、俺の学校へ向かった。


石畳の通りを抜ける風がやけに冷たい。

さっきまでの熱が嘘みたいに削ぎ落とされていく。



葵が守った世界は、すでに日常に戻っていた。



──その途中だった。



「ちょっと、アンタ」


この声は、なんだか偉そうなあいつ。


足を止めると、白い壁に寄りかかる赤い髪。


「マリィ、どうしたんだ?」


「約束よ」


マリィは俺の腕を強引に引こうとする。


「こっちに来なさい」


「何すんだよ」


「それ、見せるって言ったでしょ」



マリィが指差したのはベビーカー。


見せる約束、してたな。

ほぼ強制だけど。



「悪い、俺、学校に……」


「無駄だから、来なさい」


なんだよ、無駄って。

どういう意味だ。


本当に自分勝手、親の顔が見てみたいわ。




抵抗も虚しく、異質な白を纏う研究所へ引きずり込まれてしまった。



石造りの通路を進む。

奥に進むにつれて、音が死んでいく。



一番奥の部屋。

そこがマリィの研究室だった。


中に人の気配はない。


机の上には、たくさんの本。

積まれているというより、放り出されている。


開いたままのページ。

書きかけのメモ。

よくわからない器具。


椅子も引かれたまま、戻されていない。




あるのは、思考の痕跡。




「じゃあ、見せてもらえるかしら?」


「希、寝てるし、やだよ」


「抱っこしたらいいでしょ、ほら」


そう言いながら、もう腕を伸ばしている。


意外にも希を抱く所作は優しかった。




「壊すなよ」


返事はない。


ベビーカーの隅から隅まで視線を走らせる。


一通り観察を終えると、次には車輪を外そうとしていた。


「おい、分解するな」


手首を掴んで止めた。


マリィは一瞬だけ、こっちを見て舌打ちをした。



いや、人の物は分解しないだろ、普通。



「この素材は?」


「プラスチック」


「ぷらすちっく?」


「人が作った素材だな」


「マッドクラブの甲殻に似てる」


魔物なんだろう。

響き的には、カニ系か。


「素材から作るなんて、考えたこともなかった」


マリィは唇を噛み締めた。

視線は落ちたまま、しばらく動かない。


頭の中で、何かを構築している。

そんな沈黙だ。



俺は、その空気を邪魔しないように、少し間を置いた。


「なぁ──」


そして、ずっと思考の隅にあった発想をぶつけた。



「無職でも戦えるようになる方法ってないか?」


「ないわよ」


即答だった。


「武器に魔法を組み込むとか」


「無理」


「難しいのか?」


「魔法の武器への応用は禁止されてるわ」



禁止、ねぇ。

じゃあ、作れるには作れるんだ。



「なぁ、マリィ」


「なによ」



「禁忌……おかしてみたくないか?」



「嫌よ、それやった研究者、何人消えたと思ってるの」


「研究したその先に、何があるか知りたくないのか?」


マリィは唾を飲み込んだ。

机の端に視線を逸らす。




この反応は知りたいねぇ。

気になりますよね、研究者だもん。




「表向きは便利な道具を作ってることにしておくんだ、ただ……」


「ただ?」


「魔力の出力をほんの少し、高めにするだけでいい」


「すぐばれるわよ」


「いや、故意じゃない、間違ってしまうんだ」


「失敗はつきものだろ?」


「アタシ、失敗しないわよ?」


うるせぇ、失敗しろ。


「その失敗が、偉大な一歩さ」


マリィは、ほんの一瞬だけ笑った。


楽しい、じゃない。

危険に踏み込むような、好奇心を抑えられないような、そんな表情。




「それに、金もある」


金貨を二枚、ちらつかせてみた。


「こんな大金、どうしたのよ!?」


「……王、だ」


「王って国王?」


「ああ、俺の後ろには国王がいる」


「どうして?」


「それは、俺が、異なる者だからだ」


異なる者って、なに?

テキトーに話してるけど、変に説得力あるのが自分でも不思議。



マリィは何も言わない。


ただ、金貨を一枚だけ取り上げ、じっと眺めている。


「……この重さ」


それ以上は言わなかった。




「これだけの金があれば、好きに研究できるんじゃないか?」


「そう、だけど……」


「誰もやったことない研究ができる、滅多にないチャンスだぞ?惹かれないか?」



好奇心を抑えられないだろ?


知的好奇心に抗える研究者など、存在しないのだ。




マリィは何も言わず、研究室の鍵をかけ直した。


金属の軽い音がして、この部屋だけが世界から切り離される。




「……いいわよ、作ってあげる」


マリィは本の山を崩すように模造紙を引き抜いた。


ペンを掴むと、躊躇なく一本の線を引く。



──計画通り。



「そんなに言うってことは、条件も考えてるわよね?」


条件?何の?


「あ、当たり前だろ」


「じゃあ、魔力の位相はどうする?」


魔力の位相?

初耳というか、その言葉が示す方向性がわからない。


どうすると、どうなるのか。

皆目見当もつきません。


だけど、この選択がすごく重要なことだけは、伝わってくる。


知ってる体の方が良いの?

それとも、正直に言うべき?


でも、なんか怒りそうじゃん。


「どうするって聞いてんの」



ええい、どうにでもなれ。



「……正相で」


マリィは返事を聞くより先に、すでに次の式を書いていた。


「妥当ね」


当てずっぽうで答えたけど、妥当なんだ。


マリィは何かの式を書き始めた。


「共鳴核は?」


核。

パソコンでいうコア数みたいなこと?


「二重型に決まってるだろ」


「それが無難」


なんか、通じたぞ。


無難って、どの辺が無難なんだ。


「でも、できれば、四重とか八重とか……」


「死ぬ気?」


「やっぱ二重で」


え、死ぬの?

二重も大丈夫なのかよ。


シングルにしとくべきなのか?



「魔力術式はどうする?」


術式は……展開するしかなくね?


「それはあれだろ、展開して、ざばっといきたいよね」


マリィは術式の記述を進める。



「あと魔力圧縮率は?」


「極限まで高めてくれ」


高めた方がいいの?低い方がいいの?


どうなるか誰か教えてください。


「最後に、起動条件は?」


「……俺の、意思だ」


だって、なんか、かっこいいだろ。


マリィは静かにペンを置いた。


「欠損が心配だけど……なんとかなるか」


欠損って上手く発動しないとか、そういうことだよね?

体がどうこうするわけじゃないよね?


体だったら、流石に言うよな。


「……アンタ、意外に分かってるのね」


何にも分かってないよ。

何が出来上がるのか、すでに心配。



めっちゃ怖い。



「その代わり、体は鍛えておきなさいよ」


「分かった」


「まぁ、体が吹き飛ぶくらい、分かってるか」


体だー。

欠損って体持っていかれるってことじゃん。


“真理”に触れてしまうやつじゃん。


研究してた人が消えたって、消されたんじゃなくて爆散したってことかよ。


「順番に、じゃないわよ」


体が吹き飛ぶ順番ってなに。


ふざけんなよ、このマッドサイエンティスト。




「本当に、作っていいのね?」




ふと落ちた静寂。


マリィは念を押すように、じっと俺を見る。

その目は冗談も逃げ道も許さない色をしていた。


きっと最終確認だ。

完成してしまったら、後戻りはできない。


……今なら、まだ引き返せる。

やっぱやめとく、でなかったことにできるかもしれない。



でも、意識の奥に、ずっと居座っているものがある。




あの日、理沙と交わした約束。

忘れたことなんて、一度もない。




逃げる理由はいくらでも作れる。

だけど、逃げない理由は、これ一つで十分だった。



「頼む」



これで、もう戻れない。




それでも。

あの約束から逃げるより、ずっとマシだ。



「囚われてる顔ね」


図星だった。


「じゃあ、後戻りはなしよ」




引き返さない覚悟だけは、もう決まってる。




これが俺の“選択”だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ