表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/17

11話 パパ、うざい。

娘に好きな人ができました。



……たぶん。



てか、絶対そう。

あんな瞳、好きな相手にしかしない。


ついに、この時が来てしまった。

いや、いつかは来ることなんだけど。


でも早くない?


数日で好きになるの?

一体、何が…。




「陽介さーーーん」


リズが向こうから駆けてきた。


「そんなに急いで、どうしたんだ?」


「お渡ししたいものが……」


膝に手をついて、肩で息をしている。

どうやら、全力疾走してきたらしい。



息を整えたリズが、俺を見て瞬きをした。



「あれ?なにやら思案顔ですね」


「いや、ちょっとな」


「悩みごとですか?よかったら聞きますよ」


「うーん、リズに話してもなぁ」


「ちょっと!意外に頼りになるんですからね!」


「そういうことじゃないんだよな…」


「悩みは誰かに話すと楽になりますから」


リズなら葵のパーティーのことも知ってるかもしれない。

ダメ元で聞いてみるか。




「うーん…じゃあ、聞いてくれるか」


「もちろんです」


「これからのご予定は?」


「教えてもらったケーキ屋、行くけど」


「じゃあ、ケーキ屋さんに向かいながら、聞きましょう!」


「ケーキ食べたいだけじゃ?」


「ドキッ」


ドキッじゃねぇ。

何も誤魔化せてないからな。


「…まぁ、行くか」


「はい!」


一歩踏み出すと、街の音が遠のいた気がした。




◇◇◇




「なるほど、葵さんに好きな人が…」


「まだ好きと決まったわけじゃないから」


「認めない気だ…」


「だって、まだ確定してないもん」


急すぎて、まだ受け入れられないだけなんだもん。

別に恋人ができるのも反対してるわけじゃないし。


……ちょっぴり寂しいだけで。


「葵さんのパーティーは、リーファさん、ガンウさん、レクスさんですね」


「よく知ってるな」


「敏腕受付は全てを把握しています!」


「全て、ねぇ」


「お相手はレクスさんっぽいんですよね?」


「たぶんな」


「レクスさんは……」


「頼む」


「天才ですね!」


「天才?」


「十歳で“剣聖”の職業、持ってますし」


「……剣聖?」


「はい、剣士の上位職です」


はい、強い。


十歳で上位職とか、チートじゃん。

前世でどんな徳を積んだんですか。




「次に“覚醒”すると勇者になります」


もう選ばれし者じゃん。


俺なんか封印されし者だよ?

手札に五枚じゃなくて、息子含めて六枚必要だからね。

難易度上がっちゃってるからね。



何が封印されてるのか知らんけど。




「最強じゃん…」


「すごいですよね」


「でもさ……なんで葵が、そんなすごいやつとパーティーを?」


「葵さんも才能ありますから、大丈夫ですよ」


「そうなの?」


「そうです!魔力もすごいですし!」


「お母さん譲りですかね?」


はいはい、お父さんから受け継がれるものは何もないですよね。


プラスが増えるくらいですか?すいませんね。


「あっ……ごめんなさい」


「謝らないで、逆に辛いから」




ケーキの甘い匂いが徐々に近づいてくる。

それを喜ぶ顔をこれまで、何度も見てきた。



──でも、いつか。

俺じゃない誰かが、用意する日が来る。





「で、渡し忘れた物って?」


「そうでした、これです」


「これは?」


「封魔の護符です」


「魔法から守ってくれる的な?」


「結界のようなイメージですね」


「もっと早くくれよ」


「すみません」


「いや、ごめん」


「使いそうな時ありました?」


「まぁ、もう──」


「もう?」


「なんでもないや」


「一回しか守ってくれませんからね、耐えれる限度もありますし…」


「まぁ、十枚もあれば足りるでしょ」


「陽介さん、面倒なことに全力で首を突っ込みそうなので」


「そんなことないです〜」


「……使われないことを祈ります」


「まぁ、ありがとな」


「じゃあケーキ買いに行きましょうか!」


「お待ちかね、のな」


「それじゃあ、私が最初からケーキ目的だったみたいじゃないですか」


「そうでしょ、さっきから目輝いてるもん」


「ち、違いますよ」


「ほら、行くぞ」


「待ってくださいよー」



ドアを開くと鳴る鐘の音。


異世界のケーキ屋は、見たことないフルーツのケーキが並んでいる。

それでも、甘い匂いは変わらなくて。



それがあるだけで、まだここにいれる気がしてしまう。




◇◇◇




ケーキ、買いました。

今日は、何にもない普通の日。

だけど、こんな日があっても良いよね。


みんなで同じテーブルを囲んで、一息つけるだけで、充分じゃないか。




「お父さん、ケーキを買ってまいりました!」


「いぇーい!」


湊がテーブルの前で飛び跳ねる。

小さな拍手がリビングで弾んだ。


「早く食べよ!ねぇ、早く!」


「はいはい」


理沙がナイフを入れる。

甘い匂いが広がって、みんなの顔が自然と緩んだ。



久しぶりだな、この景色。




「じゃあ、いただきまーす」


甘っ。

美味いんだけど、一口で十分だな…。



まぁ、みんな喜んでるからいいか。



葵がフォークを持ったまま呟いた。


「ねぇ、ママ」


「なに?」


「冒険ってさ、楽しい?」


「うーん……大変なことが多いかなぁ」


「国からは出てるの?」



フォークを持つ手が止まった。



「そんな遠くに行ってないよ、今は近場だけ」


「そっか」


葵は頷くと、少し考えているみたいだった。


「“最果て”は、まだなんだ」


……ん?

ニューワード出てきた。


なんだ、めちゃくちゃ遠そうな場所は。


「最果て?」


「冒険者がいつか辿り着きたい場所」


「そんなとこ、行かなくていいだろ」


やばい、思ったより口調が強くなってしまった。


葵は一瞬だけ、こちらを見た。

少しの嫌悪感が混ざった目だった。


「どうして?」


「危ないよ」


「それだけ?」


「それだけで十分だ」


「冒険者なのに?」


「近くの魔物を倒すとか、誰かを護衛するとかでもいいだろ」


「別に、行きたいって言ってるわけじゃない」


「だったら──」


「行けたら、すごいなって思っただけ」


その言い方は、やけに落ち着いていた。


葵は俯く。


「葵は冒険者になりたいの?」


理沙が聞く。


「選べるなら、選びたい」


「そっか」


「……まぁ、まだ決めなくていいさ」


その言葉で、終わったはずだった。


でも、葵は視線を落としたまま、しばらく黙っていた。




「……じゃあ、またパパが、全部決めるんだ」




「そういう意味じゃ──」



「あたし、習い事もランドセルも、全部パパが決めたこと、許してないから」



その言葉に返す言葉が見つからない。



「……もういい」


椅子を引く音が、静寂を裂く。




「パパ、うざい」




言葉が出なかった。




「こら、葵、言いすぎ」


葵は何も言わず、背を向ける。


そのまま、足音が遠ざかっていく。

階段を上る音。

二階のドアが閉まる音。




「ケーキいらないのー!?」




理沙の声に返事はない。


「置いとくからねー」


それでも二階は静かなままだ。


湊は気にせず、フォークを動かしている。

クリームを口すくって、いっぱいに頬張った。


「うまーい!」


その声だけが明るい。




テーブルには、ほとんど手つかずのケーキが残る。

その一角が欠けているけど、崩れないまま。




今日は何にもない、普通の日のはずだった。



俺は、フォークを持つ手を止めたまま、動けずにいた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ