表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/17

1話 お父さん、転生したら無職だったよ。

いつもと変わらない騒がしい朝。

コーヒーの香りと、子どもたちの騒ぐ声で一日が始まる。


焼きたてのトーストに目玉焼きを乗せて頬張る。

うまい、朝食はこれに限る。


テレビからは天気予報士の明るい声。

「本日は全国的に晴れ。ですが、ところにより雷雨の可能性も──」


「ほら、朝ごはん食べなさーい」


妻、理沙りさの掛け声で、子どもたちがキッチンに座りはじめる。


「パパ、箸とってー」


「ほら、早く食べな」


娘のあおい、小学五年生だ。

この年頃でも、俺に話しかけてくれる。


俺の子ながら、とてもとても可愛い。

反抗期は一生来ないでくれ、頼む。


「お父さん、食べさせてー」


「もうすぐ小学生だろー、頑張って自分で食べなー」


駄々をこねているのは、息子のみなと

自分で出来るのに、やろうとしない。

手間のかかる年頃だ。



歯を磨いて、スーツに着替える。

今日のプレゼンは社運を賭けた一大プロジェクト。

上手くいけば、出世コース間違いなし。


家族の生活も安泰だ。

ネクタイを締める手にも自然と力が入る。


トイレでニュースをチェック、部長と話題になりそうなのは…。

すると、理沙の金切り声が飛んできた。


やばい、早く出ないと。




陽介ようすけのぞみのオムツ変えてあげて!湊!遊ばないで着替えて!」


急いで、新しいオムツとおしり拭きを取り出す。

湊は、走り回ってふざけている。


「ほら!ちゃんとして!」


まずいぞ、理沙の怒りが頂点に達しそうだ。


「いい加減に──」




パチッ




何が弾けた。

視界が真っ白になる。


鼓膜を破りそうな轟音が地面を大きく揺らした。

あまりの衝撃に立っていられない。


みんなの悲鳴が響き渡る。




「今の雷、やばかったな」


「すぐそこに落ちたんじゃない?」


「パパ、怖い」


「まぁ大丈夫さ。ほら、二人とも、準備して出発するぞ」


手際良く希のオムツ交換を済ませ、玄関へ。

最後に身だしなみチェック…よし、完璧だな。


子どもたちも準備を済ませ、やってきた。


「じゃあ、行ってくるぞー」


キッチンの方に声をかける。

理沙は毎朝、玄関まで見送りに来てくれるのだ。


家族全員でハグしてから、出発するのがうちの習慣。



大切で幸せな瞬間だ。



「みんな、いってらっしゃい!」


「行ってくる」

「行ってきまーす」


ドアノブを掴み、扉を押す。

その先は、今日もいつもの景色──



……そのはずだった。



◇ ◇ ◇



扉を開けた瞬間、あまりの眩しさに視界が奪われる。

頬を撫でる風はいつもより軽く、草木の匂いが濃い。


足元はアスファルト──じゃなくて、石畳?

顔を上げると、石造りの家々が立つ街並み。

少し遠くには、デカい西洋風の城が見える。


まるでゲームの世界に放り込まれたようだった。



「なにこれ」


「お父さん、ここ、どこ?」


振り返ると、理沙。

そして、家のいつものリビング。


「おい、理沙、なんか変だ」


「なんなのこれ」


「いや、きっと夢だ。理沙、ほっぺみてくれ」


理沙は小さく頷くと、腕を振りかぶった。



バッチンッ!



頬を貫く衝撃。


「いっっったあぁぁっ!」


いや、“つねって”って言いましたよね?

日頃の不満も込めました?


「夢じゃ……ないわね」


理沙の表情は引きつっている。

大人たちの不安をよそに子どもたちは楽しそうに走り回っていた。



一体、何が起きたんだ?

家の外観もリビングも変わらない。


まさか家ごと別の場所に来た、のか?


「パパー、見て!この花!」


葵が手にしているのは、奇妙な形をした花。

透き通る青い花弁がドクドクと脈打っている。


「わけわからん物とってくるなよ」


花を取り上げて、遠くへ放り投げた。

落ちた瞬間に、ぼんと音を立てて消える。


「と、とりあえず家の中戻るぞ」


鍵をかけて、息を整える。

だけど、頭は追いついていない。


「い、いいか?みんな、お、落ち着け」


「パパが落ち着いてよー」


「いいから!みんな、身を守れそうな物とか使えそうな物持ってくるんだ」


家族みんなで家中を探し回る。


ヘルメットに、おもちゃの剣、おなべのふた。

うん、頼りない。



トン、トン。



誰が扉を叩いている。


やばい、誰か来た。


そーっと覗き窓から覗くと、金髪で煌びやかな服装の気高そうな人が立っている。

背筋は真っ直ぐで、纏う空気が違う。


「は、はーい」


恐る恐るドアを開けると、碧緑色の瞳がこちらを射抜く。

圧倒的な威圧感で、息ができない。


後ろには、腰に大剣を据えた屈強そうな男と、ローブを着てデカい杖を持つ女。



……なにもう、この人たち、全然普通じゃない。



「お前がここの住人か?」


低く、よく通る声。

その圧に思わず背筋が伸びる。


「お父さん、だれー?」


「湊は黙ってなさい」


「はい、何か御用ですか?」


「おお、そうか。散歩をしておったら、近くの住人が、『突然、変な家が現れたー』と騒いでいてな」


何が変な家だ。

こちとら、大手ハウスメーカーで建てた長期優良住宅だぞ。

間取りも一生懸命考えたんだ。


「それで、気になって来てみた、というわけだ」


「すみません、あなたは?」


「失礼。私は、ここ、ヴァルティア王国の第七代国王、アルヴェインだ」


「……この国の王様?」


「王だ」


「ほんとに?」


「本当に、王だ」


「ちょっと、失礼」



ゆっくりとドアを閉める。



「おい、理沙!王様が来た!」


「は!?どういうこと!?」


理沙は驚き、慌てて散らかった部屋を片付け始める。


「入っても良いかな」


ドアを半分開け、上半身だけの王。


「ど、どうぞ」


「うむ、悪いな」


「お付きの方も、どうぞお入りください」


その姿からは威厳という威厳が溢れ出ていて、うちの玄関には不釣り合いすぎる。


予想通りだが、土足のまま、家に入ってきた。


「すみません、靴、脱いでください」


「靴を脱ぐのか。そういうしきたりなのだな。失礼」


王は不慣れそうな動きで片足立ちになり、ぐらりと傾いた。

すかさず、屈強な男が支える。


「すまぬ、このような作法は初めてでな」


「いえ、うちも王様が来るのは初めてです」



◇ ◇ ◇



リビングで正座をする王。

付き人たちは後ろに立ったまま微動だにしない。


「あ、あの、足は伸ばしてください」


「床に座るということがないからな。お前たちの真似をしてみた」


「俺のことは気にせず、楽にしてください」


「それで、お前たちは何者だ?」


「何って言われても…」



「俺は──」


俺は自分たちのことを話した。

住んでいた町、生まれた国のこと。

人々の暮らし。


それから、今日のこと。


声は震えてぎこちなかったかもしれない。

だけど、王は真剣に耳を傾けてくれた。

なんだか俺たちに興味を持ってくれたようだ。


活きたか?俺の営業トーク。


「ドアを開けたら、この世界だったと……ふーむ、原因は分からんな」


「俺たちも何が何だか、さっぱりで」



ぐぅ〜〜。



誰かの腹が鳴る音。


「すまんすまん、腹が空いてきたようだ」


王も人間なんですね。

さすがに、一国の王をこのまま帰すわけにはいかない、よな?


「おい、理沙、何かあったっけ?」


「何って、昨日のカレー?だけど、火がないよ」


「火が必要か。リシテア、火を出してくれ」


女は俺にリビングの窓を開けさせると、杖を構えて何かを唱えた。


目の前をかすめる火球。

外の木にぶつかると、勢いよく燃え上がった。


……えぇ、火というか火事だよ、これ。

どうやって鍋温めるの?


リシテアという魔法使いは誇らしげな表情をしている。

なんでそんな顔ができんの?



無常にも俺の手にはカレーの入った鍋。

取手がやけに冷たい。


リビングから家族の声援が聞こえる。

行くしかないか…。


意を決して、炎の中へ飛び込む。



熱っっっつうぅぅい!



カレーの前に俺が上手に焼けそうだ。

くそ、どうしてこんな目に。


地獄の加熱作業を終えてリビングに戻る。

スーツはかなり焦げた。


リシテアが水を飛ばして消火していた。

辺り一体が焦げくさい。



「お味は、いかがでしょうか?」


「カレー、かなり美味だな。この白い粒も噛むほど美味い」


「これは、お米です。俺たちの国の主食ですね」


「飯が美味いのは、羨ましいな」


王は満足そうにスプーンを置いた。


「王よ、そろそろお時間です」


屈強な男が後ろから声をかける。


「うむ。邪魔したな、陽介よ。今度、城にくると良い」


「ありがとうございます」


「これは今日のお礼だ。受け取ってくれ」


王は懐から金貨を取り出し、テーブルに置いた。

全部で五枚、この国の通貨か?


「王よ、こんなに渡してはいけません」


屈強な男が慌てて止める。


「良いのだ。歓迎するぞ、異界の者たちよ」


王は立ち上がり、ローブを翻す。

その姿勢には威厳だけでなく、人としての温かさもあった。



玄関に座り、靴を履く王。


立ち上がり、去り際に言い残した。


「そうだ。職業鑑定を受けると良い。バルクス、この者たちの案内を頼む」


「私ですか!?わかりました」


王はリシテアと一緒に帰っていった。

その姿をみんなで見送る。


こちらに手を振っている二人は、なんだか楽しそうで、微笑ましい。


──ふぅ、なんとか終わった。

社長と対面したとき並みの緊張感だったが、無事に終わって一安心。



短く息を吐いて視線を戻すと、屈強な男が仁王立ちしている。

腕を組み、青色の瞳でこちらを睨んでいる。

だいぶ怖い。

王よりも凄みがすごい。


「バルクスだ。王の親衛隊長をやっている。よろしく頼む」


ガッチリとした手が差し出される。

握手を交わすと、岩みたいな手のひらで骨が砕けそうだ。


「バルクスさん、その“職業鑑定”って何ですか?」


「五歳になると、皆が受ける儀式だ。その結果で将来の仕事が変わってくる」


五歳までって…湊の人生まで、もう決まっちゃうの?

まだ、ランドセルも決めてないんだよ?


「いやぁ、すごいっすね…」


その歳でレール敷かれちゃうのか。

もし俺が「お前は向いてない」なんて言われたら、たぶん立ち直れない。

今だって、怪しい。


湊は大丈夫か?



でも、それを当然と受け入れてるこの世界の人たちは、きっと強いんだろう。



「では、ギルドへ向かうぞ。ついてこい」



◇ ◇ ◇



太陽を浴びた石造りの街並みは、まさにファンタジーの世界そのもの。

だけど、石畳を踏む感情はしっかり硬くて、夢じゃないと痛感させられる。


横で子どもたちは、はしゃいでいるが……ここは、テーマパークじゃないのよ。


すれ違う人々は、異世界アニメでよく見るような服装をしていて、全員がこちらを不審そうな目で見てくる。


「あの、俺らって、そんなに珍しいですか?みんな見てくるんですけど」


「あぁ、そうだな。黒い髪で黒い目のやつは、ここでは見ないな」


「そっすか」


黒い髪に黒い瞳、死神とか言われちゃうんじゃないの?これ。



「ここが、王都アルディアの中心街だ」


バルクスの言葉どおり、街は活気に満ちていた。

看板には、見たことない文字が書かれている。

だけど、不思議なことに読める。

自然と頭に入ってくるような感覚だった。

ご都合展開キター!



「お母さん、あのパン食べたーい」


湊がただをこね始めた。

君、さっきカレー食べてたじゃん。


「ぼうず、腹減ったのか?ちょっと待ってろ」


そう言うとバルクスは、子どもたちにパンを買ってきてくれた。

焼きたてで美味そうだ。

今度、買いに来よう。




「着いたぞ。ここがギルドだ」


立ち止まった先にあるのは、三階建てくらいの大きな建物。

外壁には剣と盾の紋章が描いてあり、まさにギルドという雰囲気を放っている。


大きな扉を開けると、温かな空気と賑やかな声が溢れ出す。

中は広いホールになっていて、掲示板らしき場所には無数の羊皮紙。

受付の向こうでは、何人もの職員が忙しそうに仕事をしている。


奥の方に目をやると、武装した冒険者っぽい人たちが談笑しながら、ジョッキを鳴らしている。


いいなぁ、早くビール飲みてぇ。

昼間からアルコールって最高だなぁ。


「本当にゲームの世界みたいだな」


「ねぇ、パパ!あの人、槍持ってるよ!カッコいい!」


葵が目を輝かせる。


「なんか、本当に別世界…」


理沙も呆然としながら呟いた。

希は変わらず、すやすや寝ている。


「お父さん、オレもあの剣欲しい!」


湊も楽しそうだ。


「また今度な」


バルクスが受付に向かい、一言だけ伝える。


「王の命令だ」


その一言が、ホールの喧騒を一瞬だけ止めた。

受付の女性は慌てて姿勢を正す。


「ご用件は何でしょうか?」


「この者たちの職業鑑定を頼む」


受付の女性は一瞬目を見開いた後、丁寧に頭を下げた。


「かしこまりました。これから準備いたします」



◇ ◇ ◇



受付の女性が奥の扉を開けて、俺たちを中へと案内した。

ギルドの奥は一転して静かだった。


さっきまでの喧騒が嘘みたいだ。

そして、ちょっと埃っぽい。


廊下の壁には鉄製のランプが等間隔で並ぶ。

優しく光っているが、これは魔法…か?


「こちらが鑑定室になります」


「よし、お前ら、入れ」


室内は円形で、床には淡く光る紋章。

部屋の中心には透明な水晶が浮かび、内部で脈打つように明滅している。


「うわぁ…キレイ…!」


葵が声を上げる。

湊も興味津々な様子で、手を伸ばしたが、理沙が腕を掴んだ。


「触っちゃダメ!壊れたら大変」


「そう簡単には壊れんよ」


そう笑いながら、奥から一人の老人が現れた。


「おぉ、バルクス、久しいな」


「久しぶりだな、じいさん。こいつらの鑑定を頼む」


「よかろう、鑑定するのは四人、じゃな」


老人が何かを囁くと、光の粒が宙を舞う。


「では、順番にこの水晶に手をかざすのじゃ。魂の波動を読み取って、天職を示してくれるぞい」


「魂の波動ねぇ…。なんか胡散臭いな」


「おい!そんなことを言うと──」


バルクスが何かを言いかけたが、受付の女が制した。


「誰からやろうかの?」


「はい!あたし、やりたい!」


葵が元気よく手を上げた。


「よかろう。では、魔法陣の真ん中に立つのじゃ。そして、水晶に手をかざしてみよ」


葵が恐る恐る魔法陣の中心に立ち、手をかざす。

すると、足元の紋章が光を放ち、水晶が深い緑色に輝いた。


「──これは、“槍使い”じゃな」


「やったー!カッコいー!」


葵は飛び跳ね、回りながら喜んでいる。


「新体操やってて良かったね」


理沙はなぜか安堵している。


え、そういうこと?

てか、槍使ってどうするの?

戦うの?

お父さん、許さないよ?


「次、オレやりたい!」


「よかろう。では、水晶に手をかざしてみよ」


湊が手をかざすと、水晶は水色に変わり、中心でもやが渦巻いている。


「──ぼうやは“戦士”じゃ。バルクスも最初は戦士じゃったな」


「ぼうず、やったな!」


湊は満面の笑みでバルクスとハイタッチしている。

あれ?いつの間にそんなに仲良くなってるの?

俺よりお父さんじゃん。


「次、私やっていい?」


「よいぞ。やってみよ」


理沙が手をかざすと、地面が震え出す。


水晶が黄色に変わると、これまでにないくらい強く輝いて、部屋の空気が渦巻いてうねった。


「おぉ、これは──」


老人が唸った。

そんなにすごい職業なのだろうか。


「おぬしは“雷鳴の魔導師”じゃ。いきなり上位職とは…」


「あんた、すげぇな。雷鳴の魔導師自体が、かなり珍しいぞ」


理沙は照れながら戻ってくる。


「雷…ね。ぴったりだな」


「どういう意味?」


「いや、なんでもない」



「…じゃあ、俺だな」


いよいよ、俺の番だ。

これで、俺の未来が決まる。

俺も力が欲しい。



家族を守れる力──それが一番、必要だ。



魔法陣の中心に立つ。

心臓の鼓動がやけに伝わる。


深呼吸して、ゆっくりと水晶に手を伸ばした。

…頼む。


部屋の空気が張り詰める。

一瞬、全員の呼吸が止まったような静寂。



………待っても何も起きない。



「あれ?」


水晶はただのガラス玉みたいに沈黙している。


「すいません、壊れたみたいなんですけど」


「そんなわけなかろう。もう一度やってみなさい」


もう一度、ゆっくり手をかざす。



……やはり何も起きない。



バルクスたちが目配せを交わし、ヒソヒソと話し始めた。


「これは…」「そうか…」


「あれ?俺、なんかやっちゃいました?」


老人が顔を上げ、重々しく口を開いた。


「これは、“無職”じゃ」


「無職…ってどういうこと?」


「職業は何もないということじゃ」


理沙が何か言いかけて口をつぐんだ。

子どもたちも下を向いている。


「いや、あれですよね?実は水晶には出ないすごい職業になってるとか?無職が実はすごい能力でしたーとかあるんですよね?」


「ない」


短く言い捨てる。


「そんな、だって──」


「そのようなことは断じて、ない」


……体の力が全て抜けた。

膝から崩れ落ちる。


乾いた笑いしか出ない。


嘘だろ?

俺だって昨日まで家族のために必死に働いてきたんだよ?

それがいきなり無職なんて…。


「ニートじゃないか」


「おお、よく知っておるな。この国では無職の事を“ニートゥー”と呼んでおるよ」


ニートっぽく呼んでんじゃねぇ。

ちっちゃい“ウ”つけたってかわいくねぇよ。



はぁ、終わった……。



◇ ◇ ◇



受付の天井から見える真っ赤な夕焼け。

悔しいほどきれいで、心が揺さぶられている自分が情けない。


「ねぇママ。パパ、なんか、かわいそうだね」


「……そっとしておこう。きっと、パパもショックなんだよ」


「陽介よ、大丈夫だ。無職でも、働くことはできる」


バルクスまで気遣ってくれている。

肩に置かれた手はゴツいけど、優しかった。


みんなの気遣いと配慮が空っぽになった心に刺さった。

あぁ、涙出そ。



「皆さんここで待っててくださいね!職業に応じて、お渡しする物があります」


「俺にはないんだろ?」


「ニートゥーにもありますよ」


「ニートゥーって呼ぶのやめて」



ホールで待っている間、子どもたちはバルクスと遊んでいる。

もう何も上手くいく気がしない。


理沙も混ざって、本物の家族みたいだ。


理沙さん。

病める時も健やかなる時も支え合うって誓いましたよね?



今、支えてくれませんか?

結構、病みそうです。



溜め息しか出なかった。

どうせなら、口から火球の一つでも出ればいいのに。



「みなさん、お待たせしました!」


受付の元気な声が腹立たしい。

彼女の背後には、色とりどりの装備が整然と並んでいる。


「これからお渡ししますね、最初は、槍使いの葵さん!」


机に置かれたのは、深緑色の装飾が施された細い槍。

持ち手が黒い鉱石でかっこいい。


さらに、フードのある淡いベージュのローブが添えられていた。


槍を構える葵の瞳は、これまでなく輝いていた。



「次は戦士の湊さん!」


淡い水色の刀身が美しい剣と黒い金属製の盾。

湊、二つも持てる?

一個貰おうか?


受け取った湊はバルクスと闘っている。

やっぱり、バルクスの方が良いのか…。

わかるよ、このおっさん、強そうだしな。



「雷鳴の魔導師さんは、すごいですよー?」


受付の女性が両手で慎重に抱える杖。

地面につくほどの高さで、木の幹のようにねじれた形。

先端には黒紫色の球体が嵌め込まれ、たまに小さな稲妻が走っている。


まるで杖そのものが生きているみたいだ。


「この杖は、カサンドーラ砂漠の唯一の大木──“雷鳴樹”から作った特注品です」


「あとは、このローブをどうぞ」


山吹色のローブを羽織り、杖を構える理沙は、もう魔法使いにしか見えない。


あーあ、これから喧嘩したら、リアル雷撃かぁ。



「最後にニー…、無職さん」


「無職も変わらないからな、陽介で頼む」


「では、陽介さん、こちらをどうぞ」



差し出されたのは、一枚の紙きれ。

風が吹けば簡単に飛んでしまいそう。



「…職業開発学校?」


「はい!ニートゥーの方でも、後天的に発現する場合もありますので!」


「ったく、それを早く言ってくれよ」


「えぇ、まぁ…一万人に一人くらいですが…」


「いや、可能性がゼロじゃないなら諦めねぇよ」


俺を横目にみんなは武器を披露して笑い合っている。



絶対に力を手に入れてやる。



この笑顔を守れるのは、守りたいと思っているのは──他の誰でもない、俺だ。



──家族は俺が守る。

無職でも、ちっぽけでも、俺なりに出来ることがあるはずだ。


絶対諦めねぇからな。


待ってろ、クソ異世界。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
家族みんなでの転移って面白そうですね…! タイトルで分かっていましたが、お父さんの職業が! でも、凄く前向きで頑張る姿に応援したくなりました。 続きも楽しみに読ませて頂きますね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ