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チートスキル<圧縮>を手にして異世界転移を果たした余はすべてを圧縮する

作者: みみみみ

トラックに轢かれて死んだ。

神からチートスキル"圧縮"を授かり、異世界転移した。


神は言った。

『テンポ早くない?』



 ◆ ◇ ◆



「ねえ、大丈夫?」


目が覚める。草原。


「ねえってば」


エルフ。金髪碧眼美少女。巨乳。


「……って、ちょっと。ちょっと待って」


なるほど。メインヒロイン。そのうち結婚。子供は──


「ストップ!ストーップ!あなた、"世界を見る目"がおかしいわよ!」

「……そうだろうか」


別に、チートスキル"圧縮"を使っているだけだ。これぐらい凝縮されたって何ら不思議じゃない。


「いや、生き急ぎすぎでしょ!……びょ、描写が薄すぎる!」


ぷっちーん


「何の音!?もしかして怒った?」

「お前……作品は星の数ほどあるのに読み手の数は限られてるんだぞ!読者様のために我々は可及的速やかにエンターテインメントを提供しなくてはいけないんだ!」

「ひいっ!ご、ごめんなさい……?ってそれってどうするのよ」

「こうするんだ──オラァ!」


魔王。圧縮。死。


「魔王逝ったーッ!!!!」

「これで世界は平和になった。次は──」

「待って待って待って!展開が早すぎるってば!」

「ええい、この世には英語6単語で小説を書く大いなる存在がいるんだぞ!それに比べればまだ長いわ!」

「な、なによそれ!」

「知らんのか?その片鱗を拝借して書き直してやろう」


売ります。魔王のパンツ。使用済。


「キッッッッッショ!!!!!!!!!冒涜でしょこれ!!!」

「"オマージュ"と言えばなんでも許されると思うなよ?」

「自分で言ってどうすんのよ!」

「謝罪と自粛期間を"圧縮"だ!そして次は──」


気丈なナイト。たゆんたゆん聖女。メスガキウィザード。ダウナー系シーフ。


『あんたなんて無能、いても邪魔なだけよ』

『お前のことなんて最初から眼中にないんだから』

『ざーこ!ざーこ!一生その辺で地べたでも舐めてなさい』

『……君なんていなくなっても寂しくない』


「ナニコレ?……ってまさか、追放系!?」

「そうだ。これで──ざまぁからの寝返りまでを"圧縮"する!」


『あんたなんて無能、いても邪魔なだけよ♡』

『お前のことなんて最初から眼中にないんだから♡』

『ざーこ!ざーこ!一生その辺で地べたでも舐めてなさい♡』

『……君なんていなくなっても寂しくない♡』


「デレたーッ!!」

「今更デレても……もう遅い」

「いや、そこは"多分これが一番早いと思います"って言うとこでしょ」

「ハッハ。さらにここで奥義、"サービスシーン"をひとつまみ」


──水着回。ハロウィン仮装回。温泉回。


「ちょっと、今の1行で1年ぐらい過ぎたんだけど!?」

「さらにお前を──"お前"は2文字も使っていて無駄だ。お前は今から"エ"な」

「"エ"!?絶対エルフのエを持ってきただけでしょそれ!?」

「甘いな。"エッチなエルフ"だ。真の圧縮者なら1文字で複数の意味を入れるものだ」

「ウッザ!!!」


悪徳令嬢。聖女。婚約破棄。


「ちょっと、……ちょっと!私に変な属性を圧縮しようとしてない!?」

「もう1400文字も消費している!速さが足りない!」

「一体何と戦ってるのよ!ねぇ!?」

「どこぞのポストモダンの申し子なんぞ、日本語41文字で1作書いてるんだぞ!なろうのあらすじ部分で完結させるのが本物の圧縮者だ!」

「いやぁ!私はスローライフをしたいだけなのに……助けて神様!」


ぴかーん


「な、なにぃ!この光は!?」

「か、神様が来てくれたわ!描写は圧縮されてるけど!」


『そなたの願い聞き届けよう。"展開"を授ける』


「なんて不合理な!まさかだらだらとしたスローライフの小説を始める気か!?……させるか!」


ぴかーんぴかーんぴかーんぴかーん!


「擬音で戦っている!?神様相手に!?」


ぴかーんぴかーんぴかーんぴかーんぴかーんぴかーんぴかーんぴかーん!


「やっぱ冒涜でしょこれ!……いや、ここで"展開"を使えばいいのね!」


ぎゅいーん


──神が放った光は、凄まじい轟音とともに大地を蹂躙した。眼前に広がるは、まるで白銀の大河が水平線まで到達するがごとき無数の閃光の奔流──


「ウ、ウザいウザい!!!マジでやめろ!!──"圧縮"!」


ぴかーんぴかーんぴかーんぴかーん!


「ら……落差が激しすぎる!っていうか読者の想像力任せにしすぎでしょ!」

「"信頼"って言うんだよ。これが小説の懐の広さよ」


神、退場。


「神様ーッ!」

「フン。しかし"展開"の能力は残ったか。余の邪魔にならなければなんでもいいんだが」

「あんた、一人称"余"なの!?」

「当たり前だ。"ワタシ"とか"オレ"は圧縮率が悪い。余のことは"ヨ"と呼ぶがいい」

「呼ぶとか以前に関わりたくないんだけど!」

「ははっ。圧縮しすぎたおかげでこの世界には"ヨ"と"エ"しかいない。覚悟するんだな」


エ、感動。


「感動してない!でっちあげるんじゃない!」

「ハハッ。しかしそうしないと余生は地獄だぞ。なんせもう店じまいをしようとしている」

「ウッソ!速すぎだってば!!」

「スローライフは読者の余韻にまかせておけばいいんだよ。──言い残すことは?」

「それ敵に引導を渡す前に言うセリフでしょ!」


かくしてふたりは幸せな圧縮スローライフを楽しみましたとさ。

めでたし。

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