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《零室 -REISHITSU-》  作者: 鳥野 餅
名もなき焔は歩み出す
9/16

第9話 帰還─未熟な炎はどこまで

──夜の零室本部、地下エリアにて


「……青山、聞いているのか?」


「……はい」


夜が明けていた。


拠点に戻ってすぐ、俺は桐嶋先輩に呼び出され、地下フロアの作戦室にいた。


広い部屋の中心に、仮設モニターと机。

照明は最低限しかついておらず、薄暗さが逆に緊張を増していた。


「命令を無視した。それは事実だ」


桐嶋先輩は、低い声で言った。机の上に、任務記録の端末を置く。


「……対象は異能暴走状態。通常なら即座に制圧判断を下す局面だった。

君の判断次第で、空木が大火傷を負っていた可能性もある」


俺は黙ってうなずく。否定する理由はなかった。


実際、結果だけを見れば運が良かったのかもしれない。

空木の冷静さと、先輩のフォローがなければ、彼女はその場に倒れていたかもしれない。


だが──


「俺は……間違っていたでしょうか」


「間違っていたか、か」


桐嶋先輩は、わずかに眉を寄せた。


「間違っていれば死ぬのがこの仕事だ。だが、正しければ救える命もある。

その両方を理解した上でなお、お前は“自分で考え、選んだ”──そうだな?」


「……はい」


「なら、少なくともその責任は自分で背負え。

この場はそれで済む。だが、次はないと思え。わかったな」


「……はい。肝に銘じます」


その瞬間、扉がノックされ、情報班の調査員が入ってきた。

白衣を着た細身の女性。端末を持ち、短く頭を下げる。


「失礼します。現場で確保した対象の解析が完了しました。

対象少年は12歳。登録名:倉科慶太。

脅威度スレッド・クラスは暫定で4.2。能力は《熱波操作》、ただし制御不能状態でした」


「異能の暴走理由は?」


「情緒的外傷。家庭内での強い抑圧と虐待が、異能覚醒と重なった可能性が高いです。

異能は本来、意識と感情に強くリンクしますが……今回はそれが完全に暴走トリガーとなったようです」


「……なるほどな」


桐嶋先輩は短く息を吐き、視線を俺に戻した。


「この国には異能を持っただけで管理対象になる子供がいる。

……お前のやったことは、現場判断としては愚策だった。

だが、その愚策が、『倉科慶太』という一人の命を救った」


その言葉に、俺ははっとして先輩の目を見た。


「誇れとは言わん。

だが、それを見なかったことにするな。お前が選んだ結果だ。

──その火を、自分の中で絶やすな。青山」


桐嶋先輩はそれだけ言うと、調査員を促し、部屋を出ていった。


残されたのは、重たい静寂と、自分自身の鼓動だけだった。


 


俺は、ようやく深く息をついた。


叱られたのは事実だ。正面から、間違いを指摘された。


けれど、それでも。


──あの時、俺は確かに“誰かの命を救いたい”と思った。


その行動が報われたかどうかなんて、誰にもわからない。


ただ。


ほんの少しだけ、自分の中に灯った火が、消えずに残っている気がした。


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