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ひずみ  作者: 大和 雅
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立ちはだかる大きな壁

結婚を決意した母、響子と 父、承一

順風満帆に…とはならず、両家共に反対の嵐が吹き荒れた

まず、承一には兄弟が無く、身体の弱い母との2人暮らしだった

とても貧しい家庭だったが、承一には縁談の話がよく舞い込んできた

裕福な家で生まれ育った娘が承一に好意を持ち、いささか訝しいながらも可愛い娘の願いを無下には出来ず、親子で承一との交流を何度かはかり、承一の人となりを分析するかのような時間を過ごすことも多かった

勤勉で真面目で働き者の承一を婿に。と話が進みかけては、承一が断るということが続いていた

承一の母はなんとしてでも裕福な娘と縁結びをさせたい一心で承一の背中を押すが、頑として断り続けた


「自分が良いと思う人、自分が好きになった人と生涯を共にしたい」


この一言だけで、自身の母親を黙らせてきた

孝行息子である承一の、母に対する唯一の反発だった


そんなことなど知らずにいた響子が承一に連れられ自宅へ行く

響子は一瞬驚いた

古びた外観で、バラック小屋のような建物が家だったのだ

だが、すぐに気を取り直し…

(私は家と結婚するんじゃない。恋焦がれた愛する人の元へ嫁ぐのだ)

そう思うと同時に家の古さなど気にもならなくなった


承一の母は遠慮なく響子に生い立ちなどを根掘り葉掘り聞く

みるみるうちに顔色が変わり、態度も横柄になり、挙句

『こんな貧乏娘のどこが良いんや!学も無い金も無い…承一にはもっと立派な嫁さんが似合う!私は絶対にこの結婚は許さへん!』


けんもほろろだった


響子は恥ずかしくて顔をあげられずにいたところで、初めて声を荒らげた承一を見て更に驚いた


「お母さん。裕福な家庭の娘さんを嫁に迎えたいのか?」

『当たり前や。お前を婿にと懇願する裕福な娘が列を成してるのに何が悲しくてこんな貧乏娘と結婚すると言うんや!この親不孝者!!』

と、罵った


承一の口調も強くなり

「お母さんは私の幸せより、裕福が望みですか?息子を売って贅沢したいのですか?無理な結婚をした先に何が待ち受けているか考えたことがありますか?目先のお金に目がくらんでしまっているのなら本末転倒。親不孝者と罵るのであれば1度裕福な娘と婚姻することで親孝行になると言うならしましょう。ですが、この言葉を鵜呑みにして、響子との縁談を破談にするのであれば私は舌を噛んで死にます。」


衝撃的な言葉だった

承一の母は目を丸くし、呆気に取られポカーンと口を開いたまま沈黙していた

響子は背の高い承一の顔を仰ぎみて、小さく首を振った


そんなこと言うたらあかん…蚊の鳴くような声で承一を諭すも…響子はいたたまれなくなり、その場から逃げようとしたが、承一が響子の手を力いっぱいギュッと握りしめていて身動きが取れなかった


沈黙していた承一の母が張り裂けんばかりの声で嗚咽を伴いながら泣いていた


そんな母を前に動揺することも無く承一は続けた


「今日初めて、母のことが恥ずかしいと思いました。贅沢はさせてあげることは出来なかったけれど、これまで必死に長男として息子としての務めは果たしてきたつもりでした。これからもそれは変わりません。どうか結婚を許してください。では、今日はこの辺にして響子を送り届けて来ます」


と、言って握った手の力を緩めることなく響子と家を後にした


陽射しがさんさんと降り注いで明るかった空が、暗くなっていた


響子の心も空と同じくどんよりと暗い気持ちになっていた

今日の出来事だけがそうさせたのでは無い

実は

響子も家族から大反対を受けていたのだ


そのことを言おうか言うまいか…ずっと悩み続けながら迎えた今日


帰り道に意を決して、承一に洗いざらい話した


反対されても響子は嫁ぐ気でいた

今日の出来事で、尚更気持ちは固まった


響子…御年…18歳

結婚したい人が居る。と家族に告げた時には皆、興味を示し、どんな人なのか…どこの人なのか…何をしている人なのか…何処で出会ったのかと矢継ぎ早に聞き入っていたのもつかの間


そんな貧乏人の上に母1人子1人の家に嫁いでどうするんだと、最後には罵声に変わり、結婚するには早すぎる!と、大反対されていたのだ


母もこの時家族に向かって

「私が好きな人なんです。幸せになりたいんです。承一さんでなければ幸せにはなれないんです。私の幸せを奪う権利は家族であろうともありません。絶対に結婚します。」

そう啖呵を切ると

『勝手にせぇ!後で泣いてもお前に戻れる家など無いぞ!』

と長兄と次兄に吐き捨てられたことで、許しを得たのだと腹を括ったのだった


波乱万丈の始まり…


響子は怖くなって泣いた

承一さんを失ってしまうのでは無いかと泣いた


承一はたった一言

「大丈夫だ。心配無い」

響子の肩に手をあて、トントンと優しく触れた


その優しさに、響子は安堵してまた泣いた


長い月日が流れ、険悪なムードの中

晴れて結婚を果たした




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