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めぐりゆく季節へ~夏

作者: 鈴々

昔書いたエッセイ的な短編です。

少しでも何か感じていただければ幸いでございます。

梅雨入りってどこにいったんだろう……。

なんてことを問いかけてみても答えてくれるものはどこにもいなくて。

空を見上げると、気持ち良いくらいの青空が広がっている。そしてこの地上にはその空でひと際異彩を放つ太陽からの熱が降り注いでいて。

ま、一言で言えば暑いんです。

もうちょっと付け加えるなら、めちゃ暑い。む、あまり変わってないぞ。

なんて、もう頭の中は暑さで何を考えているのか自分でも検討がつかないような状態。もしかしたら脳みそとろとろになっているのかもしれない…。


周りは見渡す限り何の変哲もない住宅が連なってて、私の歩いている地面はコンクリートロードがどこまでも続いていて、そしてその道の真ん中でガマガエルが内臓を口から出して死んでたりして。


ああ、夏だなあ、なんてちょっと思ってみたりする。


例えば、真夏の炎天下の道のはしっことかに干からびたミミズやらがいたりすると、いかにも夏だなって思ってしまったりするのは私だけだろうか?いや、きっとみんな思う事なんだろう。

でも、そんな思いは照り返すような灼熱の陽射しに真っ黒に焼かれてしまいましたとさ。


ああ、いっそ私もこのまま道のはしっこで干からびてしまいたい。そんな思いも、暑さの前にはもうとろけてしまうだけである。


今日は何か特別な事があるかもしれない。なんてそんな淡い期待を私は抱いている。でもそんな思いとは裏腹に一日はいつも通りに過ぎていく。

一人でいたくなかったのに、一人じゃなくなったら今度は無性に一人になりたくなってしまう。そして素っ気無い態度、思考回路は以前停滞中。思い通りにいかない日なんていつもの事だけど、思い通りにいっても満たされないこの心のモヤモヤというか、何と言うか……。


そんな事を考えながら生ビールをちびちびと飲む。

気付いたら一日なんてあっという間に過ぎていて。

太陽が沈んで暑かった陽射しもなくなり夜が来る。

特別な日を特別たらしめる出来事など何一つなく。

私はただつまみのから揚げに手を伸ばしてそれを箸で掴んで口に運んだ。

そんな私の人生。

可もなく不可もなくと言ったところ。


一人きりではないのに一人きりと感じずにはいられない。

だからいっそ一人になりたくて、でもこのまま一人になったら本当に孤独になってしまいそうで。


ああ、私もあのガマガエルみたいに口から内蔵出して死んでしまいたい。

なんて思ってみたところで、そんな事は起きないわけで。


帰り道、星が良く見えて、私はずっと空を見上げながら歩いた。

上を向いて歩こうよ

涙がこぼれないように

そんな昔の歌を少し口ずさんでみる。

でも、上を向いても涙は流れていく。

悲しいのかもわからない。

苦しいのかもわからない。

でも、上を向いても流れてしまうくらい、涙は止まることなく溢れた。


川沿いを歩いた。遠くに小さく薄暗い街灯があるだけの、木々に囲まれた小さな小路。川の流れる音を聞きながら、この暗闇に同化していく自分を思うと、少し心が安らぐ。

昔、有名な作家がこの川に身を投げて心中したらしい。

そんな事を思い出す自分は、きっとまだそういう願望を強く持っているのかもしれない。


川の方に目をやっても、暗くてよく見えない。微かに川面に光がキラキラと反射してるのが見えるけど、よく分からない。それでもぼーっと川の方を眺めていた。


そしてそれは突然目の前に姿を現した。

初めはただの光としか理解できなかった。いつもどおり、思考がちゃんと働いてないせいだろう。しかし、しばらくそのうす緑色の光に視線を追いかけていて、気付いた。

それは光だ。

生きた光。

そう、ホタルの光。

光がゆっくりと川の上を飛んでいく。頼りないけど、でも確かに、しかっりと飛んでいく。こんな東京の真ん中で、たった一匹のホタルと出会った。

気が付くと、その光を追いかけていた。

何かあるのかなんて聞かれてもわからない。きっと何もない。でも、何故か心は高鳴っていく。ホタルの放つその淡い光を、まるで子供のように夢中になって追いかけた。

地面は土でちょっとぬかるんでて走りにくいけど、それでも追いかけていく。ただの光。いや、私にとってその光は、きっとただのホタルの光なんかじゃない。何か、特別な何かがあるのかもしれない。だから私は必死にその光を追いかけているのだろう。


しばらく追いかけていたが、結局草木が沢山生えているところに差し掛かったあたりで見失ってしまった。

気が付くと、涙はもう止まっていて、代わりに汗が頬を流れていった。

見失ってしまったのはちょっぴり残念だったけど、でも不思議と心はすっきりしていた。

それは夢中で走ったせいかもしれない。

気が済むまで泣いてしまっていたからなのかもしれない。

それでも、あのホタルが私にこう言っているのが聞こえた気がした。


「強く生きろ」


だから私は追いかけたのだろうか。その言葉を、その意味をしかっりと理解しようとせんために。


たった一匹でもたくましく生きるあのホタルのように、私は生きられるだろうか?

どんな事があっても、自分の光を絶やすことなく生き続けてゆけるだろうか?


その日が初めて、何か特別な日に変わった瞬間だったのかもしれない。



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