EP2:知らない天井//20680417
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「........あ」
気が付いた俺は、自分が知らない所にいて、さらにベッドに横たわっていることに気づいた。
「.......知らない天井だ」
このセリフ、一回言って見たかったんだよなぁ
「あら、気が付いたの?」
声の方を向くと、白衣を着た大人びた女性がいた。........普通に恥ずかしいからスルーしよう。
「.......あなたは?」
「私は吉野、ここの医者よ」
「.......ここは、病院ですか?」
俺は戸惑いながら問いかけた。
「まぁ、そう思うのも当然よね。とにかく、後のことは彼女から聞いてね」
吉野さんが俺の傍から離れると、また別の女性があらわれた。
「鹿久保さん!?ゴホッ.......」
「あんたはそのままでいいわよ。結構無茶したんだから。あんた、丸一日寝てたのよ」
「一日......あっ!まゆは......!妹はどうなりましたか?」
「大丈夫よ。あんたの妹、それに現場にいた人に死者はいないわ」
「.......ふぅ、そうですか」
「ふふ、安心するのはまだ早いんじゃない?あんたはまだ、状況がよくが分かってないはずでしょう?」
そういうと鹿久保さんは、説明をし始めた。
「あんたはあの時、災害に出くわした。その後、妹をかばって狙われたあんたは、うちの隊員にぎりぎりで助けられた」
あの時の女の子のことだ。少しずつ記憶が鮮明になっていく
「その後すぐに、あんたは気が抜けて気を失ってしまったの。ここまでは覚えてる?」
「はい、大丈夫です」
「分かった。話を戻すけど、あんたは助かったけど、怪物には逃げられた。怪物は同じ標的を狙う習性があるし、あんな大型は宮崎以来だから、福岡を離れて東京で保護することになったの」
「つまり.......ここは東京の駐屯地ってことですか?」
「えーと.......まぁそういう感じね。まだ何か質問はある?」
「えっと…そうだった!俺!災害の現場で妹にそっくりの人を見かけたんです!それからすぐに爆発が起きて.......」
「.......」
鹿久保さんは深刻そうな顔をして、話そうとしなくなってしまった。
「えっと......鹿久保さん?」
しばらく静寂が続いた。鹿久保さんは何かをためらうかのように眉をひそめたが、すぐに覚悟を決めたように口を開いた。
「ここまで来たら、何も話すわけにはいかないわよね。話す前に、まずは場所を変えましょう。ちょっと来てもらえない?」
そういうと彼女は丸椅子から立ち上がり、室内から出ていく。俺もそれに続いていった。
医務室らしき場所から出ると、そこには長い廊下が続いていた。他の部屋には部屋番号らしきものが付いていて、生活感もあったことから、俺はここが寮らしきものだと推測した。
「あんたは、ここが駐屯地だって言った。けどそれは間違い」
「え?自衛隊の駐屯地じゃないならここは一体......」
「ここは自衛隊から独立した、日本の先進技術の結晶でもあり、日本の最後の砦」
そういうと、彼女はある場所で止まった。他の扉とは違う、大きな扉がそこにあった。スキャナーにカードをかざし、パスワードを打ち込んでいく。かなり厳重な場所のようだ。
大きな音を立てて、扉が開いていく。
そしてその中に、巨大な司令室が見えた。
「ようこそ御子神雅。日本独立軍事組織、ファナティクスへ」
「ファナ.......ティクス?独立軍事組織!?」
今まで聞いたことのない名前が突然出てきた。それも独立軍事組織って言った!?自衛隊じゃないってこと!?憲法9条はどこに行ったんだ!?
俺は困惑を隠し切れなかった。その時、一人の年寄りが近づいてきた。
「鹿久保さん、君はいつも突拍子もないことを考える。見てくれ。皆が驚いているだろう」
「ごめんなさい五十嵐長官。でも彼には説明する義務があると思って」
「ははは、いいさ。もうここの奴らは慣れているさ」
そういうとこの明らかに偉い人はこちらに目を向けてきた。
「自己紹介をしないとな。私はここの長官で五十嵐修造という。彼女が迷惑をかけたようだ、すまないね」
「いえ!とんでもない!こんな素晴らしい方々とお話ができる機会が持てて光栄です!」
俺は緊張し、少しお世辞じみた言葉で返した。
「はは、とても礼儀正しく育っているね。親の顔が思い浮かぶよ」
「ありがとうございま.......え?思い浮かぶ?」
「はいはい、五十嵐さんそこまで。世間話をするために彼を連れてきたんじゃないですから」
「そうかい、なら私はお暇するよ」
そういうと五十嵐長官は司令室から出ていった。
「さて、話が逸れてしまったけど、君はどこから聞きたいかしら?」
「......どこからと言われても、聞きたいことが多すぎて.......」
「分かったわ。なら最初は、この組織から話しましょう。この組織、ファナティクスは、表向きは近年増加している災害を研究するために設立された組織よ。ちゃんと日本のHPにも載ってるわよ」
それは知らなかった.......というかそこしっかりしてるんだ......
「実際は、研究と言ってもその範囲は限定されてないの。だから怪物と戦ったり、サンプルを取ったりしても問題ないの」
「な、なるほど。それでこんな司令室が......」
「私はここの指揮系統全般を担ってるの、さっきの五十嵐長官は私の上司でここの研究部署も全て扱っているすごい人なの」
「それは凄いですね。さっきの方が戦闘に研究まで管理してる人なんて.......」
「それでいて誠実で部下思いなの」
どうやら先程の人はかなりのやり手のようだ。年寄り呼ばわりしてごめんなさい。
「ここまでで質問はある?」
「えっと、それで災害と、俺の妹に似た人に何の関係があるんでしょうか......?」
「そう、それが次の内容よ」
「?」
先日も思ったが、俺は試されているのだろうか?
「先に言っておくけど、災害の原因二つはもう分かってるの」
「え?」
俺は訳が分からなかった。
「ここからが本題よ。うちの組織のことは前置きみたいなもの。よく聞いときなさい」
鹿久保さんは続けて言う。
「あなたの妹にそっくりの人物、世間ではこういうのを『ドッペルゲンガー』って言うの」
ドッペルゲンガー、自分に瓜二つの別人を見ると死んでしまうという都市伝説の一種。よく考えるとこの前のあれは確かにそれに当てはまっている。
「でも違うのは、ドッペルゲンガーが現れると死ぬんじゃなくて、災害が起こること。私たちはこの災害を、『ドッペル災害』と名付けた」
「でも、何でその......ドッペル災害がドッペルゲンガーを見るだけで起こるんですか!?そんなこと.......」
「それが二つ目の原因。この災害にはドッペルゲンガーと『ファナダイト』なの」
「ファナダイト?確かにあれなら.......そういうことも可能なんでしょうけど......」
「そう。ファナダイトがそのエネルギーで世界を100年発展させたと言われるのと同じで、その力は何らかの形で地球の何かに影響を及ぼしたと考えてる。だって、それ以外にこの世界で変わったこと、ある?」
確かにこの約30年の発展は、大体がファナダイトを用いた発展だった、だけど発展の代償が災害のなら、それは本当に......
「もしそれが正しいなら、あなたが昨日俺をスカウトしたのは.......」
「そう。あんたが言った人類滅亡は間違いなく起き始めている。ゆっくりと、でも着実にね......ここまで言えば、私が言いたいことがわかるわね?」
ああ、やっぱり俺はこの人に試されているのだ。この人は俺に真実を話して俺が後戻りできないようにしてきた。俺がこの状況でできる選択は、覚悟を決めてドッペル災害と向き合うか、それとも意気地なしとして逃げ出すかの二択だ。
「少し早いけど、あんたにはその資格がある。でも無理にとは言わないわよ」
そりゃ酷な話だ。俺が片方しか選べないこともお見通しなのかよ。
「......分かりました。俺にやらせてください」
その瞬間、鹿久保さんは顔に笑みを浮かべた。この瞬間、俺は一般人から人類の未来を背負う人間になったことを薄々感じ始めた。
「それじゃあ少し早いけど、インターンを始めましょう。これからあんたは司令見習いよ」
「え?でも学校は......?」
「どうせこれから1ヶ月はここから出られないわよ。ああ、欠席日数を気にしてるの?それなら公欠扱いになるから心配ないわよ」
「そうじゃなくて!?福岡に妹がまだいるんですよね!?」
「.......?......妹さんならここにきてるわよ。そういえば言ってなかったっけ?」
「いるの!?!?!?!?」
こうして、1ヶ月にわたる住み込みインターンシップが始まった。
~総司令室のある会話~
隊員A「鹿久保さんはなんでいっつもあんな感じなわけ!?上司適正なさすぎない!?」
隊員B「でもあれで助けられた時もいっぱいあるからね」
隊員A「それだけじゃないからね?新人歓迎会での酔い方見てないでしょ?」
隊員B「あんなんだからいつまでたっても男寄ってこないんでしょうね」
鹿久保「おい言っていいことと悪いことあるでしょうが!」
隊員B「私はカバーしたほうなんですがそれは」
鹿久保「関係ないわよ!それに私はできないんじゃなくて作らないだけだから!この年で偉くなるとプライベートな時間なくなるのよね~まったく」
隊員A「はやくち......鹿久保さん何歳だっけ(ボソッ)」
隊員B「33」
鹿久保「29だ!そろそろどつくぞ!というかあんた全然カバーしてないじゃない!」