白薔薇茶
ある休日の朝。
「お嬢様、お茶のお時間でございます。」
執事のアーサーから声をかけられたアビゲイルは、読んでいた資料から目を離し、少し眉間にシワを寄せている。
「今日は早いわね。白薔薇茶かしら?」
アビゲイルの問いには答えずに微笑んだアーサーを見て、座ったまま軽く伸びをした彼女は、控えていた侍女のアンナと共に応接室へと移動する。
「休日にもケイトに会えるのは嬉しいんだけど、何だかとっても嫌な予感がするわ…。」
彼女の親友、公爵令嬢のケイト・モッティは、時たま厄介な事案を持ち込んでくるのだ。
特に約束なしでこの隠れ家にまで来るのだから、相当厄介な可能性がある。
そもそも、アビゲイルが今いる所は所謂隠れ家である。理想通りのこじんまりとした家に、たくさんの花に溢れた庭は、まさに彼女にとって楽園だ。
休日には執事のアーサーと侍女のアンナ、庭師兼護衛のジョイルと共にこの隠れ家に籠るのだが、限られた人間しか存在すら知らない。
アビゲイルは普段は兄がいるタウンハウスで生活をし、学園に通っている。
長期休暇になると、父と母がいる領地に拠点を移すこともある。
しかし、アビゲイルはこの隠れ家が一番好きで、普段からここで生活したい。なんならここから学園に通えばいんじゃね?と思っている。
家族の反対さえなければ…。
この隠れ家は異空間にある。
アビゲイルは空間を自由自在に操れるギフトの持ち主であり、某アニメの素敵なピンクのドアのように、扉を開けたら好きな所に行けるのだ。
ここから学園に通うことも、父母の所に行くのも、兄にちょっかいかけに行くのも普通にできる。
しかし、アビゲイルは精霊の愛し子でもある。
精霊の愛し子は、精霊たちの力を借りて、国の守りである結界を張っていて、あまり長く異空間にいると、その結界が弱くなってしまうのだ。
もちろん、彼女以外にも愛し子はいるので結界が壊れることはないのだが…
如何せんアビゲイルの精霊からの愛され力が強すぎる故に、精霊たちが異空間に来てしまって、国に精霊が居なくなる恐れがある。それが一番ヤバイ!
と言うことで、アビゲイルの隠れ家生活は、休日限定、長期は禁止なのだ。