継続
僕は趣味がオタク寄りだ。
オタクを自称しても良いのだが、本当に好きなことを全力で享受している人に申し訳ない。
ただ一人でいることが多くて、内向的な趣味を持っているだけのことだ。
休み時間には、こうして文章を書くことがある。
「佐々木くん。何を書いているの?」
隣席の町田さんだ。僕に声をかけてくれる数少ない人でもある。
「いや、ちょっと・・・趣味で物語を」
「物語?凄いね。もしよかったら見せてくれない?」
「下手の横好きだし・・・痛々しいから」
「好きなことをしているってすごいことなんだよ。うちのお父さんがいつも言ってる」
「そうなの?じゃあ見せるけど・・・自信ないから、笑わないでいてくれると嬉しい」
そう言って僕はノートを差し出した。
「了解だよ」
町田さんは僕からノートを受け取ると、内容を読み始めた。
それから、休み時間の度にノートを開く。
どう思われているか心配でならない。こういうとき、楽観的に考えられる才能は、僕にはない。
昼休み。
「佐々木くん」
満を持したように町田さんは話しかけてきた。
「書いているところまで読み終わったよ。ありがとう」
どうだった、と聞ければいいのだろう。
どんな厳しい現実も、素直に受け止めて直せばいいことだ。
「面白かったよ!すごいね」
「・・・そう、それならよかった」
心がじんわりと熱くなる。もしかしたら将来は作家になれるかもしれない・・・いやいや、そんなことはない。極端に考えすぎるのは僕の悪い癖だ。
「痛々しいことなんてなかったよ。そりゃ本物の作家さんとは比較にならないけど、今の佐々木くんは本物の作家さんじゃないからね。ここにいる、私の隣の席の人がこんな物語を書いていた、その事実をベースにすれば、すごいことだよ」
「ありがとう」
僕が欲しかったのはその言葉かもしれない。
そうだ、本物の作家ではない。それは言い訳にもなるけれども、それ以上に直視しなければならない今の現実だ。
今の僕の評価が上がった。それは純粋に嬉しいことだ。
「ねえ、続き書いたらまた見せてね」
「わかった」
続き、書こう。
今の僕の横には小さなファンがいてくれる、そのことが嬉しい。
頑張ろうと思える。
失敗することは多いだろうし、プロには酷評されるだろう。本にしても売れないかもしれない。
でも、町田さんがまた見たいと思ってくれたのも現実だ。
良い現実も、嫌な現実も、繋がっている。
僕はただ書けばいい。継続以上に現実とできるものなどない。
どんなに上手かろうと、下手だろうと、そこは変わらない。
書き続けよう、そう思った。