メモ用紙のイラスト
メモ用紙に簡単なイラストを描くことがある。
人に何かを渡すときにメモを添えると、そういうことがままある。
いや、大したことじゃない。僕は人より言葉にして伝えるのが苦手だから、メモを貼るだけだ。今もそれをしている。
それを毎回写真撮ってから捨てている人がいる。町田さんだ。僕のイラストをどう思っているのだろうか。
じっと見ていると、視線に気がついてちょっと気まずいような顔をする。
「ごめん。可愛いのでつい写真を・・・」
「いや謝ることじゃないよ。なんで写真撮るんだろうなって思っていただけ。あのイラストが可愛いのか」
僕としては、10秒もかからないで書いたサイン代わりのイラストなんて、価値がないのだが。
「勝手に写真撮っているし捨てているし、怒られるかと思った」
「は?」
こちらが怒る気がないのを確認したからか、町田さんは少し安心した様子。
「前は捨てられなくて、メモを溜めていたんだけど・・・。ちょっとストーカーっぽいかなって思って、捨てるようにしたんだ。写真撮れば後で見ることもできるし。捨てることで、また書いてくれるような気がして」
不思議な感性だ。
僕もコレクター気質があるから、取っておきたいのはわかる。人からもらったキーホルダーなど、使い倒して紐が切れても、なかなか捨てられない。
捨てることでまた新たなものと巡り合うことができる、そんな考え方はしたことがなかった。縁切り神社みたいなものか。悪い縁を断つことで良い縁を呼び込む。
「面白い考え方だね」
「そうかな?ありがとう」
彼女は嬉しそうにスマホをスワイプしている。よっぽど大事なものを見直すように、ゆっくり何度も行ったり来たり。その顔はほころんでいる。
「僕としてはそれほど価値がないものだけど、そうやって見てくれると嬉しいな」
「えへへ・・・佐々木くんが喜んでくれると、私も嬉しい」
僕の何気ないイラストが、彼女の手元に大切に残っている。そうされることで価値が倍増するような気がする。
どこかに自分の影響が残ってくれるのが、こんなにも嬉しいなんて。
これからも書き続けたいと思う。