日常
「おはよう」
「おはよう」
以後、会話なし、学校到着。座席に着地。教科書ノートを整頓して机へ。
近所に住む同級生との登校風景はいつもそんな感じ。
一緒に登校するときがあるので、羨ましがられたり、冷やかされたり。
しかし僕の心は動じない。彼女との会話も動じない。何もない。居心地の悪さを感じることもない。
それでいい。お互い関係の発展を望んでいるわけじゃない。隣にいるのが当たり前というわけでもない。いたり、いなかったり、他の人がいたり。
そんな僕の日常は、しかし彩られている。
「佐々木くん、次移動教室だよ」
「ん・・・」
彼女、町田さんに声をかけられる。
「さんきゅ・・・」
「少し休憩があると、いつも寝ているよね」
「まあ。寝ているのが気持ちいいんだ」
「相変わらずだね」
教科書類を揃え、筆箱を乗せて椅子から立つ。
僕が寝過ごすことはままあるが、こうして声をかけてくれる。
そのおかげか、遅刻などはほとんどない。彼女がいなかったらもっと寝過ごす回数は多かっただろう。
「いつも声をかけてくれるけど、そんなに僕のこと気にかけてくれなくてもいいんだよ」
「いつも見ているわけじゃないよ。目についたときだけ。他の人だったらためらうところを、佐々木くんだとためらわないだけ。本当に寝ちゃっているし、声をかけても迷惑にならないってわかっているから」
「そっか」
「気分じゃないときは放っておくかも」
「それは困りますよ町田先生。僕が寝過ごしてしまうではないですか」
彼女はクスッと笑って先に教室を出た。
他愛のない会話。気を遣わないながらも、配慮はある関係。
こんな過ごしやすい場所が僕にはある。彼女のおかげで。
ゆるりと感謝しつつ、僕も彼女の後を追う。
コミュニケーションを話し手と聞き手に分けるなら、僕は間違いなく聞き手のほうだろう。彼女は・・・話し手ではないかもしれない。他の女子と一緒にいるところを見ると、そんなに目立ったリーダー的存在ではない。しかし、僕といるとリードしてくれるし、他の人と話しているときも、話の節々でうまい誘導をしていることがある。基本は聞き手のほうだろうが、状況に応じて話し手にもなっている。彼女はそれが上手い。まさにコミュニケーションに長けた人物だろう。
僕は滅多に話し手にはならない。いつもこうして状況を考えている。しかしそれを、彼女と比べて長けているとか、劣っているとか思ったことはない。彼女と比較すれば、ただ違う人間なだけだ。その状態が、居心地が良い。
お付き合いなどしたら、気を遣ってリードしようとしてしまうかもしれない。それは、僕の本意ではない。僕はこれがいい。