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なんかめっちゃ太もも筋肉痛なんだけど(すっごい個人的な話)
中心部までは、直線距離で約5.5キロメートル。
浮遊魔法で、車と同じくらいの速度である40キロメートルマイ時で進んだ場合、約8分と少しだけかかるということがわかる。
つまり、文字通りの山なりを登ったり降りたりする時間を加味しても、そのくらいの速度で行けば10分程度の飛行の旅であるということだ。まあ、もう少し速く飛べばそれだけ早く着くだろうけれどね。
さて。
私たちは早速中心部に向かうために、浮遊魔法を発動した。
直後、特に魔法陣が出てくることもないままに、その場から数メートルほど高い位置に浮かび上がる。
身を守る防御魔法がちゃんと体を覆っているかなどを確認した後、そのまま、群生している木の上側を沿いながら移動を始めた。
本来、魔法式を扱う魔法に関しては魔法陣を描くことが必要不可欠となる。
ここでいう、魔法陣を描くというのはどういうことかというと、紙の上に普通にペンで描いたり、道具などに彫り込んだりすることを指す。
そういったものに魔力を通すことで、その魔法式に則った魔法が発動できるという訳である。
ちなみに魔力を自分の体から出す方法は簡単で、例えば手から魔力を打ち出すような想像をすれば手から魔力が抜けていくし、目から魔力のビームを打ち出す想像をすれば目から魔力がビームのように固まって抜けていく。
まあ別にビームである必要はないが、このように、上手いこと体の中から魔力が抜けていくことを想像すれば、実際に魔力が抜けていくのである。
そんなわけで、普段魔法を使わない人であっても、魔法陣が描いてあるものに魔力を通すことは比較的簡単にできるから、魔法陣を直接何らかの道具に刻印してある神器…こういうものは特別に魔道具とか言われたりするんだけど、そういう道具なんかは、よく売れるワケである。
しかし、それはあくまでも魔法を専門的に扱うことのない一般人のための魔法陣である。
私たちのような、魔法を高度に扱うような人々…特に黒谷さんのような、魔法による戦闘を専門としているような人にとってそれは、余りにも非効率的で、当然戦闘中にそんな悠長なことはしていられない。
そこで私たちは、先ほどのように何かに直接物理的に魔法陣を描くのではなく、もっと別の方法で描くことになる。
その方法は大きく分けて二つある。
一つは、魔力をインクだと思って、魔法陣を魔力で描き上げてしまうものだ。
魔力は本来感じ取ることが出来ないので、そのような芸当ができるとは思えないかもしれないが、実はそんなことはない。
何度も言うように、魔力は人々の願い一つで魔法を発動出来てしまう。その性質を利用して、その魔法陣が描き上がるように思い浮かべながら自分の魔力を放出すると、ちゃんと描き上がった魔法陣がそこに出来るのである。
これが、何の道具を使わなくても魔法陣が描けるカラクリなのだ。
とは言っても、大抵の魔法陣は複雑な形をしているので、一気に魔法陣を描き上げるというよりは、まず大まかに魔法陣を描いて、そのあと細部を描き足したり消したりという方法で描かれる場合が多い。
所詮私たちは人間なので、プリンターのようにポンと完全に正しい魔法陣は、完全記憶能力に近いものを持っていないと描けないのである。
ただ、何度も魔法陣を描いていくうちに、魔法陣の形をだんだん頭と体で覚えていくことが出来るので、初めからあらかた完成している魔法陣を出すことも出来るようになる。
これが魔法の練度とでも言えるようなもので、一瞬が勝負を分ける魔法使い同士の戦闘においては、この魔法陣の形成速度が大事になってくることも多い。
もう一つの方法は、自分の頭の中で魔法陣を描いてしまうことである。
これは、先ほどの技術の応用といえるべきものなので、これを扱うためにはまず、初めから魔法陣を正しい形で出せるようになるほどの魔法の練度が要求される。
そしてもしそれが出来るようになれば、今度は頭の中でその魔法陣を、写真で撮ったかのように正確に思い浮かべながら魔力を打ち出すことで、魔法を発動できるのだ。
これは、魔法陣を実際に浮かべることなく魔法を発動出来る方法なので、理論上この方法が最も早く魔法を発動できるし、相手に自分がどんな魔法をどのタイミングで使うのかを悟られる事なく発動出来るようになるという大きな恩恵もある。
しかし、普通そこまで精密に覚えていられる魔法というのは、魔法式がめちゃくちゃ単純な魔法であるか、もしくは自分が最も得意な魔法であるとかくらいだろう。
そして今回の浮遊魔法の魔法陣は、その歴史が古いからか、年を重ねるにつれて改善に改善が重ねられ、今では、魔法使いが1番初めに魔法陣を使わないで魔法を発動する時の練習として使われるようになるほどに簡単なのである。
だからこそ、浮遊魔法を発動するときにはいちいち魔法陣を使う必要がないのである。
と、そんなことを考えながら飛んでいると、突然下に引っ張る力が大きくなるのを感じた。
その直後、浮遊魔法により浮いていた体は突如として重力を思い出したかのように落下し始める。
慌てて私は空中で何とかひっくり返りそうになる体を抑えて、体勢を立て直してから、かけておいた防御魔法に加えてさらに防御魔法を重ねがけする。
落下先は森の中。
腕を前にクロスさせて頭を守りながら、その身を木の中に落とす。
体が木の枝に盛大にぶつかり、バキバキバキッと大きな音を鳴らす。
それは中々鳴り止まず、結局木々に体が受け止めきられることはなかった。ふっと音が止んだと思ったその瞬間、ぐえっとそのまま地面に体を打ち付けた。
着いてきていた黒谷さんも例にもれず、木の枝が折れる音を大きく鳴らしながら落ちてきた。
彼もちゃんと防御魔法で体を保護していたからか、何とか怪我なく着地できたみたいで、とりあえずほっと一安心といった所だ。
ん?あれ、ちゃんと着地出来てるやん。私でさえ危うく頭から地面に突き刺さるところだったのに。これはさすが戦闘職と言ったところかもしれない。