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3ん

なんか携帯で書いてるのに勝手にPC投稿になってることに気付いた。

 

Tips

まほうしき【魔法式】

 魔法の意味を定めることができる、ある文字列や幾何学的な模様のこと。


出典 黒猫国語辞典第六版




 カランコロン。


 店のドアにかかっている、来客を知らせる鈴の音で現実に返ってくる。

 かなり長い時間回想をしていた気もするが、どうやら無駄に頭脳チートを使う事で思考時間を早めていたらしい。


 さて。


 入ってきたのは、メガネをかけた一人のほっそりとした男性だ。彼は私たちを見つけると、店員に断りを入れてから、私たちのところに寄ってきた。


「いやぁ、すみませんお二人とも。こちらから呼んだにも関わらず、お待たせしてしまったみたいで。言い訳になってしまいますが、少しだけ準備が立て込んでしまいましてね。」


 彼は須藤健(すどうけん)。魔法捜査研究所の捜査部門における責任者の1人である。なので私は当然知ってるし、黒谷さんをこうして呼び出せるということは、彼とも知り合いなのだろう。


「いえ、私たちがちょっと早めにここに着いたというだけの話ですから。彼と世間話をしてたらすぐでしたので、そんなに待っていないですよ。」

「ええ。私もこのような立場になってからというものの、灯帖さんとお会いできる機会が減りましてね。ただでさえ歳の差がありますから、私の方から会いに行くわけにもなかなかいきませんし。丁度いい機会でしたよ。」


 そう。

 あの戦闘があった時はまだ、彼の所属は警察の特殊作戦部隊の一隊員であった。

 例の外国人の撃退もしくは殺害という任務も、その部隊の活動の一つとして受けていたようだ。


 しかし、あの死線をくぐり抜けた黒谷さんはその後、今の強さのままでは犯罪者1人捕まえるのに沢山の市民を犠牲にしてしまうと痛感したらしく、仕事の傍ら色々な国にその足で赴き、そこにいる強い魔法使い達に道場破りならぬ魔法使い破りを仕掛けまくって(アポイントメントはちゃんと取っていたとは本人の談である。)、たくさんの修行を積んだらしい。


 強い魔法使いがいると聞けば休日に日本を飛び出して現地に行き、強い怪異が境界域から出てきたと聞けば仕事だと言ってその場に赴き。

 このような生活を毎日やっているうちに、いつのまにかその強さが世界的にも認められて、ついた渾名が黒雷鴉(くろなりからす)

 当の本人は渾名をめちゃくちゃ恥ずかしがっているので、揶揄いたいときによく使える名前である。


 ちなみに、彼の全世界魔法使い破り修行はかなり有名で、世界的にも「これは魔法使いが強くなれる最短の方法だろう」と評価されている。

 実際、優れた魔法使いは対人戦を積む事で効率よく強くなれることが実験的にも分かっており、近くにも魔法使い強さランキングみたいなものを作って、ちゃんと国主導で安全性に配慮した対人戦の意欲を高めていこうという動きもある。


 話はそれだがそんなこんなで、強くなりすぎた彼の能力を買われて、今では色々な戦闘部隊の教官をお願いされるようになったらしい。

 そして今は対境界域特殊作戦部隊の教官をしているというわけだ


「お二人にそう言っていただけると、こちらとしても気が軽くなりますよ。それでは早速本題に入らせてもらいますね。」


 ちなみに、須藤さんが黒谷さんでなく私にも気を遣ってくれている理由は、私が学校と研究どちらもやってて、どう考えても忙しそうに見えるからである。

 実際のところは頭脳チートによって思考速度を加速し、あの戦闘の時に足りなかった物理的な速さの壁を魔法で無視できるようになったので、人が1秒を生きている間に私は何分も行動できるようになり、あまり個人的には忙しいと感じてないのだが。




 須藤さんはいくつか赤ペンで印が付けられた境界地図と呼ばれる地図をテーブルの上に開く。それが示す場所はよく見てみると、私が住む町の北側にある山間部のものであり、縮尺を見てみると、大体150平方キロメートルほどの場所を写しているようだった。


 ところで境界地図とは、神社や寺などの信仰の対象となる建造物や、ぽつんと一つだけ存在する家、廃村や塹壕の跡、山の池や滝や洞窟などの自然物など、そういった、境界域になりやすい場所のランドマークが事細かに全部載ってるものである。

 前世ではこのような地図はなかったが、今世では境界域となる場所を探すために、こうしたものがよく用いられている。


 そしてこの地図は赤ペンによって、大体10箇所ほどのマークが囲まれてあった。


「まあ、見てわかる通りなんですけどね。これは境界地図で、この赤丸は境界域になっている疑いのある場所なんですよ。」


 まあ、見た瞬間にそうだろうとは思った。


「それで、これを見せて私たちに何をさせたいんですか?私も灯帖さんも、境界域の場所を探す専門家ではないのですが。」

「ええ、それは承知しています。次に、こちらの地図を見て下さい。」


 そう言って彼が取り出したのは、いまの地図と同じ地図である。こちらには大量の赤丸がドーナッツを描くように付けられており、先ほどの地図と見比べると赤丸の数が100個程に増えていた。

 よく観察してみると、その赤丸は約半径5.5キロメートルほどの円上にポツポツと離散しながら付けられているように見え、大体100平方キロメートルほどの円板を囲っているようにも思える。


「初めにお二人に見せたものは、境界域が発生したと証言があったその日に作成した、境界域になっていそうなポイントをまとめたものです。魔力の濃さは遠隔器械でポンと簡単に調べる事は出来ませんから、これは完全に証言から割り出した大体の場所全てに印を付けたものになります。」

「まあ、そうなりますよね。それで、後はこれらの印のついたところに現地調査に行って、しらみつぶしに境界域かそうでないかを判断して、たった一箇所のアタリを見つける。これが、境界域の捜索の一般的なやり方でしたよね。」

「ええ、そうです。そしてその調査は、我々魔捜研の捜査部門と、黒谷さんのところの対境界域特殊作戦部隊の捜索専門部隊との共同で行っているわけですが…まあこの話は関係ないので置いておきましょう。とにかく、この境界域の捜索を、この一週間ずっとやっていたわけなんですがね。」


 たった10ヶ所の境界域の探索に一週間…。普通は1日2日あれば十分なのにこれだけかかっているということは、凄く行くのが面倒くさい場所に境界域が出来ていたのだろうか。


 しかし、現実は更に上をいく。

 彼は苦い顔をしながら続けた。


「そして今取り出した2枚目の地図は、実際に現地に行って確認された境界域の場所に印をつけたものなんですよ。」




「なるほど。つまり私たちを呼んだのは、普通はぽつんとランドマーク一箇所ほどの大きさしかない境界域なのに、こんなに沢山の境界域がドーナッツ状…というか、多分このドーナッツの中まで探査できてないだけで、恐らくこの穴の中にも広がっているであろうこれらの境界域群の探索と発生原因の特定と消滅と言ったところでしょうか。」


 私がそう聞くと、須藤さんは頷いた。


「まあ、端的に言えばそういう事ですね。正確にいうなら、灯帖さんにはこの境界域群の発生原因の究明を、黒谷さんには灯帖さんの護衛をお願いしたいのです。探索と消滅については、後日我々の方で日程を調整して大規模な攻勢を仕掛けますので、そこまで要求はしません。ただし、するなという訳でも無いですから、そこは臨機応変にお願いします。」

「なるほど、分かりました。」


 と、流れで頷いてしまったが。

 これでは少なくとも明日丸一日は潰れそうだな。

 なるべく早く原因究明を急がなければ。日曜日に持ち越しは流石に嫌すぎる。


「さて、話はこれで終わりなのですが。最後になりますけど、何か質問はありますか?」


 須藤さんが、会議の最後のお決まりのセリフを言う。なんかあったかなぁとパフェを食べながら考えていると、黒谷さんから質問が出てくる。


「そういえば、どうして調査に灯帖さんが選ばれたのですか?確かに彼女は境界域内で活動できるくらいには強いですけど、わざわざこんな危険な場所に女子高生…というには些か大人すぎる気もしますが…を送ることもないでしょう。」


 あ、確かにそうである。

 なんだかんだで私もあの戦闘の後自分の弱さを感じて、魔法の種類と威力と発動速度を上げる修行と、高速戦闘でも体が耐えられるようになる身体能力を鍛えまくったことにより、まさにチートと呼ぶにふさわしい魔法と物理の力を手に入れたわけだが、これは全部個人的にやったことなので、それを須藤さんが知っている訳じゃない。

 ということは、私でなければならない理由があるはずだ。

 そしてそれはズバリ、神器関係しかないだろう。


「ああ、それは単純です。今回の境界域群の発生原因として最も今我々の中で濃厚な仮説が、神器によるなんらかの作用であるというものなのですがね。もしそうであれば、境界域内で自由に活動できて、かつ初めてみる神器の魔法式の内容を読み取り、扱い方を間違えることなく神器の魔法の無力化を出来るような人でないと大変なことになりますから。その点、灯帖さんはこの条件に合いますし、むしろ灯帖さんしかこの条件に合う人が居ませんからね。」

「たしかに。そう言われるとこれ以上ないくらいに灯帖さんしか適任者はいない気がしてきますね。」

「それに、もし神器が原因でなくても、彼女の聡明さであれば、なんらかの結果は持って帰ってきてくれるでしょう。」

「それは違いないですね。」


 おい、さすがに本人の前で持ち上げすぎだろ。少し顔が熱くなってきたじゃないか。


 私は残っていた巨大パフェを一気に食べて、恥ずかしさを誤魔化した。




 その日の夜中。


 寝静まった茜の部屋の中では、その睡眠による規則正しい寝息の音だけが聞こえる。

 しかしその傍らで、スマートフォンが何らかのメッセージを断続的に受け取ったり、電話がかかってきたりと喧しく動いている。


 着信元は、大富士緑川大富士大富士大富士緑川大富士大富士緑川大富士大富士緑川大富士緑川大富士大富士。


 どれだけ通知で部屋を明るく照らし、どれだけ沢山のバイブレーションを鳴らそうと、灯帖茜は気付かない。


 睡眠が深いからか。

 枕が柔らかいからか。

 布団が気持ち良いからか。


 数秒が経つ。数分が経つ。数時間が経つ。


 いつのまにかスマートフォンは光を失い、部屋に静けさが訪れた。


 部屋に広がる暗い闇が、再び彼女を包み込む。


面積を100の円板とすると、その半径は

10/√π(≈5.6418958354776…)

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