20:00
塾前にステーキプレートを2枚食ったのにもう腹が鳴る。
座ってるだけでそんなに体は動かしていない今日に体重を増やしたくないけれど、家に帰っても袋麺と酒しかないので近場の弁当屋に入り、朝分の弁当もついでに買うと1000円に1回引けるというクジを貰って見事2つ先にあるレンタルDVD屋の半額券をもらった。
けれど、その券は明日までしか有効期限がなかったので帰り道を背にレンタルDVD屋へ入ると、この間DVDになったものがすでに置かれていて目を惹かれる。
昨日お父さんから2万は貰ったけど、さすがにここにある50枚全部借りるわけにはいかないよな。
そう思った僕は一旦店内全部の棚を流し見して、究極の5枚を選ぶことにした。
でもその作戦は僕には毒だったらしく、会計前にCDを試し聞き出来るブースにあったテーブルで広げてみると30枚近くあった。
これはまた1時間かかるぞと腹を括っていると、急に視界が閉ざされた。
「だーれだっ♡」
僕はその声に日向とは違う胸の高鳴りを感じて、モコモコニットを着てる手を握る。
琥太郎「瑠愛さん…!」
瑠愛「ピンポーン♡琥太くんもDVD借りにきたんだね。」
と、瑠愛監督はゆっくりと僕の目から手を離し、ぎゅっと抱きしめてくれた。
瑠愛「ここのレンタルDVD屋さん、結構コアなのあるよね。」
琥太郎「はい…!5枚にしようかなって思ったんですけど、どれも魅力的で…。」
瑠愛「この中から5枚かぁ…。なかなか難しいな…。」
そう言って瑠愛監督は右目の目尻に新しく出来たえくぼに少しシワを寄せ、妖精のように少しとがっている耳を顔の表情と一緒にぴくぴく動かして一緒に選別してくれる。
僕は久しぶりに会えた瑠愛監督に尊敬の気持ちが高まりすぎて見惚れていると、その隣に小さい影が見えた。
ずっと見ていたい監督からその影へ視線を軽く落としてみると監督の未来のお嫁さんがいた。
琥太郎「あ…、悠さんもいたんですね…。」
悠「うん。琥太くんのホラー映画見たくなったんだけど、近くのお店になかったから連れてきてもらった。」
…嬉しい。
もう7、8年前の作品なのにそう言ってもらえるだけで僕のもやついた心が晴れていくのが分かる。
瑠愛「俺も音己さんが言ってた琥太くんが出てる恋愛ドラマ、忙しくなる前もう1回見たくてきちゃった。」
…この夫婦は僕の神様だ。
僕は奥さんにも、日向のお兄さんの彼女さんにも感謝して瑠愛監督といれる時間をしっかり堪能し、店を出ると瑠愛監督は悠さんと僕の手を握った。
瑠愛「よーし、3人でモツ鍋行くぞ♡」
悠「琥太くんはモツ食べれる?」
琥太郎「…食べたことないです。」
瑠愛「ステーキの脂身とか食べられる人?」
と、瑠愛監督はとっても心配そうな顔で僕の顔を覗き込んできた。
琥太郎「大丈夫です。」
瑠愛監督が食べたいなら僕はどこでも行きます。
瑠愛「よかった!じゃあ多分食べられるし、今から行くとこすっごい美味しいからハマると思う!」
そう言って瑠愛監督は僕がお弁当を片手に持っていることも気にせず、もつ鍋屋に入り個室でゆったりとくつろげる掘りゴタツで冷えた体を温める。
僕はそれを見て冬始めにコタツを出し忘れていたことをふと思い出し、明日家に帰ったらコタツを出すことにした。
瑠愛「このぷるるんコラーゲンみたいのがモツちゃん♡1個試しに食べてみて。」
と、出来立てを瑠愛監督はすぐくれたので僕は温かいうちに口に入れると、脂身よりも柔らかくてタンパク質のわたあめを食べている感覚になった。
琥太郎「美味しいです…!こんな美味しい鍋があるんですね!」
瑠愛「そうなの!しかもこの店はちょっとピリ辛なのが良いのよ。」
悠「この出汁を吸ったシメのラーメンが美味しいからそれ分はちゃんと胃空けといてね。」
瑠愛「中学生ならそんなの気にせず食べれるよ!満々腹々になるまでいっぱい食べてね。」
琥太郎「ありがとうございます!」
僕は久しぶりに美味しい夜飯を食べれたおかげなのか、瑠愛監督と会えた興奮で疲れてしまったのか、家に帰るとあっという間にベッドで眠りに落ちていた。
環流 虹向/てんしとおコタ