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僕が夢を語った瞬間
あたりは真っ暗になって
なにも分からなくなった。
けど、そんな時は
いつも僕の親が遠いところで
声をかけて呼んでくれる。
それが当たり前だと思ってた。
でも、その当たり前は
僕の夢を手の届かないところへ追いやろうとする。
だから見えない周りを気にせずもがいて
ひとりで暴れまわったけど
いつしか芽生えていた恋心さえも自分で傷つけて
頼りの君を自分で突き放した。
ごめん。
今更だけど、君へ謝罪を伝えたい。
僕といるときはいつも以上に不機嫌になる。
それは自分のせいと分かっているけど、あの時の僕はどうかしてて誰でも傷つけていいと思ってたんだ。
やってはいけないことを平然と君にやってしまったことを自分からちゃんと謝れず、また今日が来てしまった。
「ここにサイン書いてよ。」
と、僕の好きな人で憧れの人の日向 天は監督が作った特製の冬のしおりの表紙を僕に見せる。
「は?なんで?」
日向「サイン入りだったら消えることもないだろうし。」
「サインなんか考えたことねぇって。」
日向「じゃあ普通に“渡辺 琥太郎”で。」
と、僕の名前をこんな時にしか呼んでくれない日向は愛想笑いでも僕の胸を高鳴らせる笑顔をする。
だから僕はそのまま4回も無くされた冬のしおりを日向の手から取り、自分の名前をなるべく丁寧に書いていると自分のつけていた腕時計が後3分で授業が始まることを教えてくれた。
琥太郎「僕、次は体育だから。」
もう少し一緒にいたいしこのままサボってもいいと思えるほど好きだけど、僕にはそんな権利がないのでまずは目の前の授業に間に合うように旧校舎から新校舎にある教室まで走り、体操着に着替えてチャイムと同時に体育館にゴールする。
「琥太、おせーよ。今日ダンスのテストなんだから合わせとこうって言っただろ?」
と、体育の授業だけ真面目に受ける三島 爽太は僕の言うことなんでも叶えようとしてくれるいい“友達”。
「こーたん、また告られたー?」
そう言ってまた持ち込み禁止の棒キャンディーをガリガリ食べて使用済みティッシュに棒を包む、能天気な深実 風喜は情報招集担当の“友達”。
琥太郎「物貸してて駄弁ってたら遅くなった。」
風喜「いやぁ…ん…っ♡もしかして、オンナ…?」
爽太「その声キモいからやめろって言ってんだろ。」
琥太郎「男だよ。爽太に同感。」
そんな適当な話をしながら僕はいつも通り授業を受けるけど、この体育館の出入り口上にある窓ガラスから授業を受けている日向が見えるから大体授業には集中できていない。
今日もそんないつも通りの体育の授業を過ごしていると、待機中に見る日向は少し疲れているのか綺麗な背筋のまま居眠りし始めた。
僕はそんな日向にまた心惹かれていると風喜に頬を突かれた。
風喜「飯、どうする?」
琥太郎「あー…、お好み焼き?」
爽太「俺は焼きそばー。」
風喜「自分はアイスー!じゃあ、いつものチチ婆のとこでいっか。」
爽太「女子は?夏來とかそこら辺の。」
琥太郎「今日はいい。なんか最近だるい。」
爽太「…やる?」
と、爽太は目を少しくすませながら聞いてきた。
琥太郎「そういうんじゃない。今日の気分なだけ。」
風喜「なーんか、こーたん丸くなった?」
爽太「そんな気ぃする。そんなにメンタルやられた?」
琥太郎「違うって言ってんだろ。お前らのことやんぞ。」
僕がそう言うと2人は少し顔を白くさせて少し焦った口調で別の話に変えた。
この2人はあの日から何も変わってないらしい。
僕もそうちゃそうなんだけど、まだあの時よりは視界が晴れているように見えてるから今のとこ大丈夫。
そう自分に言い聞かせながらまたあの日々が繰り返さないように釘を刺した。
環流 虹向/てんしとおコタ