出迎え
「え、いや、いいよって返事したけど、やばいな、どうしよう…」雫は独り言をぶつぶつと言いながらぐるぐるその場を回っていた。
スマホを見ると、「今日の夕方5時くらいにそっちに向かうって言ってたよ」とメッセージが届けられていた。
スマホで時刻を確認すると、4時半!なんと30分後にはこの家に着くらしい。
幸い、整理整頓が好きな性格であったため、家は綺麗で掃除の必要は無かった。
混乱し、絡まったイヤフォンのような思考の中で唯一思いついたのは寝る場所を用意することであった。
使われていない物置同然の部屋(幸運なことに布団を置くスペースはあった)に布団を敷き、部屋を換気し、あっという間に30分が経過していた。
なにか他にするべきことはないかと、雫がその場でぐるぐる回っていた時に、家の呼び鈴がなった。
猫のように飛び跳ねて、インターフォンで家の呼び鈴を鳴らした人と対峙した。
カメラが付いているような最新鋭のものではないため、声しか聞こえないが、その声は少し低くなっていたが、藤原 翔のものであった。
「えーっと、雫お姉ちゃん、だよ、ね?」
雫は少し食い気味に答えた
「うん、そう!合ってる、待ってて、今、ドアを開けるから」
小走りで玄関に向かい、ドアを開ける。
翔とは、昔からよく遊んだ仲であったが、学生生活が忙しかったこともあり、二年か、三年ほどあっていなかった。
記憶の中にあった、小さくて、かわいい、素直な男の子と目の前にいる男の子が同一人物なのか、一瞬分からない程成長していた翔が目の前にいた。
ぅおっ!となんかよくわからないうめき声を我慢して
「ほら、家に入って!」
と満面の笑みで出迎えることができた。
翔は少し戸惑っているように見えたが
「おじゃまします…」と控えめな声で返事をしてゆっくりと家に入っていった。