俺にはヒロインが必要だ!
7章 予言
定時制での学校生活もついに1ヶ月が過ぎた。今の自分にとってすごく長く感じた日々である。
そしてこれから、本格的に環境が変わっていくことになる時期なのである。
5月には学生にも、社会人にもうれしいイベントのひとつであるゴールデンウィークがある。これを気に、バイトを始める人が増えるのである。
それが学校生活を大きく変える主な要因となるのである。
5月になる前日の日、登校時間まで5時間程で待っている時、有ることを思い出していた。
僕は中学校卒業した後、受験に合格し、手厚く中学時代の担任教師にアドバイスを受けることになった。
その時のアドバイスが強く、自分の心に残っていた。
「田嶋。とりあえず合格おめでとう。本当に良かったよ」
「・・・はい・・本当に良かったです・・」
中学校の相談室、向こうの席に座る中学校時代の担任の緑川先生が言った。自分は小さい声で返した。
中学で卒業式を迎えてからも定時制への受験を行い、合格したことを中学側に報告した後、担任の先生にアドバイスを受けることになった。他の人は行き先などが決まって問題は無かったのに、自分を含めた数名は行き先がないまま卒業式を迎えた。合格はしたが、モチベーションはぼろぼろだ。
あんなに悔しい思いをしたのだ。素直に喜べない。
そんな様子はやっぱり察してくれているのか、変に反応はなかった。だがその方がいいに決まっている。
軽く咳ばらいしてから、緑川先生は続けて言った。
「さて、田嶋いいか?お前は遠い高校の定時にいくわけだが、いろいろ心配事があるだろうが大丈夫だ。いわゆるヤンキー紛いの連中はほとんどいないから」
自分が定時制の高校へ入ることで一番心配だったのが、不良連中のことである。他の皆や先生たちが見ていない隙などに喫煙や飲酒していて、他人に薦めて来るような不良がいるかどうかの心配だったからである。
定時制にはそういうがらの悪い人ばかりのイメージしかなかった。
「無論、そういうのもいるかもしれないが、5月、もしくは夏休みを過ぎたころから本格的にそういう奴らはいなくなる。本当だ。そういうのは全日制だろうが、定時制だろうが関係ない。これは殆ど予言だ。変なことをしたりしなければ絡まれることはない。お前はなんだかんだで3年間、無遅刻無欠席だったんだ。定時制行っても充分通じる。頑張って、応援してる」
このアドバイスを受けてから2週間後、定時制の入学式だった。あの時の先生のアドバイスは、ずっと色濃く残っていた。
あの時のアドバイスが何度も何度も頭の中で繰り返しで響き渡る。なんとなく嫌な気持ちが込み上げてきたので、気分転換に漫画を読むことにした。夢中になってしまい、危うく電車に乗り遅れそうになるほどに。
乗り遅れそうになったが、もはやいつものようにとなった4時30分到着。授業の準備を終えた後、漫画を自分の席で広げ待っているとゆっくりゆっくりと皆が集まってくる。やっぱり他の人は5時ほどぐらいから集まり出す。
「おはようございます」
「やぁ、田嶋おはよう。いつもはやいな」
「やっほ〜。おはよう〜」
ぞろぞろ皆がゆっくりやって来て、自分も挨拶を返す。
だがこの辺りの時期から遅刻と欠席をするものが増えてくる者が出てくるのだ。早いと思うが。
そして授業は始まる。今回遅刻はいなかったが、欠席者はいる。
欠席したのは留年組のひとりだった。留年組たちの名前は、女子一人、土方ちゃん、男子二人、一人は秋元くんと、もう一人は江原くんである。ようやくクラスの人たちの名前を覚えてきたのだ。
今回遅刻したのは江原くんである。見た目は地味な方で、髪は染めてない。しかし耳にピアスはつけている。あと、目付きが悪いのが特徴だった。
本格的に彼の遅刻、及び欠席が増えてきた。学校へ来たときも、授業中は軽く居眠りしているか、隠れて携帯をいじっていて、態度は悪い。
間違いなく、彼は近いうちに学校をやめるだろう。
僕はそう思っている。
出席確認が終わり、学校側の連絡が終わり、授業が始まる。最初の授業は数学からだ。始まりだというのにもう眠たそうな人がでるのが特徴だ。
四時間目の社会が終わり、下校の時間となる。すぐに部活の為に移動する者、自分のように帰る者、すこし残って雑談していく者と別れるが、今回は違った。
自分は今回、図書室によってから帰ることにしたからだ。いつも自分は図書室で本を借りる場合は、学校に来たときすぐに図書室によって後借りるか、国語の授業で借りるかのどちらかなのだが、今回ばかりはすこし帰りが遅くなっても図書室に寄ることにした。
もうすぐゴールデンウィークの影響で連休になるから心に余裕を持っていたからである。
図書室独特のあの古い本の匂いが大好きだった。
この気持ちをわかってくれる人は絶対に多いだろう。そして今この気持ちを現在進行形でこの気持ちを共有しているのは、自分と図書室の司書さんぐらいだということだ。
自分のクラスに本読みがすきそうなのは、僕ぐらいだろう。国語の授業で図書室に寄ることはあるが、大抵他のクラスメイトが読もうとするのは漫画ぐらいである。
期待した自分が残念なだけである。図書室に自分みたいな女子がいて、恋愛転換になるなんて、今の自分と自分のクラスではあり得ない。
悲しいなぁ、と心の隅で思い、気に入った小説を借りてから帰った。
少し温かい夜であった。