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俺にはヒロインが必要だ!  作者: たの字の人
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俺にはヒロインが必要だ!

6章 心


「で、それから私はKにこう言った。精神的に向上心の無い者は馬鹿だと。ここまでで何か質問はありますか?」

国語教師の川本先生は眼鏡を中指で軽く直して声をあげた。


時間は4時間目。日付は木曜日。教科は国語、かなり辛い時間である。

定時制高校の生活が始まって、2週間がたった。もう大体新しい生活にも体がついてこれるようになってきた頃、授業内容も、もはや本格的になってきた。


国語科教師の川本先生(中年の男性)の優しい声は、今の時間には耳に悪く、眠くなってくる。実際にもう頬杖をついて寝てしまったもの、なんども寝て起きてを繰り返す者、国語の分厚い教科書を立てて、バレないように携帯を爪で素早くタッチする者と別れている。


今国語の授業で受けている内容は夏目漱石の有名書籍のこころだ。

国語の授業で大体の生徒が学ぶであろう物である。

中学の時では、使うことの決してないであろう古文。本当に嫌だった。

源氏と平家物語も絶対に学ぶだろう。そう思うとちょっと辛い。一度学んだことが有る為、多少は覚えているから忘れないように勉強を繰り返そうとしよう。

テスト期間に。


自分は本を良く読む方だと思うが、日本人作家の純文学はあまり読まない。もっぱら外国人作家のものばかりだ。後ラノベが大半。

なので今回は新鮮な気持ちだった。自分の中学時代の時は夏目漱石の本については学ばなかったからというのもあるが、内容としてもだ。


自分の失敗と移り変わる心情が、どうしても目を背けたくなるのだ。どれだけ嫌だと言えど、逃避しようが結果は変わらないのが憎たらしいが。


「と言う訳もあり、私は自殺することにしたのです。この手紙をあなたが読んでいる頃、私は死んでいるでしょう」

最終段落を先生が読み終わったと同時に終了のチャイムが鳴った。

「あぁ、終わっちゃった。仕方ない。プリントとかで埋め忘れた所無い?わからない所があったらおいでね。日直、号令お願い」

今日の日直は僕。声が変にならないように軽く咳をして声を整えてから声をあげる。

「起立、気をつけ、礼、ありがとうございました」

「「「ありがとうございました」」」

自分のやる気があるように聞こえる返事とうって代わり、全員が返事をすると、途端にやる気のない気の抜けた声がクラスに響く。

「はい。お疲れ様でした。帰り、気をつけてね」

川本先生はやれやれみたいな反応は一切しないで、背筋をしっかり伸ばし、優しい声色でピシッと言い切った。


「ねぇ、田嶋。明日金曜だったよね?あれ?違った?」

「いや合ってる。明日体育だから忘れないようにしないと」

「どうも、サンキュー」

放課後すぐに話しかけてきたのは自分の後ろの席の

近田くんである。


自分と背格好と雰囲気が似ている為か、比較的につるむようになった。名前のおかげで、体育や集会などの集まりで隣になるのはほぼ当たり前

でパートナーが組みやすい利点もあるため、仲良くなるのは早かったのだ。

家は自分と違って、近い方なので自転車で来ている。ゆっくりしていると絶対に遅刻する自分と違いゆっくり学校に来れるのはすこしうらやましい。

こっちは帰りも急がないと遅い帰りが更に遅くなる。明日のことを軽く聞いてきてから、彼はすぐに一階に向かうと他の同級生と保健室内で雑談を始めた。


彼はそこそこコミュニケーションが高いのにここへ来た理由は多分、自分と同じだろう。授業中は自分と少し違ってオロオロしていることがそこそこ多い、本当に勉強が苦手なのだろう。でもコミュニケーションが高いことが将来間違いなく役に立つ。ちゃんと卒業が同じように出来るかが心配だ。


なぜ自分の心配ではなく、他人の人生の心配をしているのだろう、僕は。僕だって対して今のところ立場は変わらないのに。


電車に遅れないよう下り坂を思い切り走り、駅の改札を抜ける。電車内に入ったのは出発2分前だった。

この瞬間をすでに一週間ほぼ毎日繰り返している。

辛いとか苦しいとかの感想はすこしずつ消えてきている。

今苦しいのは走った時の息切れぐらいである。

誰もいない電車内で息を整えて、窓の外に広がる最早なにも見えない夜景を眺めながら夜は更けていった。



金曜日。

一年生の金曜日の日は音楽一、二時間、体育三、四時間目という面白い時間割である。

音楽に関しては、4階の音楽室に移動と全日制と変わりようがないと思うが、体育に関しては違う。


基本的に体育は全日制だったらグラウンド集合が多いと思うが、定時制では体育館集合が多い。無論、グラウンド集合もちゃんとある。

寒い日は寒いが、苦は大きくない。理由はこうだ。


指定の体操服がないから、そう言う理由である。

普通、全日制とかだったら指定の体操服の類いを着て授業を受けなくてはいけないが、定時制ではそういう指定の服とかはない。

なので体育の時も全員の服装がバラバラなのである。


相応しい格好をすればそれで授業を受けられるのだ。

ただし、パーカーみたいなフードつきの物とか、ジーンズなどはダメだが。

ピアスや指輪もダメ。


裏地の温かいものを着て、授業にのぞむ。集合場所はグラウンドである。

ラジオ体操の後、屈伸、アキレス腱伸ばし等の準備

運動も兼ねてから始まる。

今日は持久走である。


持久走は嫌いではない。大抵の人は大嫌いと言うが、自分は好きだ。走るだけで終わるから。

二時間授業丸々すべて使ってタイム測定とランニングを行う。


「ヨッ!いつも通りよろしくな」

「あいよ了解」

近田くんが準備などが終わった後真っ先に自分に向かってきた。


いつも通りについてだが、自分が先に走り、後で近田くんが走るのである。その方が個人的に楽だからである。

楽なのは自分が終わった後、丸々タイムを測る為に、4時間目は自分にとって休めるからだ。

ちなみに3、4時間目は給食が終わってすぐな為、思い切り走るとキツイ。できるだけそうならないよう調整はするが。


男子1500メートル、女子1000メートルである。

自分の高校のグラウンドトラックは200メートル。

7周半と5周である。


問題はない。有るのは女子だろう。自分のクラスの女子人数は3人。化粧が薄いも濃いもあるが、自分のクラスの女子全員が化粧をしているのだ。

実際にグチグチ言っているものもいる。

言っているのは一番派手な見た目をしている土方ちゃんである。


「持久走キライ。面倒だなぁ・・」

女子は3人でチームを組んでいるが、それぞれ似たようなことを言い合っているが変わりはしない。

一部男子は女子を羨ましがってるんだよ。すこし走る距離が短いだけでだいぶ違うんだから。


そんなこんなで持久走は始まり、自分を含めた先行に走る組は、胃で消化中の給食のせいでヒイヒイしながら走りきった。肥満体型といえば本当に失礼だが、お腹の方がふくよかな人はだいぶ遅れてからゴールした。


体育の授業が終了すれば礼の後、すぐに帰って良いので体育用ジャージのまま帰ることにしている。

だいぶ休んだ、というよりタイム計測で長いこと立ちんぼだったため、運動の熱は冷めてしまっている。

裏地が温かいとはいえ薄いことと、夜の冷たい風で冷える。


指がかじかんで痛い。体操服を入れるための手提げ袋を持っていたが、肩の方に移し、ダメージを少なくする。

駅に着いたらトイレ内で着替えることにしている。

帰りはすこし遅くなるが問題はない。明日は土曜日。休みだ。


土日があければ、次の周から本格的に運命は動き出す。

運命といってしまったが有る意味で層かも知れないものだ。

それはゴールデンウィーク、学生などにとって危険で心変わりの時期でもある。


自分のこころはどうなっていくのか。クラスの皆はどうなって行くのか、心配事はまだまだ尽きなかった。











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