俺にはヒロインが必要だ!
3章 高校生というブランド
新しい朝が来た。人によっては希望の朝、絶望の今日といろんな言い方と意味になるであろう。
今の僕にとっては不安の朝だ。
起きた時間は午前6時。今までの生活を考えれば当然と言える。
中学校時代は同じ6時ぐらいに起きて歯を磨くなり、朝飯を食べて、出掛けるのは7時15分ぐらい。そんな生活を3年ちょっと続けたのだからその感覚はなかなか消えない。
僕の家族構成は4人家族だ。自分と妹。後は母親と父親。父親は6時半ぐらいには仕事に行ってしまう。妹は3歳年下で中学校に上がった。母親も10時前ぐらいにはパートの仕事に行ってしまう。
いつものように歯を磨いて身支度をするが、終わったのは7時前ぐらい。いつもと同じ。しかし今、自分が学校へいく時間は午後の4時程からである。沢山時間が余っている。
「いってきまーす」
妹が学校へ出掛けた。今までの普段着ではなく、近所の中学校の真新しい制服を着てだ。
全く嫌になる。自分が普通に努力をしていれば自分も新しい制服を着て、通学方法は違えどあんな風にしていたのに。
「・・・いってらっしゃい・・」
辛い気持ちを押さえながら小さい声で返事をする。妹は自分についてなにを思っているだろうか。やっぱ情けないよな、バカな自分でごめんな。
何をしようとどかんと時間が過ぎるわけではない。とりあえず今で好きな小説と、今となっては不要となった入試問題集の予習復習を取り出して勉強しようとする。後がなくて尻に火が付き、必死こいて勉強したのもあって今までなんとなくわからなかったところは少しぐらいなら理解と解き方はわかるようになったのだ。
予習をして、時計を見ると9時なったぐらいだ。
母親が仕事の準備を終えて、一階に降りてきた。ちょっと早めに出るつもりなのだろう。自分への気遣いだと思う。
「じゃあ、いってくるね。カギを忘れないでね」
うんと頷くと母親は続けて言った。
「難しく考えないで。大丈夫だから、頑張ってね」
優しく微笑みながら言うと仕事に出掛けていった。
玄関のドアが閉まる音がむなしい感じだった。
これで僕は一人。午前の9時半。全然時間は余っている。もうすでに出掛ける準備は整っている。書類は書き終わった、筆箱などが入った新しいリュックもある。
後必要なのは時間だけだ。母親が出掛けた後も勉強は続ける。もうあんな失敗はしたくない。定時制になったけどがんばるんだ。もう落ちこぼれにはなりたくない!そんな気持ちを心に持ち、予習をしていくのだった。
11時ぐらいになったぐらいだ。
集中力が曖昧になり、好きな小説やラノベに手が伸びてきた頃、自分のスマホが鳴った。
取って確認すると中学時代のオタク友達からのラインだった。時間的に授業中だが、休憩の合間なりに呟いたのだろう。
「アアッ〜。早起き辛いし、授業もムズイ!お前がうらやましいよ〜」
・・・なんだよ。こっちの心情も知らない癖に、と思いながら優しく返事を返す。
「いやいや。アンタのほうが羨ましいよ。ちゃんと制服着て行けてさ」
そう返したあと、二分ほどもせずに返事が帰って来た。
「そんなもんじゃないぞ〜。マジで。まぁ、今度の土曜日ぐらい遊ぼうぜ。連絡はまたするから」
わかったよみたいなことを返した後、スマホを置いて時計を見る。時間は11時13分。自分の通学時間を逆算しても十分時間はある為、外に遊びにいこうと思った。
思い立ったが矢先、すぐに軽い財布をリュックに入れてカギを持って軽く出掛けるのはことにした。家のカギを閉め、自転車をゆっくりと出し、ゆっくりこぎ始めた。
とりあえず古本屋に行き、手頃な本を探すがない。堂々とひやかしをした後、時間帯的に12時になるかならないかぐらいになったとき、自分の好きな所へ行きたくなった。
そう、ゲームセンターである。近道を自転車でスイスイ通れば5分もかかない。そんなこんなで、平日の真っ昼間に一人ゲームセンターに入る。
やっぱり自分ぐらいしか人はいない。自分はこの常連みたいなものなので、この時は羞恥みたいな気持ちはなかった。
好きな音楽ゲームを400円分プレイした後は、嫌な気持ちは吹っ飛んでいた。
気持ちを改めて、僕はゲームセンターを出ていった。
時間も午後3時になり、登校をし始める。自分の選んだ高校は田舎の定時制高校。自分の住んでいるF市からH市の電車を乗り換える必要があり、その電車は、30分か40分に一本ぐらいしかない。
乗り遅れると遅刻が確定するのだ。
ホームを乗り換え、止まっている電車に乗り込む。
やっぱり人数は時間帯的に少ない。
10分もすれば電車は動き始める。端の席に座り、リュックを盗られないように抱いておく。
電車が動き始め、自分の遅い登校時間が動き始める。
電車から見える景色が夕焼けになり始め、とても綺麗だった。田舎独特の畑の多い町並みが夕焼けに沈んでいくのを見ていくのは楽しい。
30分程かけて自分の目的地のI市に到着する。 目的地までは終点の為、乗り過ごしというのはない。
田舎をバカにするつもりはまるでないが、そこそこ駅は広くて綺麗である。
改札を通り、駅前の広場を去り、目的地の高校まで徒歩で15分。
途中の激安自販機で気に入ったカフェオレを買ってからまた歩き始める。
狭い住宅街を通り、目的の高校が見えた頃だ。
今の自分にとって嫌なものを見てしまった。
自分の通う高校、全日制の生徒である。男女の集団でこれから何処へ行くみたいなことをだらだら歩きながら話している。
本来なら僕も今あんな風に、この時間に下校している最中だったのに。あのときの自分の愚かな判断を憎みたい。しかしもう時間は戻らない。
他の人は制服なのに、自分は普段着姿。別に自分の普段着姿が恥ずかしいというのではなく、本来行くべき所でちゃんとした姿でないという、プライドのせいで本当に恥ずかしい。変に思われたくない。
僕は顔を見られないように下を向いて足早に校門の奥へ消えていく。
下駄箱で、自分の靴をしまい、2階の一年生ようの教室に入る。普通の全日制だったら一年生は一番上の4階だと思うが、定時制は基本的に4階建ての建物の場合、使うのは1、2、3階の三つ。1階は職員関係なのはそうだが、2階では、別の高校では違うだろうが、一年生と四年生、3階は二年生、三年生とクラスとなっている。4階は主に移動する場合、例えば音楽の授業のときだ。普段は使わない為、電気は着けない。だから真っ暗で足元が全く見えない。今は違うが。
出席確認は5時15分からでそれまでは時間がある。自分は今4時30分自分の教室にいる。ちなみに校門を通ってはいけない時間が定時制にはあり、4時ぐらいから通って良くて、それより早い時間には通っていけない。他の生徒などがまだ多く残っている為だとか教室をまだ使っているとか、理由があるからである。
時間が許す限り、自分の席で持ち込んだ小説を読んでいると、いつの間にか時間が30分も進んでいた。回りには大きな音もない。(音楽部の楽器の音はある)
5時になったのに、まだ誰も来ていない。
マジかよと思ったとき、自分の教室に誰か入ってきた。
「おはようございます」
とりあえず挨拶はする。基本だ。
「・・あっ・・おはようございます・・」
小さい声で返してきた。自分よりすこし背が高い人だった。まだちゃんと名前はわからない。
背の高い人に続き、ちょっとずつ廊下が騒がしくなり、教室に人が集まってきた。
「うっす。どうも」
「・・どうもおはようございます」
「どうも」
挨拶して入るもの、しないものがいながら、次々と自分の席へ座っていく。
チャイムがなる10分前ぐらいが大体他のひとが来るのだろうと思ったが、やはり遅刻するものもいる。
チャイムが鳴る5分前ぐらいに、先生がきた。
「おはようございます。・・・まだ来てないのは、土方と秋元か。後3分ぐらいで遅刻だな」
教室の黒板の上にある時計を確認しながら言った。
絶対に遅刻するだろうと自分は思ったが、その予想は外れることはなかった。
チャイムが鳴った後すぐに、その二人はきた。忙しそうに走りながらではなく、堂々とゆっくり、携帯を片手に持ちながらである。
ちなみに男と女である。どちらも髪を変な色に染めて、耳にはピアスをつけている。
「ちょっと二人とも遅刻!もう少し早く来い!」
先生が強めに言った。しかし男子の方が言い返す。
「ええ〜っ!まけてもいいじゃないですか〜」
かったるそうな声で言った。
「駄目だ、秋元。もっと早く来い。土方もな。ほら早く、ホームルーム始めます」
男の方、秋元はなんだよと悪態をつきながら、前の席に移動し、土方とか言う名前の女性も自分の隣、左の席に移動する。
「よし。じゃあ今日は自分が挨拶するから、秋元明日から宜しく。起立。気をつけ。おはようございます!」
「「「おはようございます・」」」
一年クラス。全員20人。やる気の感じない挨拶が響く。
これから本当に大丈夫かな。本当にどうなるんだ。僕の学校生活。僕の人生・・・。
最悪の気分からホームルームは始まった。