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カメルとクメラ

テセウスとの会合で驚いた事は、言語がこの世界独自のものを話せる事だ。

ふと気付いたような、「当たり前の事に驚く」そんな感覚に近い。

テセウスと対話した時、本来は言葉の壁に苦しむ筈だった。

日本語と古代ギリシャ語。会話が成立する訳がない。

……ん? その前のDQN?

……彼もそうだった気がする。なんと呼ぶか分からないが選別者は皆この言語を自然と話せるのだろう。

それもちゃんと言っておいて欲しかったなオクノメさんよ。


あと、またしてもこの身体の未知なる身体機能を発見した。

肩、脚と二ヶ所刺された俺だが、軽く痛みは残るもののものの二時間で傷が回復していた。軽く動くだけなら数分でできるし完治なら一日二日で済むんじゃないかと思うほどに回復が早い。

これは凄い。

これが選別者が戦うための身体(アバター)か。

関心しながら木々をかき分け進むと視界が開け、やや眩しい光景に眼を奪われる。


「ここがテセウスが言ってた湖か」


綺麗な所だな。人気はなく湖の周りを木々が囲んでいる所を見るとなかなかファンタジーな印象を受ける。

途中森にぶつかったがテセウスの情報は正しかった。

俺はまず周辺を見回り危険がない事を確認して血塗れになった服を脱ぐ。

軽くすすぐくらいで良いだろうか。どうせ落ちなくても匂いがなくなればそれで良い。


「あとは身体を洗って、ここで野宿するか」


この身体は睡眠の必要がない。だが夜に出歩けば肩から漏れる光ですぐ他の選別者に見付かるだろう。それは避けたい。

日は既に暮れている。ならば下手に動く訳にはいかない。


「はぁ、どこかに街とか村とかないもんかね」


最低限、屋根とベッドがある所で寝たい。

今日は初めて選別者に追いかけられ、古代ギリシャ英雄と言う有名人と、もう疲れた。

雨風凌げる小屋か家が欲しい。

あと正直人恋しい。

こう、殺し殺される間柄とかではなく普通に接せられる相手が欲しい。

昨日は我慢できたが、ただただ道を歩くだけの時間は退屈だった。

ああ、話し相手が欲しいなー。

元の世界と同じようにアニメとか漫画とかゲームやって、たまに子供の遊び相手になったり。

スポーツは得意じゃないが軽く運動するくらいは苦じゃないからな。うん。

やめろ。鬼ごっこで終始鬼だった小学生の記憶よ出てくるな。サッカーでボールを取れず同級生に弄ばれていた中学生の記憶よお前もだ。

……いいもん。この身体になって運動神経が上がったし。でもいつかは向こうの世界に戻るんだよな。

向こうでの願い事は運動神経の向上にするかな?

苦い記憶に蓋をして身体を洗って血を落とした後、近くで横になって寝た。





「お姉ちゃん!こっちこっち!」


「待って、……カメル!そんなに走ったら危ないわ!」


二人の子供の声がした。台詞からして姉弟か姉妹なのだろう。カメルと呼ばれた子は急いでいるのか興奮しているのか、どちらにしろ忙しない様子で足音をたてていた。

一方姉の方は疲れ気味で付いていくのがやっとと言うように息を荒げている。


「……ん」


俺は起き上がって声がする方向に眼を向けた。

すると二人の子供が、俺を見ていた。

俺よりもずっと小さい、十歳前後の少女二人。

肩に痣はない。つまりこの世界の原住民だ。

こちらに来て3日目だが、まさかこんなに早く出会うとは思っても見なかった。


「…………」


「…………」


「…………」


沈黙が続いた。子供達は俺を見て、どこか怯えた様子だった。

仕方ない俺から話しかけ……


「あの!」


「あ、はい」


先を越されてしまった。活発そうだから妹の方か。

なんだか覚悟を決めたような感じだったが。……ん? あっ、そうか。服に付いた血か。

仕方ないとは言え、そこのお姉ちゃん、そんな怯えられるとちょっと悲しいな。


「肩のそれ、選別者様、ですよね……!」


「カメル!」


様。そんな風に呼ばれるのか。


「え、知ってるの?」


「はい! 神様からの天啓で異界から選別者様が現れると聞いています!」


天啓? ジャンヌ・ダルクやナイチンゲールに降りたっていうお告げの事か?

そんな誰も彼もに降りるものではないと思うが。

いや、それは置いておこう。


「そうなんだ。……俺は浅野龍生。龍生って呼んでくれ。君の言うとおり選別者だ。君達は?」


「わたしはカメル、こっちはお姉ちゃんのクメラです!」


「ダメよカメル!」


妹のカメルと言う子は臆せず接してくれる。一方姉のクメラはそれを俺を恐れて止めようとする。

知らないおじさんには話しかけるなっていうのは常識だもんな。クメラちゃんの方が正しい。でもやっぱり傷付くよお姉ちゃん。


「大丈夫だよお姉ちゃん。選別者様がわたしたちを襲うことなんてほとんどないってバロス様のお告げだもん」


「少しはあるんでしょう!?」


う~ん、用心深い。

分からないこともないがお兄さんやっぱり寂しいよ。

それにしてもバロス……どこかで聴いた気がする。

あ、テセウスの担当神だ。名乗る時に言ってたな。


「別に襲うつもりはないよ。と言うか、そっちから会いに来たよね? 何か話したいことでもあるのかな?」


「あ、はい!」


「ないです!」


どっちですか。


「え~と、じゃあ、お話のあるカメルちゃん。なんだい話って?」


ムッと顔をしかめるクメラをよそにカメルは話を切り出す。


「タツキ様、わたしたちの村に来てくれませんか?」


おお、長い時間歩きっぱなしだったが、とうとう村の近くまで来ていたのか。

嬉しい提案をするカメルだがクメラは明らかによく思っていない表情だ。


「理由を聴いてもいいかな?」


「わたしたちの村を守ってほしいんです。その、カラム村って言うんですけど、主神戦争が始まってみんな不安そうにしてて、だからわたし選別者様に村を守ってもらえればみんなも安心するんじゃないかって思ってて」


ふむ、つまり俺に用心棒をして欲しいと。

だがクメラが割って入る。


「カメル、ダメ。そもそも選別者様には関わっちゃいけないのよ!」


「クメラちゃんだっけ? 酷い言い(ぐさ)だけど、そっちも理由を聴いてもいいかな?」


クメラに話しかけるとビクリと身体を震わせる。

少しだけ間があったが、俺の質問に答えてくれる。


「だ、だって選別者様は、選別者様同士で戦うって言ってました。……だから選別者様が来なければ村に被害は、出ませんし……」


まごまごと口ごもるお姉ちゃん。

確かに言えている。選別者は選別者を狙ってくる。ならそもそも関わらなければ村が危険な目にあうことはない。


「選別者が怖い訳だ」


「怖くありません!」


「ウソは吐かなくていいよ。俺も正直怖いからね。昨日殺されかけたしさ」


言うと、クメラは一層怖がり出した。最後のは余計な一言だったな。


「でもクメラちゃんの意見はあまりよくないかな。君の意見はいざって時に頼れる相手が居ないし、多分選別者に関わらないって言うのはまず無理だと思う。来るときは来るよ。邪な考えを持ってる奴に相手の意思は関係ないからね。見つかればそれだけで襲われるには十分だよ」


実際昨日のDQNはその類いだった。仮に彼が村を見つけたならどうなっていたか。


「じゃあ、わたしたちと一緒に来てくれるんですか?」


「カメルちゃんは逆に警戒心が無さすぎる。俺が悪い奴で騙そうとしてたらどうするんだい?」


「悪い人なんですか?」


「そうではないけど……」


この返答、彼女は純粋なのだろうな。これから多くを学ぶお年頃だ。


「でも、おとといここで見たおっきな選別者様の方が怖くて悪そうなお顔だったし、そっちの人よりは全然いい人そう」


テセウスの事だ。ここで子供達に見つかったのだろう。

うん。確かに怖い顔してるけどな。子供は正直だな。


「その人こそいい人だよ。昨日助けてもらったし、ここの場所も教えてくれたんだ。今度会ったら頼んでみたらどうだい?」


「そうなんだ。分かりました」


カメルはコクリと頷く。


「それで、村には来てくれますか?」


期待の眼差しが向けられる。やめてくれ。その視線は凄く痛い。


「う~ん、俺ははっきり言って戦えないから村を守ることはできない」


「選別者様なのに戦えないんですか?」


今度は姉妹揃って落胆と失望の視線が俺を刺してくる。やめてくれ!


「カメル、選別者様がこう言ってるし帰ろう」


手を引こうとするクメラ。


「でも、選別者様が来たら村のみんなは喜ぶハズだよ!」


カメルは抵抗する。よほど俺を村に連れていきたいらしい。


「カメルは子供だから知らないだけ。前の主神戦争でヒトツメマサムネが国一つ滅ぼした怖い伝説があるんだよ!?」


前の主神戦争? この代理戦争はこれが初めてではないのか?

って待ってヒトツメマサムネ? それ独眼竜の伊達政宗じゃないか?


「お姉ちゃんだって子供じゃない! ジャンヌダーク様が病気でくるしんだアルカンドの街を救ったってきいたことあるもん!!」


それも絶対ジャンヌ・ダルクだよね!?

何その悪堕ちした聖女みたいな名前。


う~む、段々姉妹喧嘩になってきたな。

仕方ない。


「……じゃあさ、村には行くよ」


「ホント!?」


「うん。だけど一日、二日だけ泊まったら出ていくからクメラちゃんも怖い顔しないでくれないかな?」


クメラの不安そうな顔は変わらない。しかし妹の輝かしい笑顔に圧され、うんうんと悩んだ結果、首を縦に振った。


「……分かりました」


「やった!」


こうして俺は彼女らの住む村に向かうことになった。





「ふぅ、一時はどうなる事かと思ったけど、なんとかなりそうだね」


浅野龍生君がカラム村の子供達と出発したのを見届けてボクは椅子を顕現させ腰を落ち着かせる。

いやぁ、まさか交信を途中で切るだなんて思ってなかった。

本当はもっと多くの説明をしなければいけなかった。今後の方針や、一番重要な『呪い』の事も。

召喚から二日後で他の選別者と出会い戦闘になることも予想していなかった。

しかも相性上最も警戒していた『狩人(ハンター)』とはね。

テセウスと言う選別者が来なければ彼は死んでいただろう。

それに彼はなかなかの手練れだ。『加護(ギフト)』も使わずあの怪力か。しかも向こうの世界の英雄とは。


「バロスもなかなか凄い子を用意したものだ」


彼は間違いなく優勝候補の1人だろう。

さて、できればこのまま西の方に進んで『彼ら』と合流してもらいたい所なのだけど。


「随分、焦った様子ね。オクノメ」


「やあ、スミズカリ」


ふと、ボクの後ろに女性が立っていた。

喪服のような黒い装束を身に纏ったボクと『同類』の慈愛の女神。


「まあね。説明途中で会合を切られちゃってさ。夢ってのは厄介だよね。他の神みたいにできない」


「そうね。苦労するわ」


彼女も溜め息を吐いている。彼女も今回の選別者に苦労しているらしい。


「そっちはどうだい?」


「かわいい子よ。話を聴いてくれないけれど『加護(ギフト)』もあるしそう簡単には死なないでしょう」


「やけに自信があるね」


「亡くなったピコスの選別者が使ってた『加護(ギフト)』を勝ち取ったのだもの」


ピコス。それはつい最近亡くなった主神であり、今回の主神戦争が開かれる原因となった神の事だ。

神は不老不死であり不死身の存在であり本来死ぬことはない。

自死でもなければ。

本来主神戦争は5000年周期で行われるものだが今回は前回から三千年しか経っていない。

今回は異例な開催なのだ。

そしてピコスが担当していた選別者の『加護(ギフト)』と言うと、彼を主神へと押し上げたものであり……。


「へぇ、奇縁だね」


「どういう事かしら?」


「ボクの選別者は『逃げ足(エスケープ)』だよ」


スミズカリは眉を上げる。

彼女の担当の『加護(ギフト)』と龍生君の『加護(ギフト)』には不思議な縁がある。

彼女はフッと笑った。


「確かに奇縁ね。是非ウチの子と会わせてみたいわ。ただ、『呪い』が心配なのよね」


「それ以上は良くない。そもそも『加護(ギフト)』と『呪い』の開示はルール違反だよ」


主神戦争は選別者を縛るルールはほとんどない。それは龍生君に説明したように「一般人の大量殺人の禁止」だ。

だがこの戦争は神を縛るルールが多い。

加護(ギフト)』と『呪い』の開示もその一つだ。選別者側で開示するか、他者が推測するかしかない。

少なくとも神同士での開示はルールに反する。


「私たちの間なら問題ないでしょう。ここは易々干渉できる場所じゃないもの」


「まあ、そうだね」


ここはボクら二人だけの場所であり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

ルール違反をしようとボクとスミズカリの間でなら発覚する事はまずないだろう。

ボクは龍生君に眼を向ける。


「あと27日。次の交信まで頑張ってよ。龍生君」

別に二人は夫婦とかではない。

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