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プロローグ:チュートリ

初めまして。三途アスクです。

絵も描いてるので挿絵も載せられたらと思ってます。

目の前に奇っ怪な男が居る。

黒い帽子に紳士服の、胡散臭い笑みを浮かべる飄々とした優男である。


「こんばんわ。浅野龍生(あさのたつき)くん」


「……誰?」


辺りを見渡せば、そこは教室だった。しかし俺が通ってた学校のどれとも違う。見知らぬ教室だ。

先ほどまで俺は……あれ、何してたっけ?

う~ん、思い出せん。


「ボクはオクノメ。君たちの住む世界とは別の世界で神様をしている者さ」


「アスガルドは滅んだって聞いたんだけど」


「そことも違う世界の神様だよ?」


そうか。神様か。よく見れば、いや一目で気付くものだがこの神、あぐらをかいた状態で浮いている。耳も長い。


……なるほど夢か。


オクノメと名乗った神は咳払いで気を取り直し話を続ける。


「ボクたちの世界では今、主神が亡くなったことで新たな主神を決める覇権争いが勃発しててね。で、紆余曲折あった結果、異界の、つまりキミたちの神様に頼んで人を寄越して代理戦争をすることになったわけさ」


「いや、神様の覇権争いで異界の神様に頼るってどう言うこと?」


「紆余曲折あったんだよ……それに世界(どひょう)が違うしね」


やはりいまいち信用ならないな。だが夢ならしょうがない。

でも宗教争い的な話はあまり好きじゃないしなぁ。適当なところで目覚めてみるか?


「まぁ、そんな訳で君らの神様総勢100(にん)にそれぞれ一人ずつ人間を選んで貰ってボクらをホストに『選別者』としてこっちの世界で戦ってもらう事になったわけさ」


ははぁ。つまり最近流行りの異世界召喚って奴だな?

で神様主催の代理戦争でこのオクノメとか言う神様の戦士として俺が選ばれた訳か。


「なるほど俺に死ねと」


はっきり言って無理だ。


「生き残って欲しいんだよね。一応トップを狙ってるからさ」


いやいや、俺自分で言うのもなんだが文科系の大学生のオタクぞ? ろくに運動もしていないのだが?


「と言うか誰だよ、俺を選んだこっちの神様って?」


「えっとねぇ、ボクが交渉したのは……確か伊邪那美大御神(イザナミオオミカミ)って名乗ってたかな」


「待って、めっちゃ大御所じゃねぇか!?」


説明しよう!

伊邪那美大御神 (通称「イザナミ」)とは夫の伊弉諾大御神 (通称「イザナギ」)と日本最古の夫婦ゲンカを引き起こした末「日に千人の日本人をくびり殺す」と謳った死を司る名高い女神様である!


「何でそんなビッグネームが俺をご指名するんだよ!?」


「テキトーだと思うよ? スゴ~く気だるげだったし」


おい神様。テキトーに選んでくれるなや。


「うん。だいたいの神様はそんな感じでテキトーに選んでたかな。なかには特定の子を推してくる神も居たから皆が皆そうって訳じゃないし」


「つまり俺は不憫枠か」


「……どうかな? そうでもないかもね。何せ気君がこの代理戦争に喚ばれたこと事態運が良いからさ」


「?」


運が良い? 何言ってるんだ殺し合いだろう?

と言いたげな俺を意に介さずオクノメは得意げに人差し指を突き立てる。


「では改めて説明しよう! この代理戦争は神々に選ばれた選別者100名で殺し合い、最後の一人になった瞬間決着するバトル・ロワイアルだ!」


ダダンッ! と足音を鳴らす彼に少しビビる。コイツ結構芝居がかるキャラだな。どこからかスポットライトまで照らされてるぞ。


「選別者には一人1つずつ神からの『加護(ギフト)』が与えられ、それを駆使して最後の一人になるまで生き残って貰う!」


だがちゃんと説明しようとする意志が見られるためにあまり口を挟みたくはないが、気になる単語に抑えきれず反応してしまう。


「『加護(ギフト)』?」


「そう! 選別者に与えられる特別な力さ! 人知を越える怪力! 魔法のような超能力! 不条理を覆すスーパーパワー! それが『加護(ギフト)』さ!」


おお、それは、異世界で無双できる能力が手に入ると!


「そして先ほど君が浮かべていた疑問符だけど、こっちで死んだ場合でも元の世界に戻れます!」


「おお! つまりノーリスクって訳か!」


「……そこは君らの神様の裁量次第かな。自分が選んだ人間が早期脱落とかしたらさすがに怒るだろうしね。最悪、戻ってから祟られる可能性もなきにしもあらず……」


「おい」


祟られんのかよ。イザナミの祟りとか怖すぎるわ。


「ただし、それも下位だった場合さ。上位に入ればそれなりに厚待遇でお迎えしてくれると思うよ。それに……」


そこでキラーン! とオクノメの目が光る。つまり次に語るのは……


「優勝すれば主神の力で願いを叶えてあげよう! もちろん一つと言わず、こちらとそちらの二つの世界でそれぞれ叶えてあげるとも!」


おお! そこまで言われたらなんだかやる気が出てきたぞ!

一回でも豪華なのに元の世界でもう一度願いが叶うとか超豪華では!? これが夢なのが残念だ!

……あれ、何言ってるんだ? 夢なんだから元の世界に戻ったらそれでおしまいだろう。願いも祟りもナシナシ。頭こんがらがってきた。夢ってそんなもんか。


「制限時間は実質無制限。つまり決着が着くか死ぬまでだ。それまではどれだけかかっても問題ないよ」


「そんな悠長で良いのか? 覇権争いだろ?」


「代理戦争をやる時点で皆承諾してるさ。神様は時間に無頓着なのさ。人間の100年、200年なんか神様にとってはあっという間さ」


なるほど。どうやら感覚の違いのようだ。


「こちらに喚ばれた君達の身体は普通の身体と違って老いる事はないし食事も必要ない。病気にもならない。でも寿命は100年。縮む事はないけど延ばす事はできるから長生きして生き残るって言うのも手だね」


ほう、隠居生活も手なのか。


「行動制限も特には……いやひとつあったな。現地人を殺さないこと。これは厳密には『やっても良いけどやりすぎ厳禁』ってこと」


「随分アバウトだな」


「『加護(ギフト)』によっては他人を犠牲に発動するものがあるし、あるいは単純にこちらの世界での生活で障害になる人間も居るからね。やむを得ず殺すなら仕方がない。でも愛しき信徒達を好き放題殺し回ったりされると神様としては見過ごせないんだよね~」


神は民が居てこそ神たれる、か。確かに道理だ。

いくら夢とは言え無闇に殺しはしたくないしな。


「じゃあ次行くよ。月に一度だけ神は選別者と会合し助言や戦況の報告ができる」


「作戦会議か」


「そう。ボクらは世界をくまなく見通せる。だから『近くに選別者が居るよ』とか報告できるし、戦場を見て今後こうしたらいいってアドバイスもできる」


「便利だなそれ」


「ただし月に一度だけだ。困った時にその都度相談、なんてできないから注意してね」


「あいよ」


「さて、ここからはお待ちかねの『加護(ギフト)』コーナーでーす!!」


「わー!」


パチパチ! 拍手を鳴らす。


「キミに与えられる『加護(ギフト)』はさぁて、どんな力かな?」


オクノメが指を鳴らすと、巨大なスロットマシンが煙の演出と共に現れる。

既に回っているスロットはオクノメがもう一度指を鳴らすと回すスピードを緩め、やがてピタリと止まった。

そこまで胸をときめかせていた俺だが、表示された文字に疑問符を浮かべざるを得なかった。

いや、待て。あり得ない。異世界チート能力がこんな、こんな「ショボい」はずがない。


「……『逃げ足(エスケープ)』、だと?」


「おめでとう! キミには戦線離脱におおいに役立つ『逃げ足(エスケープ)』が与えられた!」


「待って、ショボくない? 戦線離脱っつってもせめてテレポーテーションとか飛行能力じゃないの?」


「決まってしまったものはしょうがない。それに今言ったような『加護(ギフト)』はもう先に来た選別者に取られてるんだよね」


「つまんねー!」


チキショーめッ! この神、俺を殺す気だ!

こうなったらもう、目覚めてやる!


「……え、ちょっと何してるの!?」


教室が、いや世界が揺れ動く。覚醒を悟ったそこはさも世界が終わるかのように消えようとしていた。


「いや、これ夢だろ? ならもう目覚めて良いだろ」


「ダメだよ! まだ説明終わってないんだけど!?」


これが夢なのははっきりしている。なら眼を開けるよう意識すれば簡単に目覚められるはずだ。


「じゃあな」


「待って――」


最後に神に挨拶をして、俺は目覚めた。



あたりはすっかり朝だった。

柔らかい土の匂いと優しく頬を撫でる風……ん?

起き上がって辺りを見渡すと、そこは屋外で、しかも見たことのない芝生の丘だった。

俺は都会っ子だ。産まれてこの方田舎なんてほとんど行った事がない。こんな人気のない野原はテレビ以外で見たことがない。

頬をつねってみる。……痛い。


「もしかして……夢じゃない?」


とすると、あの神の話を切ったのはまずかったのではないか?


「……詰んだわ」


こうして、俺とその他99人による殺し合いが幕を開けた。

主人公、やらかす。

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