91イルゼ・ケーニスマルク
「お父様? エーリヒ兄様は上手く処分出来たのですか?」
「ああ、イルゼ…お前の言う通り、アレの処へ送った、だがいいのか? その、お前達は?」
クスっと笑うイルゼ、彼女の整った顔からは、何を考えているのかわからない表情になる。
「嫌ですわ、お父様…エーリヒ兄様は唯の…そうですね、セフレ、いえ、兄妹ですので友達ではないですわね。でも、別にイルゼは兄様なんて、好きでもなんでもありませんわ、ただ、上手だから関係を続けていただけ」
美しい少女のイルゼから信じられない言葉が紡がれる、しかし、それに父親であるベルンハルト・ケーニスマルクは眉一つ動かさない。
「凡人の私にはイルゼの考えていることはわからん。お前のおかげで我が領の経営は万全だ。だが、本当にいいのだろうか? エーリヒはお前の本当の兄、お前の頭脳なら、あやつを助ける手段を考える事もできたのではないか?」
「嫌ですわ、エーリヒ兄様ごときの為に骨折りをするのだなんて、それにエーリヒ兄様は最近、私の尻をぶつようになって、気分悪いですわ」
「し、尻を…」
イルゼの父、ベルンハルトはようやくこの兄妹の関係に正常な表情と言葉が吐けたようだ。
「それより、かつての別邸で、今は孤児院でしたか? 襲う軍勢の手配は整ったのですか?」
「ああ、腕のたつ騎士くずれや、冒険者くずれの荒くれ者達を雇った。それと、監視役に手の者を3人程放った」
「お父様にしては上出来ですわ。それにしても、エーリヒ兄様には困ったものですわ。性欲が強いにも程がありますわ。先日性奴隷のサシャを責め殺しそうだったんですって? 全く、畜生には漬ける薬はありませんわね」
「…ああ」
父親のベルンハルトは力なく返事する。何故なら性欲が強いのはイルゼも同じ…彼は娘のイルゼが兄のエーリヒとそういった関係にある事を知っていた。また、イルゼがただ、性欲の為だけにエーリヒと関係を続けていたのも知っている。それだけではない、彼女の通う学園では何人かと関係を結び、セフレと化している。
「お父様、エーリヒ兄様は処分したので、クローディアとかいう女はどうでもいいです。でも、リーゼだけは必ず殺してください。そもそも、あの女が死んでいなければ、何の為にグリュックスブルク家に麻薬密売の罪を着せて一族郎党死罪に追い込んだのかわからなくなります。全く、あの馬鹿なエーリヒ兄様のおかげで! リーゼを性奴隷になんてするから、主目的のリーゼを殺す事に失敗してしまったではないですか!」
リーゼの家を陥れた真犯人、それはリーゼの親友だったイルゼだった。
「お前は何故リーゼをそんなに憎むんだ? お前達は仲の良い親友だったんじゃないか? 一体何があったんだ?」
「私とリーゼが親友? そう、お父様までそう思っていたのですか? 嫌ですわ、私がリーゼとお付き合いをしていたのは、単に利用価値がありそうだったから…でも、それは間違いだった。あの女はキレ過ぎる。いずれ我が家の麻薬経営に気がつくと思ったから…」
ベルンハルトは実の娘に戦慄を覚えた。例え計算づくの付き合いだったとしても、友達を簡単に殺してしまおうと考える娘の思考に戦慄を感じざるをえなかった。彼女はまだ17歳なのだ。そう言った、貴族間の闇の社会の事を知るには早すぎる。
「なあ、イルゼ…これを機に麻薬に手を染めるのは止めにしないか? それに、今からなら、お前だって、麻薬から更生できるかもしれないだろ?」
「一体、何を言っているのですか、お父様? そうだ、お父様にも私が教えてあげましょう。麻薬を使ってする快感を、今日、如何ですか? お父様?」
「た、頼む…私は…お前とそのような関係には…」
ケーニスマルク家の闇…その中心は娘のイルゼにあった。父であるベルンハルトはそれなりに貴族の悪しき部分を持つ人間だった。いや、むしろ、ケーニスマルク家は長い間、国の闇の部分に関与しており、その闇と織は深いものがあった。だが、そのベルンハルトにすら、娘のイルゼの闇は許容できなかった。
「仕方ないですわね。その点、お兄様は何のためらいもなく私を抱いてくれたので、便利だったのですが、まさか、お父様にそんな良識があったとは驚きました」
良識…で済む問題ではない。兄のエーリヒと娘のイルゼはケーニスマルク家の長い間の闇と織の積み重なりが結晶となったものなのかもしれない。末の娘のリリーも殺人鬼となってしまった。その為、国王陛下に処断を委ねた。だが、リリーなどイルゼに比べればまだ可愛い方だ。エーリヒにしても、人を殺したり、性欲を満たすだけだ。だが、イルゼは違う、彼女がケーニスマルク家の経営に口をはさむようになったのは14の頃からだ。最初はイルゼの天才ぶりの狂喜したものだが、その悪辣ぶりに次第にベルンハルトは恐ろしくなった。そして、遂にイルゼは麻薬にまで手を染めた。簡単に効率的に稼げるからと言って…それで一体何万人の人々が人生を狂わされているのか? イルゼに人生を狂わされたのはリーゼだけではない。多くの人が犠牲になっていた。
「リーゼ…あなたと私…どちらの頭脳が上か、決着をつける時が来たわね、私は必ず勝って、あなたを断頭台に送ってあげるわ」
にやりと笑い、美しい顔を歪めるイルゼを見て、ベルンハルトは何かを悟ったように思えた。
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