69魔王
現れたのは魔王…褐色の肌、黒で統一された甲冑に、頭には大きな角。その角は通常の魔族と違い、大きく、後方に弓形に伸びている。風格は確かに魔王と呼ぶに相応しい。
「お前は仲間を殺して何とも思わないのか?」
「おまえは今まで食ったパンの事をいちいちおぼえているのか?」
僕は聞いた。信じられない。魔王はいきなり目の前の魔族を殺した。いくら魔王とは言え、仲間の魔族を殺すのだなど愚かだろう。
「魔族とは下等な者を嘲笑い、見下げ、侮辱し、辱める存在。下等な者をいたぶって何が悪いのだ? それとも…そこの血のシミになっている者に同情でもしているのか?」
「魔族とは言え、仲間なんだろう? 魔族というものは仲間でもそんな風に扱うのか?」
「ああ、もちろんだ。いいものだ…クハハハ…クソ共を見下すのはいい気分だ」
ギリリ、やはり魔王とは冷酷な存在。知識で知っていても、現物は各段に胸糞が悪い。
恐ろしいのは魔王が殺した事にあまり興味を持っていない事だ。まるで目の周りに五月蠅い蠅蚊が目に入り、振り払っただけとでも言わんばかり、何の興味も持たない様に見える。同族を殺しておきながら…
「お前たちにチャンスをやろう、互いに殺し合いをして生き残った者だけは助けてやろう、さあどうする?」
「断る」
僕は、ハッキリとそう答えた。
魔族は僕の目を見て、驚愕し、そして苦笑した。
「おまえは、もしかしてまだ自分が死なないとでも思っているのか?」
「当たり前だろう。僕達は勇者パーティだ。魔王を滅ぼすのが使命だ!」
「……」
しばらく魔王はじっとしていて、それから大きく息を吐いて、ゆっくり目を開ける。
「人間とは我の想像を超えるモノだ。愚かなのか…。勇気? これが勇気か? 無謀にしか見えんがな…」
「無謀かどうかお前自身の目で見るがいい」
「分かった。戦ってみるしかないようだな…」
それを皮切りに僕達と魔王の戦いが始まった。
僕とヒルデが同時に魔王に斬りかかり、後ろからリーゼが援護の魔弓をひき、ナディヤはバフの強化魔法を唱える。ロッテとナーガが攻撃魔法で攻撃するが…。
「我に普通の魔法等効くわけもない。お前…面白い剣を持っているな? 魔剣か? 悪魔の剣…。だが、我に傷一つつける事はできぬぞ。魔剣は悪魔の剣、そして我は悪魔の力で強化された魔族なのだから…。悪魔の力に対抗できるのは、天使か女神の力だけだ」
僕は焦った。僕もみなも魔王の信じがたい速度の動きにはついていける。しかし、リーゼの魔弓も僕の魔剣も全く魔王に傷をつける事ができなかった。だが!
「僕らは勇者パーティだと言っただろう? 勇者がいるんだ!」
「ほう、それが唯一の希望な訳か…ならば…」
魔王は突然消えた。僕の視界から、魔王が消えた。目の前にいた筈の魔王は、ふっと、突然、何の兆もなく泡沫のように消えてしまった。 そして、僕の視界に入って来たのは、ヒルデの目の前に現れる魔王だ…その手に何時抜刀したのか剣を持って!
「や、止めろぉおおおおおおおお!?」
僕は思わず叫んでしまった。僕だけが魔王の動きを見る事ができた。だから、ヒルデに向かって剣が振り下ろされるのがゆっくりと見えた。
「あ…あふっ!」
ヒルデが膝を地につけた。魔王はヒルデを剣で貫き、そしてヒルデを足蹴にした。
「き、貴様!?」
「これでお前達の勝機は無くなったな。さあ、どうする? みなで殺しあうか? 今なら最後の生き残りの命は助けてやろう」
「断固、断る!」
僕は尚も魔王に抗しようとしていた。それはヒルデから学んだ勇気。ここで逃げるのだ等考えられない。そうだ、早く魔王を倒せばヒルデを治癒の魔法で助ける事もできる。
だが、僕に待っていたのは残酷な現実だった。魔王は再び姿を消した。僕の目でも追いきれない位の速度で移動する。そして、
「う、うぐっ」
「アァ~」
「イヤァ~」
「ウワァ~」
たちまちリーゼもロッテもナディヤ、ナーガが悲鳴をあげて、膝を折る。みなやられた。
僕は覚悟した。僕が倒すしかない。例え命を刺し違えても必ず倒す。それがヒルデから学んだ勇気。この魔王を必ず倒す。
「うおォオ!?」
僕は掛け声と同時に後ろに飛び退き、遠距離で魔法を撃つ。僕の魔法は魔王には効かない、唯の目くらましだ。そして、魔王の攻撃魔法の術式に干渉して全て無力化する。
遠距離戦で決着がつかない事は重々承知している。魔王に魔法等効果はない、ましてやこの史上最強の魔王だ。このままでは当然不利だ。僕は接近戦にして迫ろうとするが、魔王は僕の足元を床ごと攻撃する。
瞬歩のスキルで回避すると魔王はニヤリと笑った。落下する途中では自由に身動きが取れないと思っているのだろう。だが僕は空中跳躍のスキルも持っている。
宙を蹴り、一気に魔王に迫る、その速さに魔王も目を剥く。
「滅びろ! 魔王!?」
僕の斬撃は空を切った。そして、魔王の剣が僕の脇腹を捉えた。そして…
終わった。何もかも…剣が僕の真上から振り下ろされ、僕を両断しようとしている事がわかり、僕は覚悟を決めた。
その時!
キンッ
涼やかな剣の音が聞こえ、誰かがいた。
「……引退した身だけど、少しは役に立つかしら?」
「お、お姉さん?」
そこには冒険者ギルドのお姉さんがいた。手には聖剣を持って!
「逃げなさい……。残念だけど、私達では倒せない…」
お姉さんは僕に逃げる事を促した。
「勝てない相手と戦うのは勇気じゃないわ。無謀よ」
「嫌だ!? 僕はもう逃げない!? 必ず勝つ!?」
その時、僕の脳の中に禍々しい声が響いた。
『…力が欲しいか?』
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