表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/105

41海の見える街アマルフィへ

僕達は南の港街、アマルフィを目ざしていた。車窓には既に海が見えてきた。初めて見る海に僕は年甲斐もなくはしゃいでしまった。窓からは青い海、白い壁に赤い屋根の家々が見える。いやが上にも南国気分になってしまう。


「もう、アルったら、子供みたいにはしゃいで!」


「ヒルデ、よく君はそんな事言えるね?」


ヒルデは窓に張り付いて、正座で窓にガブリよりだった。


空にはカモメが…なんてのどかなんだ…


「下僕は海に何をしにきたのかしら? 私達の水着でも堪能しようとでも言うのかしら、全く性欲を抑えられないのだなんて、一度死んでみる?」


「いや、リーゼ、こんなにのどかな風景を見たら、仕方ないじゃないか? 僕は海を見るのが初めてなんだ」


みなもうんうんと頷く、どうも海を見た事があるのはリーゼだけなようだ。王女様のヒルデでさえ、窓際に年甲斐もなくガブリよりの様相だ。


「みな、遊びにきている訳じゃない事はわかっているわね? ここには謎のダンジョンがあり、冒険者や騎士団が謎の失踪をしているの…しかも、ダンジョンの外で、事態がわかっているのかしら?」


「わかっているけど、まずは海で遊んでからでいいんじゃないかな?」


ロッテが海を見ながら、目をキラキラと輝かせて言っている。多分、みなの意見も同じだ。まずは遊びたいよね? 海だよ。


「それにしても、下僕はいつまで私に抱きついているのかしら?」


「いや、抱きついているの、リーゼの方だろ?」


実は今リーゼは僕の膝に乗って、僕の胸に顔を埋めている。なんでこうなったかと言うと、リーゼがお尻が痛いから僕の膝を貸せと言い出したのだ。確かに華奢なリーゼには辛いと思うし、他の女の子に頼むのもどうかと思えた。膝に座らせるといくら華奢で軽いリーゼでも、お尻への圧迫が尋常ではない。しかし、


「私はお尻が痛くて、揺れるのも嫌だから最善の方法をとっているだけよ」


「いや、もっともそうな事言うけど…」


膝を貸すだけでも、膝にリーゼのお尻の感触が伝わってきて、しまった、これはエロいヤツじゃないかと気がついた時には遅かった。しかも、リーゼは僕の膝に座るだけでなく、僕に両腕で抱き着いて、顔を僕の胸に埋めている。いや、近い、近い、流石に僕もリーゼに女の子を感じぜざるを得ない。その…柔らかい肌の感触とか、押し付けられたリーゼのささやかな胸とか、いい香りとか…


「まあ、リーゼがこれでいいなら、僕に異存はないよ。普通に僕の役得だと思うから」


「ご主人様…こ、こんな可愛くない私に優しくしてくれて…あ、ありがとう」


「えっ?」


僕は驚いた。もちろん空耳なんかじゃない。聞き違えた訳じゃない…リーゼの顔は僕の直ぐ目の前の距離なんだ。リーゼが僕の目の前でこんなに殊勝な事言ったのは初めてだ。


「リーゼ。今の言葉?」


「な、なんでも無いから!」


「いや! 今、凄く素直だった!」


「素直? 何を言っているのかしら、それでは私が素直な女じゃないと? 激しい鞭が欲しいのかしら?」


「でも、リーゼが初めて『いつもありがとうって』…今、言ったよね?」


「下僕は耳の調子が悪いようね。私がお礼なんていう訳ないわ、気のせいよ」


「え、でも……」


リーゼは顔を真っ赤にしていた。目の前にいて、リーゼがこんなに可愛いと思ったのは初めてだ。


宿舎で夜、よく叫んでいるところを聞くと、リーゼは言葉とは裏腹に僕の事が好きなのはわかるけど、今まで目の前であれを叫んでくれた事はない。デレている時のリーゼはとても可愛いのだ。


「それよりも、みんな気がつかない?」


「何だ? この音? それにこの香り?」


僕とリーゼのやり取りにみな興味を持っていたので、外の事がおろそかになっていたけど、


「何? この香り? なんかむせそう」


「これ、一体どういう事? これも謎のダンジョンの影響?」


リーゼに言われて外の事が気になると、外からはむせるような香りと、大きな聞いた事がない音が聞こえた。


「何だ? 聞いた事が無い音に、不思議な香り? 魔族か?」


「ふっ、初めての経験なのね、これだから田舎者の下僕は…」


僕はリーゼの毒舌にも関わらず、興味の対象が窓の外に言った。音は大きくなり、小さくなる、ざわざわと音は何度も聞こえる。


ザザーン、ザァザァ


「これが潮騒よ」


リーゼの言葉にみな一斉に窓の外を見る。


「こ、これが…海? なのか?」


「…素敵」


「き、綺麗…」


みなめいめいに感想を漏らす。それ程初めてまじかで見る海は新鮮だった。いつの間にか、海は遠くではなく、目の前にあった。どこまでも透き通るような青、ラムネのような水色をした海、抜けるようなコバルトブルーの海、翡翠色にまどろむかのような海。ああ、なんて綺麗なんだ。


「心地良い音だな…」


浜辺に波が打ち寄せると、波が崩れて海水が音を立てていた。さっきまでは魔族の襲来か? だなんて恥ずかしい事を考えていたけど、目の前に広がる白い波の美しさと、同時に聞こえる波の音に魅了された。


「潮騒が聞こえるって、言うのよ…下僕」


目の前に広がる青い海は潮騒の音を奏でていた。そして、リーゼはまた僕の胸に顔を埋めると、


『素直じゃなくてごめんなさい』


小さな声で呟くリーゼの声を僕は聞き逃さなかった。


まったく……素直じゃないんだから。

連載のモチベーションにつながるので、面白いと思って頂いたら、ブックマークや作品のページの下の方の☆の評価をいただけると嬉しいです。ぺこり (__)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「ちょっと面白かった!」 「島風の新作を読んでみたい!」 「次は何を書くの?」 と思って頂いたら、島風の最新作を是非お願いします。リンクがありますよ~☆ 読んで頂けると本当にうれしいです。 何卒よろしくお願いいたします。ぺこり (__)
支援職、最強になる~パーティを追放された俺、微妙なハズレスキルと異世界図書館を組み合わせたらえらいことになった。は? 今更戻って来い? 何言ってんだこいつ?~
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ