39悪の侯爵ダニエルの鬼畜は留まる処を知らない
国王陛下の不興を買い、侯爵家廃嫡の上、奴隷に落とされたダニエル侯爵…いや、底辺奴隷のダニエルは国王陛下の特別な計らいで一日だけ家族と過ごす事を許された。
しかし、憲兵に引き連れられて自身の家へ向かうその足取りは重かった。
自宅の豪奢な屋敷を前に、みすぼらしい恰好の奴隷ダニエルが門のベルを叩く。
「い、今、か、帰りました」
「良くおめおめと帰って来れたわね」
屋敷のドアが開き、妻が不愛想な声で、蔑んだような目で見る。
「……実は侯爵家がおとり潰しになったんだ」
奴隷ダニエルは本当の事を打ち明けた。随分悩んだ。流石にこの男も家族に言いにくい。
「……そう。おめおめと命を繋いで帰ってきたのね」
妻は驚くわけでもなく、淡々と毒舌を吐いた。
「す、すまない。だが、家族に奴隷になってもらわないと、俺の命がなかったんだ。俺の命がだぞ!」
いや、自分の命を差し出して長い歴史がある侯爵家が守れるなら、普通喜んで死罪を受け入れるだろう。国王陛下も温情でそうしたのだ。しかし、この男には恥という概念がなかった。
妻はそんなダニエルに驚くという事はなかった。日頃から家庭の中でも暴力を振るい、俺様で、妻の事も低く扱い、使用人からも尊敬などされず。絶えず人を陥れる事で自身を有利にする事ばかりに執心する彼に尊敬や愛情など持てる筈もなかった。
「ところで、先程離婚届けを出したから、直ぐに家族みなで出て行くわ」
ダニエルは驚いた。家族でみな奴隷になる。それは仕方ないとは思っていたが、出て行くとは一体? それに妻から突然突き付けられた離婚…
「ど、どういう事だ? 俺は奴隷に不当に落とされた。だが、お前らも奴隷に落とされる筈だ。俺の命を救う為なんだ。我慢してくれ」
相変わらずの恥知らずな言動にも、妻は動じる事も無く、妻は事情を説明した。
「実家のフェルディナンド家が動いてくれて、私達は奴隷落ちを回避できたの」
「そ、そうか!! でかした! これで私も奴隷から貴族に戻れるんだな!!」
ダニエルは自分のしている事を考えれば、妻が自分を救う筈がない事に気がつかない。
「何を言っているの? あなたは底辺奴隷よ。あなたと…そう、あの忌々しい娘だけは奴隷よ。全く、大人しく死罪を受け入れればいいだけなものを…。呆れてものが言えないわ」
「そ、そんな……ま、待ってくれ! 俺を助けてくれ! 俺が奴隷だなんておかしい」
ダニエルは妻に縋りつく、奴隷から逃げ出すにはそれしかないと思っているのだろう。
しかし、そういう問題ではないのだ。妻の実家も苦労して妻と家族を助ける事に成功したが、張本人のダニエルを助ける事などできない。そんな事をすれば、自分達まで国王陛下の不興を買う。そもそも、ダニエルが死罪を受けいればいいだけだったのにだ。
「お、俺だけ奴隷だと? そんな馬鹿な!!」
馬鹿なのは自分だろう。自分が責任を取れば、家族には寛容な容赦を与えるつもりだった国王の慈悲を台無しにしたこの男に赦しなど与えられる筈がない。むしろ奴隷がお似合いだ。
「エミリア、ハンナ、行くわよ」
妻が言うと、屋敷から二人の娘が外出着で出て来る。使用人も何人か連れ従う。
「エ、エミリア! ハンナ!! お前達は俺を見捨てたりはしないよな! 一緒に!!」
「一緒に奴隷になんてなる訳がないじゃない」
「そうよ、おまえはお母様に暴力を振るったり…悪い事ばかりして…」
まさか、妻だけでなく、娘達にまで見捨てられるとは思いもよらず、狼狽えるダニエル。いや、だから自分のした事を考えろ! 自身の命の引き換えに娘達まで奴隷に落とそうとしたのだぞ!! 娘達が元々なかった父親への愛情が更に冷めて、軽蔑しかないに決まっている。しかし、ダニエルにはそんな事もわからない。
「エ、エミリア! ハンナ!」
二人の娘に縋りつくダニエル、しかし、
「触るな! この汚らしい奴隷!!」
「ホント、二度と顔もみたくない!」
娘から罵倒され、はっきりと拒絶される。
「お母様だけがいればいい!」
「そう、あんたはいらない!」
そう言って娘達は母親の後ろに隠れる。この妻は、この男にはもったいない女だった。娘達の倫理感は普通であった。彼女がこの男の劣った遺伝子を教育で何とかしたのだ。
「そ、そんな……馬鹿な……」
ダニエルは妻と娘達に捨てられ、一人だけ底辺奴隷となる…。いや、一人ではない。
妻が去った後、ダニエルは離れに向かった。そこには妾に産ませた娘、リナがいた。リナは気まぐれで出入りの業者の女を暴行した時に孕んでしまった子だ。普通、金でも渡して認知なぞしない。だが、彼は一つの野望の為、彼女を娘として認知した。
「…そ、そうか…リ、リナだけは残っているのか? 俺にも運が向いてきたぞ」
ダニエルが身分の低い妾の娘を認知した理由…この男は実の娘を犯したいという鬼畜の野望をもっていた。正式な貴族の妻の娘にそんな事をすれば唯では済まない。しかし、身分が低く、娘とは言っても満足に教育も与えていない彼女を彼は性のはけ口に使用するつもりだったのだ。彼女もそろそろ、そういう事が可能な年頃になってきている。
この男の鬼畜ぶりは、まだ留まる事を知らない。
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