名探偵ブラック・サンタクロースの断罪
大雪に閉ざされた山間の洋館で、若いメイドが一人、何者かによって殺害された。
その日はクリスマス・イヴ。本来なら館の主人やその客人達がクリスマス・ツリーのある居間で夕食後の団欒をしているはずだった。三メートルはある壮麗なツリーの下には今、メイドの亡骸が横たわり、室内は陰鬱な空気に包まれていた。
ツリーのオーナメントに偽装されていたという鋭い刃物で胸をひと突き。ほぼ即死だった。
探偵役を買って出たルプレヒトと名乗る青年が、館に集った人々にそう語った。
「私が、犯人だと?」
館の主人はルプレヒトを睨みつけた。若々しい男性だが、今は車椅子に座っている。スキーで両脚を骨折したのだと本人は説明していた。
「君はこの脚が見えないのか? 凶器はオーナメントに偽装した刃物だったのだろう。骨折した脚で、どうしてあの高さのツリートップに手が届くというのだ」
「確かに、刃物はツリートップの星の付け根に仕込まれていた」
ルプレヒトは黒いコートのフードを目深に被り、チェーンのブレスレットをした手で煙草を口にやっている。
「……よくそれが分かったな?」
「何……」
「確かに凶器はオーナメントに偽装されていたと俺は言ったが、キャンディケインなり、キャンドルなり、手が届き易く刃物が仕込めそうなオーナメントは他にも沢山ある。そんな中よくツリートップを言い当てたもんだと思ってよ」
「き……聞いたのだ」
「へえ、いつ。ちなみに俺は現場を捜査してようやくその凶器を見つけた。現場は人の出入りを禁じていたし、俺は凶器のことを誰にも話していない。まさか事件の前とは言わねえよな。その時点で知ってるとしたらそれこそ犯人ぐらいのもんだ」
ルプレヒトは細く紫煙を吐き出した。
「……人殺しの悪い子は、あんただ」
次の瞬間、館の主人は叫びながら出口に向かって走り出した。
「おいおい、脚の骨折はどうしたよ」
館の主人に足払いをかけて床に転がすと、頭に麻袋を被せ、手足を手早く縛り上げる。
ルプレヒトはブラック・サンタクロース。
その仕事はクリスマスに悪い子を地獄の穴に連れ去ること。
「じゃあな、その他大勢。良い子にしてれば赤いサンタがプレゼントを持って来てくれるだろうぜ」
もがく館の主人を部屋から引き摺り出し、ルプレヒトは居間のドアに手をかける。
「メリー・クリスマス!」
音を立てて扉が閉ざされた。
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